ひょんなことから旅行に行くことになったラギ監の話*監督生は元の世界と行き来できるようになったが、高校はNRCのまま*
*ラギー・ブッチと付き合ってます*
「……え?高級旅館?」
ぽかんと口を開けて、学園に戻ろうとして持っていた手荷物をぼとっと床に落とした。
「そう!当たったのよ〜!でも、お父さんは行けないっていうし、お友達もこの日は予定があって無理って断られちゃったのよ。だからあげる」
「それで、なんで私……?」
「あんた、前に戻ってきた時彼氏も連れてきてくれたじゃない!ラギーくんとかだったかしら」
私は2年生に無事進級し、しばらくした頃に元の世界へ戻ることができるようになった。いや、正しくは"行き来"ができるようになった。
学園長があれこれ頑張ってくれたおかげで、元の世界と行き来することができるようになったために私はまだNRCに通っている。
自分のいた世界に戻ってきた時の両親の混乱っぷりといったら酷かった。一年以上失踪していた娘が変な仮面をつけた年齢不詳の男といきなり戻ってきたのだから。
両親の興奮がおさまった頃にいろいろ説明をして、進路についても納得してもらった。
今更元の高校に戻っても痛い目や世間体が厳しい、だからNRCを卒業してからこっちの大学を受験する。そういう条件で私は未だにNRC、オンボロ寮の監督生のままでグリムと2人で1生徒を続けていた。
行き来できるようになったから2、3週間に一度やホリデーの時は自分の家に戻ってくることにした。
有り難いことに学園の鏡と私の部屋の鏡を繋げてくれたからいつでも行き来はできる。ありがたい。
いずれバレることだろうと思って、今の学校で彼氏ができたことも伝えた。ラギー先輩も「もしできることなら挨拶したい」と言ってくれたので一度会わせたことがあった。
お母さんには「あんた!!こんなにいい男と付き合ってんの?!大事にしなさいよ!!」と大興奮だった。そりゃバイト経験や、国柄のレディーファーストのことをサラッと見せつければ親もそういう反応をするだろう。しかも口がうまいから親も親で喜んでるし。耳のことも説明したが「本当に異世界なのね……」というもの珍しい目で見ていた。親がタフで良かったなってこういう時に思う。
「お父さんと行こうと思ったらこれ、まさかの日付指定でね。流石にいきなりの有給は取れないって言われちゃったのよ。だからラギーくんと行きなさい」
少ししょんぼりとした様子を見せながら言う母。考えてみれば、私の両親は未だにラブラブだ。たまにデートに行ってたことを思い出せば、今回の懸賞に応募したのもお父さんと行きたかったからに違いない。
「でも、それ私が使っていいの?」
「若いうちにいろいろ見ておけば、楽しいでしょ?誰にも使われないより全然いいわよ」
そして説明書やパンフレットを渡される。内容をみれば記念日や特別なことでもない限り行けないような内容だった。
『豪華な露天風呂付きのスイートルームをご用意!』
この見出しに目が釘付けになる。露天風呂付きのお部屋って……なにそれ、素晴らしすぎる。
一瞬、ラギー先輩との旅行はラギー先輩に負担がかかると思ったけど……これなら大丈夫かも。
こっちの世界ではありえない、ケモミミや尻尾が彼にはある。それを隠しながら観光するのはしんどいだろうし、お風呂だってせっかくの温泉でも大浴場なら彼は入れない。これなら、ラギー先輩も少しはのんびりできる……!!
「ちょっと、ラギー先輩に話してくる」
「そのパンフレットたち、行くことが決まったら当日までもってて、もし無理そうなら持って帰ってきてちょうだい。他の人にあたったみるから」
「わかった。ありがとう、お母さん。じゃあまた今度ね」
手を振って、自分の部屋の鏡を通る。この、ぐわんと体が変に曲がる感覚は未だに慣れない。足を一歩踏み出せば、そこはオンボロ寮の自室だった。
「おかえりなんだゾ!」
「ただいま!はいこれ、ツナ缶のお土産」
「おぉ……!でかしたんだゾ!」
自分の世界で買った方がツナ缶は安いと気付いてから、いつも戻る度に買い溜めするようになった。沢山のツナ缶を抱えてルンルンとしているグリムを見て、クスッと笑う。
(さて……、ラギー先輩に連絡入れますか)
スマホを開いて、マジカメを開く。ラギー先輩とのトーク履歴を開いて、今日会えるかの連絡を入れた。
すぐに返信が来て「バイトの後、オンボロ寮に行くッス」と返ってきた。
チラッと時計をみれば、少し時間に余裕があったのでお土産に持ってきたお菓子たちを分けて、ハーツラビュル寮へ向かった。
エースやデュースにはスナック菓子、リドル先輩たちにはお茶会やパーティーの時にでも食べられそうなお菓子や紅茶をお土産に渡した。こっちの世界で売ってるものは珍しい上にとても美味しいため、喜びながら受け取ってくれた。
先生たちへのお土産は後日渡すため、再びオンボロ寮へと戻って談話室に行けば、すでにラギー先輩はソファの上に座って待っていた。
「あ、おかえりッス」
「ただいま戻りました。待たせちゃいました?」
「いーや、今さっき来たところッスよ」
なんて言いながら立ち上がり、ほら、おいでーと言われながら腕を広げられる。自分も腕を広げて彼の胸に飛び込んだ。
「久しぶりッスね」
「はい、お久しぶりです!」
ぎゅう、とお互いに抱きしめ合って擦り寄る。今回はホリデー期間の後半を実家で過ごしたから会うのはとても久しぶりだった。しかも何が辛いって、連絡を取ることができないのだ。やはり鏡で繋がっていても、電波までは繋がらないらしい。そのため、長く連絡を取れない日々が続いていた。
「あ、そうだ!!ラギー先輩にすごいお土産があるんですよ!」
抱きしめたまま顔を上に向けて、視線を交わす。こてんと首を傾げてはてなマークを浮かべている先輩から少し離れて、持ってきたパンフレットを見せた。
「じゃーん!見てください!」
先輩に見せながらソファへと移動する。ラギー先輩はソファの上へと座って、私は地べたに彼の足の間に挟まるように座った。
「こっちの世界の旅行に行きませんか?ちょうど日付も学校のおやすみ期間なんですよ!」
くるっと体を捻らせて、ラギー先輩の方へと向ける。