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    moldale912

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    ENNゆるワンドロ企画さまによる第5回お題【天気】。
    やったー!!皆勤賞~!!\(`・ω・´)/

    #SS

    ENN組ゆるワンドロ⑤(5/28)【天気】ざあざあ。
    ぽつぽつ。
    雨だ。豪雨とは言わないが、しっかりと降り注ぐ雨粒は窓を強く叩いている。
    空気中の湿度がほのかな雨の香りとなってナワーブの鼻をくすぐった。
    ナワーブは雨が嫌いではない。恵みの雨という言葉があるぐらいだ。故郷では雨は生活水の元になるし、作物を育て、時には家族の語らいの時間を増やしてくれる。
    もちろん戦場での雨は視界を遮り、体温を奪い、ぬかるんだ土は足跡を残すためあまり歓迎されないのだが。それはそれ、これはこれ。こと荘園では雨の日の試合はないため、なおのこと歓迎されるべきものだった。
    「だるい。あたまいたい。ナワーブさぁん、肩揉んでぇ」
    一部のサバイバーを除いて、ではあるが。

    あまり物が置かれていない殺風景なナワーブの部屋に、ノートンが分厚い鉱物辞典を持って訪れたのは朝食後すぐのことだ。
    ナワーブの部屋の棚にはすでにノートンが持ち込んだ彼のひまつぶしが我が物顔で居座っているのだが、今日新たな仲間が追加されるらしい。
    ヘレナから貰ったのだという栞を挟み、そっと棚に辞典を置いたノートンはベッドの上にごろりとうつぶせに寝転がった。
    窓辺で静かに雨を眺めていたナワーブは、大して表情を変えることなくノートンを一瞥する。
    「300エコー」
    「高い」
    「俺は傭兵だぞ?払えないならそのまま静かに転がっていてくれ」
    「イライさぁーん」
    傭兵がだめならばと占い師の名を呼ぶものの、当然この場にいないイライから返事は無い。
    しかしあの天眼持ちの男なら、呼んだかい?とひょっこり部屋のドアを開きそうでしばらくナワーブとノートンは黙って様子を伺ってみた。
    ざあざあ。
    ぽつぽつ。
    相変わらず聞こえるのは雨の音だけだ。
    「みんな使えないなぁ」
    ノートンがつまらなそうにベッドに顔を埋めた。今頃イライはどこかでくしゃみをしているかもしれない。
    「そう言うならイライの部屋に行けばいいだろう」
    実際にノートンはこの悪天候で不調なのだろうが、程度としては軽いようだ。症状がひどい時は部屋から出て来ず、声をかければ癇癪を起すのだから。
    ただ駄々をこねているだけだと知っているナワーブは呆れたように笑って言った。
    気づかれているとこちらも察しているノートンは、あくまでその姿勢を崩さず顔を埋めたまま返事をする。
    「あの人に中途半端に頼ると厄介なんですよ。めちゃくちゃに世話を焼かれてことあるごとに、今日は来ないのかい?って聞かれるに決まってる」
    今日は来ないのかい?の声真似が思いのほか似ていてナワーブは思わず噴き出した。
    「だから嫌です」
    「…ふふ」
    「何笑ってるんですか」
    「いや、よく分かってるなと…」
    「嫌でも理解しますよ。これだけ一緒にいれば」
    肩を揺らしているナワーブに、じとりとノートンは前髪の隙間から視線を向ける。
    特に三人それぞれがお喋りというわけではない。
    ただ共に試合をして、衣食住を過ごして、セックスもして。
    ここにあるのは決して友情や恋愛のような眩しい関係ではなく、傷の舐めあいと言うには各々のプライドがある。
    きっと荘園を出たら二度と会うことは無い、けれどこの荘園においてこれ以上しっくりと寄り添う相手はこれからもできないだろう。
    「そうだな……もうずいぶんと、お前やイライといる気がする」
    ただ隣にいるというだけで、例えようのない間柄になってしまった。
    ざあざあ。
    ぽつぽつ。
    またしばらく静かな間があいて、ノートンがごろりと横向きになる衣擦れの音がした。
    「飽きました?」
    「それが意外とそうでもない」
    ナワーブが即答すると、ノートンはにっと笑って上体を起こした。ベッドに腰かけて、だるそうにしながらも靴を履く。
    「良かった。ボクもね、まだ楽しんでるんですよ」
    「どこか行くのか?」
    「お互い二人だと物足りないでしょ?あと一人拾って来ます」
    そう、ノートンが立ち上がって伸びをした時だ。
    「呼んだかい?」
    廊下へ続く部屋のドアから、待ち望んだ三人目の声がした。
    とん、とん、と控えめなノックは何故かドアの下の方で鳴っている。
    「悪いけれど開けて欲しい。お礼に良いものを持ってきたから」
    ノートンががちゃりとドアを開くと、雨の匂いを掻き消すような甘い香りが入り込んだ。
    やあ、とひょっこり現れたイライが手に持ったトレーには、三人分の紅茶とアップルパイがみっちりと乗っている。焼きたてらしいアップルパイのピースはほかほかと湯気だっていて、ティーポットにはポットカバーが被せられていたがおそらく淹れたてだろう。
    「どうしたんだそれ」
    「女性陣の傑作を頂戴したんだ。もうほとんど残っていなかったから、君たちは運がいいよ」
    イライの頭の上に乗っていた梟が、誇らしげにホウと鳴いた。
    勝手知ったる部屋の中、イライはトレーを備え付けの机に置いて、手際良く紅茶をカップに注いでいく。
    3つ目のカップに紅茶を注いでいたところで、そういえばとイライは首を傾げた。思わず梟がパサリとノートンの肩に移動する。
    「私に何か用事だったかな?」
    「…相変わらずどこまで分かってるのか」
    「これでとぼけてるわけじゃないのが、らしいですよね…」
    何を言っているのか分からない、という顔のイライには気にせず、ノートンは最後の一滴までしっかりと淹れたカップを手に取った。
    ナワーブも窓辺から近づいて、自分の分のカップに手を伸ばす。
    「ひどいなぁ、ティータイムの使者を仲間外れにするなんて。ねえ」
    「ホ!」
    まるで主人の代わりと言うように、梟が恨みがましい目でノートンの方を見つめる。その視線に耐えかねたかのように、ノートンはふふっと笑い出した。
    「わかりました、わかりましたよ」
    「別に大した話はしてないがな」
    ナワーブも苦笑して話し出すと、それをきっかけに穏やかな時間が流れる。
    ざあざあ。
    ぽつぽつ。
    雨にも関わらず、三人で過ごす部屋の中は温かい。
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