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    moldale912

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    ENNゆるワンドロ企画さまによる第4回お題【あ、その表情好きだな】。
    どんどん短くなってきました。

    #SS

    ENN組ゆるワンドロ④(5/21)【あ、その表情好きだな】ノートンは食事が速い。
    幼少の頃から鉱山で働いていた彼は、食事に時間をかける習慣がなかった。さして味に富んだメニューだったわけでもないことも理由の一つかもしれないが、味わうという行為をあまりしてこなかった。
    今もまた夕食の時間に、食堂へ集う仲間たちの中で黙々と食事を進めている。当然マナー
    イライやナワーブも決して遅い方ではないが、同じように食事を取りだして最初に皿の上を片付けるのはいつもノートンだった。
    骨付きチキンの肉を歯で引きちぎり、こんもりとスプーンに乗ったマッシュドポテトを口で迎えに行くように食べ、マグカップに入ったコンソメスープで流し込む。
    一口が大きく、咀嚼もそこそこにごくりと飲み込む姿は男らしい。
    「相変わらず惚れ惚れする食べっぷりだな」
    そう言うナワーブも従軍時代には短時間で食事を取るように訓練されていたため、十分早食いではある。しかし、それはあくまで軍に身を置く者として必要だったからだ。
    時間に余裕があるこの荘園では、むしろ食事を娯楽の一つと見ているのか、ナワーブは周囲にペースを合わせている所がある。
    実際、今も彼の皿の上には、イライのものとさほど変わらない量の料理が残っている。
    「そうですか?イライさんも大きい口で食べてて可愛いでしょ」
    「かわ……!?」
    「んっ…くく…」
    イライも一口は大きいのだが、如何せん飲み込むのに時間がかかるようで、口の中いっぱいにして懸命に咀嚼していることが多い。
    荘園に来たばかりの頃はもっとマナーを気にして食事をしていたようだが、気が抜けたのか、それとも一部の豪快な食べっぷりに影響されたのか、最近では年相応の青年らしい食べっぷりを見せていた。
    コップの水をごくごくと飲んで口の中の料理を飲み込むと、イライは恥ずかしそうにノートンを見る。
    「かわいい…のかい?」
    「リスみたいで」
    「えぇ…」
    ノートンの脳裏には頬袋いっぱいに木の実を詰めたげっ歯類の姿が浮かぶ。
    目隠しの下で困惑した顔をしているイライに、ノートンはサラダのブロッコリーをフォークで刺すと、すいっとイライの口元に持っていった。ドレッシングがほんの少し零れてしまう。
    イライが慌てて差し出されたブロッコリーを口の中に迎え入れると、ノートンはふふと満足そうに笑って他の野菜を食べ始める。
    もしゃもしゃと葉野菜を食べながら、再び現れたブロッコリーを同じようにイライの方へ持って行った。
    「ふぁいどうほ」
    「んっ、…ノートン、口の中に物が入ってる時に喋らない」
    そう言いながらもイライはまたもやノートンから貰ったブロッコリーをぱくりと口に入れる。
    「お行儀良く食べるような所作は身についていないもので」
    「…ブロッコリー苦手なのか?」
    「いや?好き嫌いは無いですし、何でも食べますけど……あーんしやすそうなのが他に無くて」
    皿の上をからんと片付けたノートンは、今日の食後のデザートであるカスタードプディングを手元に引き寄せた。
    こげ茶のカラメルソースがかかったそれは、ぷるぷると揺れていていかにも美味しそうだ。
    続いてナワーブが、そしてイライもまたデザートに手を付け始める。
    一口食べては幸せそうに微笑むイライに、ナワーブが何とも言えない優しい顔を向けた。
    その時、ふとイライがノートンの手元を見て口を開いた。
    「ノートン、それ好きかい?」
    「え?」
    先に食べ始めていたノートンは、既に最後の一口を食べようと口を開いていた所だった。
    「ほら、いつも豪快に食べるけど好きなものの時はゆっくり味わうだろう?」
    ノートンの手がぴたりと止まる。
    見れば大きな身体のノートンが、繊細なデザートスプーンで一掬いしたカスタードプディングは、カスタード部分とカラメルソースがちょうどいい割合になっていた。
    それを指しながら、イライはふふ、と微笑んで続けた。
    「だからそのカスタードプディングも大好きなんだろうなぁって」
    あぁそうだ、とイライが先ほどのお返しにと言うように、スプーンで掬ったカスタードプディングをノートンに向ける。善意のみの、慈愛に満ちた笑みのまま。
    「はい、私のもあげよう」
    ノートンもこれにはかあっと上気した頬を片手で隠すも隠しきれず、悔しそうに横を向いた。
    言い返したいが、確かにそういった癖はあると自覚がある。そして実際このカスタードプディングは美味しかった。
    言い当てられた以上、否定する方が負け犬じみていて癪だったのだが、このまま口を開いてしまうのも抵抗がある。
    ノートンの口にぎりぎりと力が籠もっている、その時。
    「あ」
    「あ?」
    「あ“?」
    突如、会話を断ち切ったのはナワーブの漏らした母音だった。
    「その表情好きだな」
    数秒後、ノートンがさらに歪んだ表情を見せたことは言うまでもない。
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