Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    moldale912

    @moldale912

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    moldale912

    ☆quiet follow

    一次小説の冒頭です~。
    とりあえずできたとこを上げる。
    まだ先は色々未定ですので変わる可能性大ですが、もし良かったら。
    現代イギリス・少し不思議話・多分兄弟ブロマンスもの。

    #オリジナル
    original
    #小説進捗
    novelProgress

    わたしとワルツを(仮)ああ、また黒猫があたしの前を横切っていく。
    ステラは一つ溜息をつくと、歩みを止めて周囲を見渡した。
    Tシャツの上にジャケットを羽織り、パンツスタイルにパンプスを履いて。仕事の書類が入ったトートバッグを重そうに担ぎなおす。長く明るい金髪は高い位置で一つに束ねられており、首を振るたび尻尾のように揺れた。
    街頭が照らすロンドンの街並みは普段と何も変わらない。ただ闇夜から黒猫が一匹するりと現れ、駆け抜けていっただけだ。人通りも多く、皆一様に仕事終わりの疲れた顔をしているありきたりな帰宅時の景色だ。
    しかし、ステラの顔はまるでホラー映画でも見るかのような、これから何か起こるに違いないという緊張を含んでいた。
    通行の邪魔にならないよう、彼女は適当な壁際で立ち止まっている。
    数分して、突如ガラスが割れるような音が響いた。
    ああやっぱり、と音のした方角を見ると、どうやらアパートの上階から植木鉢が落ちたらしい。
    幸運にも怪我人はいないようで、一瞬どよめいた周囲の人間は興味を無くしたように再び歩き出す。やがて植木鉢の持ち主らしき女性が慌てた様子で現れた。
    「誰も通ってなくて本当良かった…」
    その呟きを聞いて、ステラはまた小さく溜息をつく。
    本当ならば彼女はちょうどその場所を、植木鉢が落ちたタイミングで通っていたのだ。
    心の中で黒猫に感謝しながら、ステラはよたよたと歩き始めた。
    痴漢にあう。泥水を被る。看板が倒れてくる。スマートフォンの充電が切れる。もっと細かく思い返せば両手で足りないほど、ここ一か月の不運は多い。
    ああ神様、ステラは何か不敬を行いましたか。
    普段祈らない神にさえ問いたくなるほど急激な運勢の低下に、いよいよ睡眠も危ぶまれていた。結果、仕事も上手くいかず、帰りが遅くなり、疲労が貯まる。幸い明日は休みだ。家から出ないで大人しく気力を回復させようと、足早に帰路についていた所で今度は植木鉢が落ちてきた。
    正直頭を抱えて蹲りたい気持ちだった。留まる方が安全なのか、動く方が良いのかも分からない。すぐにでも家に帰りたいが、今タクシーにでも乗ろうものなら何が起きるか分からない。
    そんなステラが疲れた身体をどうにか動かしていると、みゃん、と小さな鳴き声が聞こえた。
    おそらく先ほど通った黒猫だ。深い緑の瞳を見開いてステラを見つめている。
    よく見ると瞳と同じ色の首輪をしていた。飼い猫だったのか、とステラが黒猫の前にしゃがみ込むと、甘えるように足に擦り寄ってきた。
    「……さっきはありがと。あなたのおかげで助かったわ。まぁ、そんなはずはないんでしょうけど」
    ステラはぐるぐると喉を鳴らす黒猫を撫でる。
    数回撫でると、満足したのか黒猫は足元から離れていった。そのまま後ろを振り返りながら歩いていく。まるでついて来いと言わんばかりに。
    「なぁに?集会にでも連れていってくれるの?」
    疲れた頭はどうとでもなれと適当な判断を下した。ステラが黒猫について歩いていくと、ほんの数十メートル先の角を曲がり、バーやパブが並ぶ賑やかな通りに入る。
    そのうちの一件のパブのドアに、黒猫はすりすりと身体をこすり付けた。店の人間もいつものことなのか、迎え入れるようにドアを開く。
    「おーおー帰ってきたのか」
    みゃあん。と黒猫はエプロンをつけた男性店員に一鳴きすると、店には入らずステラの所へ寄ってきた。
    「え、あっ、ええっ?」
    「お姉さん、お客さんかい?」
    「いやその、この子についてきてしまって…」
    「ああ、よくあるんだよ。気に入った人を連れてきちまうんだ。せっかくだし良かったら一杯どう?」
    商売上手な猫だ、とステラは足元を見つめた。黒猫はどうして入らないのと首を傾げていて、なんとなく帰りづらい。
    それでもこれまでの不運に比べれば可愛いものだと、ステラは黒猫を一撫でして店に入った。
    店の中は思っていたより客が多い。数人で談笑していたり、一人で静かに飲んでいたりと様々だが、大して煩いわけではなく居心地は良さそうだった。
    ステラと共に店に入った黒猫は当然のように奥の席に座る男性客の隣の椅子に飛び乗った。
    一人で飲んでいた男性客はそれに気づいてにっと笑い何やら黒猫に話しかけている。
    一人と一匹が仲良くしているのを見ると、店に入った途端素っ気なく扱われたようで、なんとなく面白くないステラはエールを注文しながら頬を膨らませた。
    「もうあたしのこと興味無いのかしら…」
    「ははは!そういうわけじゃない、あそこの客が一番のお気に入りなんだ。あいつを起点にうろうろしてるよ」
    「あの猫ちゃん、名前は?」
    「スモーキー。煙草と香水の匂いが好きな雄猫だよ」
    よく見れば、奥の席の男性の前には吸い終わった煙草が数本乗っている灰皿がある。
    「お姉さんは吸う方じゃなさそうだが、一応あそこの柱から向こうが喫煙可能、手前と地下は禁煙スペースだ」
    屋内禁煙が主流のロンドンだが、どうやらこの店はまだ分煙しているだけのようだ。
    ステラはありがとうと礼を言って、黄金のエールが入ったグラスを貰う。
    せっかくだからあの猫に挨拶をして、これを飲んで帰ろう。そう思って幾分煙の匂いが濃いい空間に足を踏み入れた。
    男性客はステラに気づいたのか、黒猫に向けていた視線を寄越してきた。
    どことなく猫に似た人だとステラは思った。ステラと同じく二十代だろうか、しかしもう少し若くも見える。黒い髪をオールバックにしていて、緑の眼が綺麗に見えた。大き目の緩いシャツを着て鎖骨も覗いているが、細いという印象は無い。
    「こんばんは、スモーキーちゃんに挨拶して良いかしら」
    ステラが首を傾げて尋ねると、男性は微笑んでどうぞと肩を竦めた。
    小さなテーブルに椅子は二脚。ステラはエールをテーブルに置くと、黒猫を抱き上げて椅子に座った。抵抗しない代わりにスモーキーはみゃあと一鳴きする。
    「なんだ、お前また客引きしたのか?」
    テーブルに肘をつきながら、男性客はくすくすと笑った。
    「本当によくあるのね…まんまと連れてこられたわ……」
    「擁護するわけじゃないけど、良い店だよここ。煙草が吸えるし」
    そう言いつつも彼は新たな煙草を取り出そうとはしない。
    「よく来るの?」
    「そうだな…、この時間ならこの辺の店のどっかにいる」
    「え、毎日?」
    「好きなのと、一応仕事で。…別に売りじゃないよ」
    ステラの訝し気な視線に気づいてか、男は手を振って売春を否定した。
    夜職にしても決まった店を持たないなら、他に何なのだろうとステラが警戒しているのを察して男は苦笑する。
    「そうだなぁ…相談かな。いろんな奴の話を聞くのがお仕事」
    「話を聞く…?」
    「聞くだけでいい奴もいたり、解決策を考えて欲しい奴もいたり……」
    「それでお金貰えるの…?」
    意外とくれるんだよ、と男は親指と人差し指で丸を作ってみせた。
    「と言うわけでお姉さんのお悩みも聞くけど、どうする?」
    まるで見透かされているかのような言葉にステラは急に居心地の悪さを感じた。悩みを抱えてはいるものの、恋愛相談や将来の不安とは違うのだ。急に運が悪くなっただなんて話してどうなると言うのか。それも赤の他人に。
    「……特に話すようなこと」
    「気をつけないと次は当たるよ」
    食い気味に発せられた言葉に、ゾクリ、とステラは背筋が粟立つのを感じた。
    「植木鉢じゃないのがね」
    はったりではない、そう確信したステラは椅子からガタリと立ち上がった。腕の中で微睡んでいたスモーキーは驚いて飛び出すと、テーブルから離れて行く。
    男は静かにステラを見つめているだけだが、本当に彼女を透かして何かを見ているようで、思わず両腕を抱いた。
    「こらセス、お客さん怖がらせるなよぉ!」
    さっきの店員がカウンターから声をあげた。よくあることなのだろうか、何か種があるのか、ステラが混乱していると、セスと呼ばれた男はごめんごめんとやんわりと笑って椅子を勧めた。
    「セス・フォード。お金を払うかどうかは後で決めてくれたらいい」
    そう言って、セスは一本の煙草に火を点けた。


    【わたしとワルツを】


    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works