ホワイトデーのプリマ・ステラ 今日はホワイトデーだ。一ヶ月前のバレンタインデーに颯砂とイノリと三人揃って彼女からチョコを貰ったため、人気のスイーツ店で買ったスイーツを三人で渡した。俺たちが選んだ人気のスイーツに彼女は喜んでお礼を言い、俺たちからも彼女に改めてバレンタインのお礼を言う。
「『一番』気持ちのこもったチョコを俺にくれてありがとな」
「一番?」
俺の「一番」という言葉に彼女は首を傾げる。
「ほんと、リョータ先輩、そういうとこ……」
「玲太の常に自分が一番になりたい願望は相変わらずだな」
呆れたような表情のイノリとからかうように笑う颯砂にうるさいと一言。去年のクリスマスパーティーで、正装した俺たちの中で誰が一番かっこいいのか彼女に聞いた時のことを思い出す。あの時も彼女はそんなこと急に言われても困るよ、と誰が一番かはっきり言わず、結局彼女の気持ちは分からずじまいだった。
「ま、バレンタインの時も玲太はきみからのチョコ、相当期待してたからさ」
「そうそう。一日中そわそわしてた。今日もすごく張り切ってたし」
「そうなの?」
彼女の気持ちを知るどころか、この一ヶ月の俺の様子を彼女にバラす颯砂とイノリ。おまえらこそ、そういうとこ……。
「うるさい。ほら、早く帰るぞ」
この話はもう終えて、さっさと下校するように促す。そのまま四人で帰り、途中で颯砂とイノリと別れると、家が近所の俺と彼女の二人になる。彼女は相変わらず俺たちからのホワイトデーのお返しを嬉しそうに眺めていた。
「ほんとにありがとう。三人で買ってくれたの?」
「ああ、俺たち三人ともおまえから貰ったからな」
「だって、みんなにはいつもお世話になってるから。あっ、みんなからお返しが欲しくてあげたわけじゃないよ?」
「はいはい。分かってまーす」
彼女がそんなに喜んでくれるのは嬉しいが、俺たち三人からとなれば、お礼も三等分されているように聞こえてしまう。彼女の喜ぶ顔が見られれば良かったはずなのに、颯砂やイノリが言うように彼女の一番になりたい願望がどうしても出てしまう。
「でも、ホワイトデーにこんな素敵なお礼がもらえるなんて嬉しいな。玲太くんのチョコは一番頑張って作ったし……はっ」
と、彼女は言いかけてはっとする。今、「一番」って言ったよな……?
「俺が一番?」
「だって、アイシングクッキーなんて初めて作ったから。玲太くんみたいに上手に作れるか心配で……」
「アイシングクッキーって、かざぐるまのか?」
彼女からの俺へのバレンタインチョコにはかざぐるまのアイシングクッキーがトッピングされていた。アイシングクッキーはイギリスにいた頃、母さんによく作ってもらい、俺も作り方を覚えて、去年のホワイトデーに彼女にも作った。そして、今年のバレンタインに彼女も同様にアイシングクッキーをトッピングに使っていたことに驚いた。しかも、俺たちの思い出のかざぐるまの形で。
「うん。玲太くんのはどうしてもそれが良かったから……」
頬を赤らめて彼女は言う。そんな彼女が俺のためにと頑張って作ってくれた様子が目に浮かぶ。なんだよ、やっぱりおまえもそうなんじゃん……。
「『一番』気持ちのこもったチョコを俺にくれてありがとな」
「うん……!」
もう一度彼女にそうお礼を言うと、今度は彼女も大きく頷いてくれて、彼女の手にそっと小さな箱を乗せた。中にはスノードームが入っている。
「えっ? 玲太くん、これ……」
「俺からもう一つ。あいつらの前じゃ渡せなかったけど、おまえにだけ特別」
あいつらと三人で渡すのとは別に俺個人から彼女に密かに用意していたものだった。俺の「一番」はいつだっておまえだから。
「ありがとう、玲太くん」
今、この瞬間、彼女が俺にだけ向ける笑顔は何より一番輝いて見えた。