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    amaneazumaa

    @amaneazumaa
    使い方の練習も兼ねて書き散らかしています。
    魔道祖師はアニメ、陳情令視聴。翻訳版原作読了。ラジドラ未履修。江澄の生き様にもんどりうってる。

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    amaneazumaa

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    双傑に夢を見すぎではとなりつつ夢は見たモン勝ちなので良いんだよとなりつつのとりあえず小説の体裁が完了。
    そのうち肉付けして校正してまとめてからpixivに上げます。上がる筈。

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation
    #魏無羨
    WeiWuXian
    #江澄
    lakeshore

    ともしびを手に 6腹もくちくなりさあ出発と、二人は銅陵を後にして西へと向かう。しかし星の巡りが悪いのか、銅陵を出てしばらくもしないところで、小さな荘が妖怪に襲われている場面に出くわした。
    無視する訳には無論いかず、二人して荘に降りたって妖怪退治となった。
    村に出た妖怪は欽原と呼ばれる蜂に似た妖怪で、刺されると鳥獣は死に木々は枯れる。さらには群れを作りその数も多いという妖怪である。
    剣で一匹一匹を切り殺すのは面倒な欽原は、火を使って退治をする。蜂と同じような薄い羽を火で焼き、地面に落としてから始末をするのだ。手順さえ踏めば時間は掛かるが脅威ではそれ程でもない妖怪である。
    退治の手法に倣い二人は符術で欽原の羽を焼いて回っていたのだが、一向に減らない数に魏無羨が悪い癖を出した。効率を上げるべく広範囲を焼いてやろうと、霊符をその場で書き変えたのだ。
    結果、火力は上がったが上がり過ぎたのと指向性を持たせたことにより、大層凶悪な火炎放射器が出来上がった。凶悪な化炎放射もどきで欽原は羽どころか丸ごと丸焼きとなったので、見事に全滅させて荘の人々は守ったが、ついで操縦を誤って江澄も丸焼きにしかけたので喧嘩となった。
    喧嘩で時間を食ってる場合ではないと二人が気が付いたのは、昼頃に銅陵を出てから一刻以上が経過してからであった。決着は蓮花塢に戻ってから付けるぞといったん休戦をすると、後は銅陵に修士の一行が来ているからそちらを頼れと言い残して、再び剣に乗り朱家荘を目指した。
    そして一刻ほど飛び、二人はようやく朱家荘に到着したのであった。



    「やっと到着したな」
    目的地である朱家荘に到着し、二人は荘の入り口で剣を降りると江澄が大きく嘆息を吐いた。夏至を過ぎてしばらくのまだ日の長い時分であるが、太陽は既に中天から大分傾く時刻であった。
    「行くぞ魏無羨」
    赤みを帯びてきた太陽に照らされる質素な木戸を潜り荘の中へと足を踏み入れる。朱家荘は長江沿いにある都邑、安慶のほど近くだが、交通の便が悪いため鄙びた小さな荘であった。
    銅陵のような都邑とは違い、入り口から伸びる通りに天幕を張った屋台の姿は見えない。道幅も狭く見知らぬ二人の様子を伺う、通りを行き交う人の姿もまばらであった。
    「ここが朱家荘……」
    「何か思い出したか」
    「いや……なんにも」
    江澄の言葉に魏無羨は首を振る。
    実を言えば僅かでも憶えていないかと期待をしていたのだが、鄙びた荘の景色は記憶の中に残ってはいなかった。しかし手紙の通りであれば、ここに魏無羨自身と父母が一時期暮らしていたことは事実なのだ。きっと、荘の人に父母の話を聞けるだろうと、魏無羨は江澄と共に荘の管理人である朱氏の家へと向かった。
    荘の中央付近に位置し最も目立つ建物が朱氏邸である。迷うことなく到着すると、邸宅の前で掃除をしていた家僕に声を掛けて朱家の主人に取り次いでもらう。ややあって邸内に招かれた二人は、朱家の主人と対面した。
    「当家に修士の方が御用とお伺いしましたが、こんな田舎にどの様なご用事でしょうか」
    現れた朱家の主人は朴訥そうな雰囲気を持った年若い青年であった。二十をいくつも過ぎていないだろうと思しき主人は、修士といえど剣と体格が合っていないような少年たちにも丁寧に拱手をする。
    二人は応えを返して雲夢江氏の者であると告げると、さっそく朱家荘に身を寄せていた魏無羨の父母の事を訊ねた。
    「十年前に居られた仙門の方、ですか」
    しかし朱家の主人の反応は芳しいものでは無かった。知らないのかと訊ねると、申し訳無いと前置きをして、朱家の主人は話し始める。
    五年ほど前、安慶の一帯には疫鬼がもたらした病が流行った。疫鬼は故蘇藍氏によって払われたが、朱家荘にも広がった病は幼い子どもや年寄りをはじめ、多くの荘民が亡くなった。
    「――特に、年嵩の者たちが多く罹病し亡くなりました。私の父母も同じく。公子のご両親については私が子どもの頃ということもあり、仙門の方がお見えになったという程度しか記憶に残ってはいないのです」
    申し訳なさそうに朱家の主人は目を伏せる。
    領民が決して多いとは言えない朱家荘は、五年前の病から未だ立ち直りきってはいなかった。遅くに生まれた子どもであった朱家の主人は若くして跡目を継ぐこととなり、その忙しさで過去のことは酷く遠くなった。魏長沢と蔵色散人の事も、夫婦の修士であったこと以外はその顔も声も憶えてはいなかった。
    当然、当時は赤子であった魏無羨の顔など分かろう筈もない。
    力になれずと告げた朱家荘の主人はそれでも家の記録を調べさせて、魏無羨たちがかつて暮らしていた家を教えてくれた。現在は空家だが立ち寄って見てはという言葉に、朱家を後にして件の家へと向かった。
    二人は途中に会う荘民に魏長沢と蔵色散人の事を尋ねるも、家から出ることがあまりなかったので、よく分からないと言われるばかりであった。
    朱家荘は小さな荘だ。然程の時間も掛からず西の端にある空家へとたどり着いた。
    魏無羨たちの一家が出た後に人は入ったが五年前の病で住人はなくなり、以降は人の手が入っていないという空家は些か荒れており、部屋の中には埃が厚く積もっていた。部屋に入った二人が窓を開けると、射し込んだ西日が舞い上がった埃に反射して輝く。
    「――――なんにもないな」
    がらんとした部屋には行灯が一つぶら下がっているだけで日用品はおろか、家具の一つも残ってはいなかった。前の住人は病で亡くなったから、もしかしたら焼いて祓ったのかもしれない。いずれにしろここまで何もなければ、呪符の一枚でも落ちていないのかも、父と母の痕跡も見つけられない。
    なにもなかった。
    記憶も残っていない、痕跡も見つからないと知れた途端に、蓮花塢を出るまではあんなに膨らんでいた魏無羨の気持ちが萎んでしまった。自分自身ですら酷くがっかりしていることに驚きもするほどだ。
    「俺は、ああ、そうか」
    おぼろげの記憶しか残っていない、何年も前に死んでしまった父母にとても会いたかったのだと初めて気が付くと、魏無羨は胸が絞られるように苦しくなった。
    瞳から涙がぼろりと零れる。
    「おい……魏、無羨……」
    江澄は犬も居ないのに泣き始めた魏無羨に狼狽える。犬以外で魏無羨は泣いたことがない。いつも楽しそうに笑っているし、誰かに馬鹿にされた時だって影で泣くようなことはしないで必ず相手を見返していた。殴られたら殴り返すし、年上相手でも、邪祟相手でも怯みはしない。
    そんな魏無羨がしくしくと泣いている様子に戸惑いながら肩に手を置くと、魏無羨ががばりと抱きついてくる。ぎゅうぎゅうとしがみつきながら泣く姿に、江澄はいつもの憎まれ口も叩けなかった。
    魏無羨をしがみつかせたまま、やがて西日は赤く染まり、そして夜が迫る時刻へとなった。
    「――――なんだ」
    窓から夕陽が去って行くのを見送りながら、魏無羨の背中をさすっている江澄の顔に、不意に柔らかな光が落ち掛かる。
    顔を上げると、部屋にぽつんと一つだけぶら下がっていた行灯が、明りを灯していないにも関わらず光っていた。炎とは違う暖かい色合いは、なぜか見覚えがあった。
    一体どこで見たのかと記憶を探る江澄は、ややあってはっと思い至る。
    「おい、魏無羨!」
    名前を呼ぶと、肩口に埋められた頭を掴んで上げさせる。
    「行灯を見ろ」
    その言葉に魏無羨は、泣きすぎて腫れた目で行灯を見上げた。夕陽の代わりに室内を暖かく照らす様子になんでと疑問の声を上げる。
    「分からないのかよ。あれは法器だろ」
    ぽかんとした顔をする魏無羨に、常の察しの良さは何処に行ったと江澄は文句を言ってから続けた。
    「あれがきっと魏長沢の手紙に書かれていた、蔵色散人が手慰みに作った法器ってやつだ」
    暗くなったらひとりでに灯る行灯など法器に違いない。そしてこんな鄙びた朱家荘の空家に、行灯だけが残されている理由など一つしか無いのだ。
    ここに魏無羨たちが暮らしていたからだ。
    「――あっ」
    行灯の光が消えた。
    魏無羨ははっとなって駆け寄る。暗くなった室内で仰のけば、行灯は明かりは消えども確かに存在していた。幻ではなかったと思わず安堵の息を吐くと、後ろから江澄が肩を叩く。
    「乗れ」
    言うや江澄は身をかがませた。魏無羨はその意図をくみ取ると、江澄の肩に立ち乗る。そのまま江澄が身を起こすと行灯を吊っている梁に魏無羨の手が届いた。行灯を梁から外して飛び降り、魏無羨は懐から明火符を取り出して明りを灯した。
    仄明るい光の中で行灯を覗き込む。木枠に紙を貼った素朴な丸行灯だ。しかし中に入っているのは紙燭ではなく、呪が彫られた爪程度の小さな宝珠であった。宝珠が昼間の光を蓄えて、日が落ちた後に光源となるのだ。
    そして木枠に張られた薄紙には、美しいまま長持ちするようにと内側に呪が書き付けられている。少し角張った、几帳面で、とめもはらいもきっちりとしており、崩し書きをしがちな自身の字とはあまり似ていない文字は、宝物庫で見つけた手紙と同じ字をしていた。
    「……江澄、俺、これを知ってる」
    宝珠に彫られた呪が、薄紙の内側に書き付けられた呪が、どんなものなのか魏無羨ははっきりと分かった。
    魏無羨が作った行灯と同じ呪だから。
    我ながらよくできたと、初めて思えた法器だったから。
    僅かばかりの記憶には残っていない。しかし魏無羨に父は、母はこの行灯の作り方をきっと教えてくれたのだ。
    だから同じものが作れたのだ。
    理解が清水のように心へ染み渡ると、不思議と泉のように喜びが湧き上がってきた。
    「探しに行かなくたって、父さんと母さんは俺の中にちゃんと居たんだな」
    記憶に残っていない事は悲しいことだけれど、他の誰かに問うよりも確かな答えは魏無羨という存在以外にないのだ。
    だからもう、探しに行かなくても平気だった。
    目尻に残っていた涙を袖で拭うと笑顔を江澄へ向ける。
    「帰ろうぜ、江澄」
    「もう良いのか」
    気遣いを声音に乗せる江澄の言葉に頷く。
    「もう大丈夫。それに早く戻らないとお仕置きが怖いしな」
    紫電が来ると思うかと訊ねられ、江澄はややあってから眉間に皺を寄せつつ二人で一回ずつで済むと良いなと応えて魏無羨の手を取った。
    「なら、行くぞ」
    「どこに?」
    「朱家だ。手紙に書き置きしてあるから、門弟たちがそろそろ追いついて来てもおかしくない」
    「なら今のうちにご飯食わせて貰おうぜ」
    「飯抜きは確実だろうからな。それに」
    江澄が行灯を指さす。
    「その行灯を貰えるように、お前が頼む必要もあるからな」
    告げると江澄は星が瞬き始めた浅い夜の中を駆け出した。
    魏無羨は片手を江澄と繋ぎ、もう片方をともしびを手にして同じく駆け出したのであった。


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