ふたつの天秤 先生、先生。あなたの心に傷を残せるのなら、私の命など惜しくありません。どうか殺してください。
私が先生と出会ったのは、ある病院の診察室でした。異動によって担当医が変更になったのです。一目ぼれでした。纏う空気は陰鬱で、目ばかりが赤い凶星のごとく煌々と輝いている人でした。
通院のたびにお手紙も贈り物も渡そうとしましたがすげなく断られ、そのうちに通院間隔は広がっていき、このまま接点が無くなってしまうと危ぶみました。しかし、神様は私を見捨てませんでした。病が再発したのです。再手術の運びとなり、私は先生担当の元入院しました。この1週間が私の人生で最も幸せな時間だったと思います。先生は忙しいスケジュールの合間を縫って朝と夕に様子を見に来てくださって声を掛けてくれました。それがどんなにうれしかったことか。
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