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    Ac_4265

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    Ac_4265

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    『忘れないで』
    ※どこかで戦闘しているシャムウィル

    炎の中にいるシャムスを助けようとするウィルの話。

    ##シャムウィル

     夢にまで見た悪夢のような光景。それが今、俺の前で広がっている。
     パチパチと爆ぜる黄色く赤い炎。ヴィクターさんなら何の成分かわかるであろうガスのような臭い。何をせずとも飛んできて俺たちを汚す煤。全部全部、あの日と変わらないというのに――。


     ただ1つ、炎の中に残された人物だけが違っている。


    「待てよ、ウィル!」
    「離せアキラ!」
     俺が珍しく強く突っぱねても、アキラは1歩も引かなかった。その表情は怒りか、はたまた別の感情からくるものかとても険しいものになっている。
    「離すかよ。今離したら突っ込むつもりだろ」
    「当たり前だろ! だって中には――!」
    「アイツなら大丈夫だろ」
     絶対シリウスが助けているに決まってる。たしかにアキラの言う通りだ。あのいけ好かないが仲間には優しい男なら、シンも……シャムスくんだってとっくに連れ出して逃げているだろう。このビルは作戦のために用意したこともあって、『ヒーロー』と【イクリプス】以外の人間はこの場にいない。だから大丈夫、大丈夫なはずなのに――。


     炎に囚われた大切な人の姿が未だに俺の脳裏から離れないでいるのだ。


     『あの日』はたまたま『ヒーロー』がちゃんと間に合ってくれたから、今俺の手を掴んでいる幼馴染の命は助かったのだ。――でも、もし『あの日』のような偶然がなかったら? シリウスがもう要らないと玩具のように彼を捨ててしまっていたら? 何らかの事情で【サブスタンス】の恩恵を受けられなくなっていたら――?
    「あっ、ウィル! おい、お前の【サブスタンス】じゃ――!」
     ごめん、アキラ。わかってるよ、俺の植物を操る【サブスタンス】じゃこの炎とは相性が悪いことなんて。――でも、それでも、俺は行かなきゃならないんだ。無事に逃げてくれてたならそれでいい。けれど、確認もせずにこの場を去るのは俺の中の正義と理想の『ヒーロー』像が許さなかった。


    「……ったく、アイツ……!」
     ままならない状況に舌打ちを1つする。そうなる予感はしていたが、本当に捜しにいきやがった。今すぐにでも後を追いたいが、それは得策ではないことくらいオレだってわかっている。
    「アキラ、そっちはどうだ?」
    「ウィルはどうしたんだ?!」
    「おせーよ、2人共! ウィルなら残ったヤツらを捜しに中に入っちまった!」
     結局八つ当たりみたいになってしまったと少し反省する。だけどオレも内心かなり動揺していた。――ウィルがこんなに必死になる原因くらい、天才だからきちんとわかっている。炎が爆ぜる中でもブラッドとオスカーが息を呑む音が聞こえた。
    「それは本当か?」
    「本当だ。……アイツ、無理やりオレの手を振り払って行っちまった」
    「ブラッドさま……どうしますか?」
    「……通常ならば消防部隊が駆け付けるまで待つのが効率的だが――今は幸いアキラがいる」
    「どういうことだよ?」
    「以前、ウィルが植物の成長を【サブスタンス】によって促したことがあっただろう。……その逆を炎を操れるお前にはできるはずだ」
     かなり繊細なコントロールが必要とされる。やってくれるか。そう言うブラッドに対する答えは元より1つだ。
    「当然だろ。――天才のオレがウィルまでの道を切り拓いてやるよ!」
     手を前に突き出して燃え盛る火炎へと向ける。正直やったことがないけれど、まあオレだからどうにかなるだろう。
     横にいたブラッドの口角が何故か少しだけ上がった気がした。


     植物を生やしながら炎の中を行く。他に燃えるものがあれば少し時間が稼げるからだ。勿論自分の防御も兼ねている。
    「シャムスくん……」
     こんなか細い声では彼には届かないとわかっているのに、もう俺はこんな声しか出すことができなかった。けれど後悔はしていない。だから迷うことなく足を動かすことができた。
     やはり誰もいないだろうか。そろそろ退散すべきだろうか。――そう思っていたところで、炎の中に人影が見えた。まさか本当に誰かいるなんて。思わず目を見開いて人影に駆け寄る。炎の先にいたのは――。
    「シャムスくん?!」
    「お前っ!? 何でまだこんなところにいるんだ!」
    「それはこっちの台詞だよ! 早く逃げないと……!」
    「俺は【サブスタンス】があるから大丈夫なんだよ! 逃げなきゃいけねーのはテメェの方だ!」
     何でこんなところにとシャムスくんは悪態を吐いて舌打ちした。元気な彼を見て安心したが、直ぐにここから脱出しなければ。だがシャムスくんの手を掴むより早く俺の体は崩れ落ちた。
    「え――?」
    「おい、大丈夫か!?」
     大丈夫だよ。そう言いたいのに上手く体が動かない。おそらくだが、煙を吸い過ぎてしまったのだろう。
    「しゃ……むす、くん。俺はいいから……君は……」
     君だけでも逃げてくれないと、俺がここまで来た意味がなくなってしまう。
     そう言いたかったのに、最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。


    「あー! ウィルの奴どこにいるんだよ!」
    「アキラ、あまり騒ぐんじゃない」
    「ブラッドさま、上の方を見てきましたがやはりいませんでした。おそらくこの辺りにいるかと」
    「ありがとう、オスカー。――司令部からも至急撤退するよう連絡が来ている。俺たちも早く撤退しなければ」
     そんなこと誰だってわかってるっての。そう言いたいけれど、今は炎のコントロールに集中する。アイツ、こんな面倒なことをやってたのか。そう感心する余裕も今はなかった。
    「この部屋で最後だっ――!」
    「おせーんだよ、ドブネズミ共」
    「シャムス……!」
     まだ残っていたトリニティの一員を見て戦闘態勢を取る。でも、コイツに戦う気がないことをオレは何となく察していた。
    「戦ってる暇なんてねーだろ。……コイツを火炙りにしたいのか?」
    「ウィル!」
     シャムスが放り投げてきたのは気を失ったウィルだった。間一髪のところでそれを受け止めると、シャムスはこちらを嘲るように笑う。
    「今日はオレの勝ちだな。……じゃあな」
    「あ、待ちやがれ!」
     そう言いつつも、ウィルを抱えながらシャムスを追うことなどできない。俺たちも撤退しよう。ブラッドがそう指示を下すのは当然のことだった。


     目が覚めたら医務室のベッドの上だった。アキラに散々怒られ、ブラッドさんとオスカーさんに静かに諭され、レンにも遠回しに怒られたからちゃんと反省はしている。――『あんまり無茶すんなよ』とアドラーが苦笑していたのは気に食わなかったけど。
     シャムスくんはどうしているのだろう。あの時気を失ってしまったからその後のことはわからないけどきっと無事なんだろう。
     後に俺はシャムスくんに助けられたことを知り、今度会った時お礼を言うべきか悩み始めるのはもう少し先のことだった。


    「シャムス、あの時中で『誰か』に会ったのかい?」
     問でありながら、その目は確信の色に染まっている。わざとらしく舌打ちしてもシリウスが動揺することはなかった。
    「ああ、うるさいドブネズミ共に絡まれた。……あの中だったからちゃんと返り討ちにしてやれなかったんだよ」
    「そう、それは災難だったね」
     災難も何も、元々お前が原因の癖に。視線を送っても、シリウスはやっぱり微笑みを崩さなかった。その表情のまま、シリウスはオレの顔に手を添える。
    「今回は仕方ないけれど……『次』はきっとないからね。……恐れる必要はない。禍根を絶てば君はもっと強くなれる」
     期待しているからね。そう言うシリウスに喜べばいいのか、はたまた別の感情を抱くべきなのか――『今』のオレにはもうわからなかった。
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    kosuke_hlos

    MAIKINGアカデミ時代のディノブラ。

    ほぼ供養です。下書きの帳尻をつけようとしたら中途半場な一人称になってしまった・・・形にしたいけど着地が見えないのです。うううううおおおおお
    ブラッドは、電池が切れたみたいに急にぶっ倒れる。文字通り、ばたーーん!と。

    本人は本人なりにやりくりしているみたいだけれど、本人が管理できる量を越えて周りがどんどんブラッドに荷物を増やしていく。
    断ればいいのに、増えた分こそ自分への期待とか、信頼の量だとばかりに全部抱え込もうとするから、溢れてこぼれて溺れる。
    何でみんなブラッドがおぼれかけてることに気付かないんだと苛立って、自分のキャパシティを考えずに荷物を増やすブラッド自身にも腹がたった。
    本人に指摘したところで、問題ない、って涼しい顔で言うだけ。目の下に隈が出来てるの、気付いてる?

    だから、本人の申告は信じないことにして、俺は観察することにした。
    いつどんな時に倒れるのか。
    前兆はあるか。
    その前は。
    観察するためには傍にいなければわからないから、出来る限り傍にいるようにした。
    その対象のブラッドは、キースのお目付け役を教師から頼まれていたので、必然的にキースもそれにつきあわされるはめになった。

    「別にそこまでしてやる義理もねえだろ」
    「義理じゃないよ、友情だよ!!!」
    「友情ねえ……」

    多分このころから、キースは俺よりも 620