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    Ac_4265

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    『リヴァース・ラヴァーズ』
    ※ひいてと
    ※Dom/Subユニバースパロ

    ##ひいてと

     ――確かに今日は俺がDomの日で。だからSubである一彩くんは、どちらかと言うと奉仕する側になる――のだけれど。
    「はい、部長! あ〜ん……♪」
    「いやどういう状況ッスか、これ!? とりあえず、『stop』!」
     思わずコマンドを出すと、一彩くんは不満そうな顔をしながらも止まってくれた。これが彼がDomの日だとそうはいかないから、実行するのが昨日じゃなくてよかったと安堵の息を吐く。
    「何で駄目なんだい? 部長に言われた通り、ちゃんと2人きりになったからしてるのに……」
    「いやでも、流石にこれは恥ずかしいッスよ……」
     Domの征服欲が満たされる喜びよりも、同い年の子にあれこれ世話されようとしているという羞恥心の方が勝ってしまう。そもそも――。
    「それにDomの時でも似たようなことするじゃないッスか……別にSubの時までやらなくても……」
    「ウム、だけど僕はどちらにしろ世話を焼きたくなるみたいなんだ。勿論、部長が望むことがあるならそれを叶えたいけれど」
    「う〜みゅ……」
     本当は大切な恋人に命令をするなど気が引けるけど、ある程度制御しておかないと後で後悔することになりそうだ。どうしようか考えているとふと名案が浮かんだ。
     一彩くんは同い年の人に世話を焼かれるというのがどんな感じなのかまだ知らないのだ。ならば――俺が普段彼にされていることを、今日は俺が彼にすれば良いのではないだろうか。やられた方の気持ちがわかれば、一彩くんももうこんなことはしないはずだ。
    「一彩くん、とりあえずスプーンを下ろしてそのまま『stay』」
    「部長……?」
     一彩くんはきょとんとしながらも俺のコマンドに従ってくれる。その顔には疑問の色はあれど不安は一切含まれていなかった。それほど自分に心を許してくれているのだと考えると、それだけでDomの本能が刺激されて嫌でも気持ちが高揚してくる。
     しかし、きちんとコマンドを聞いてくれたのだから今度は俺が『ご褒美』をあげないと。一彩くんが置いたスプーンを手に取り、それをそのまま彼に差し出す。一彩くんは俺の意図を察したようで、花が開くように顔を綻ばせた。
    「一彩くん……食べたいッスか?」
    「……ウム、とっても」
    「ふふ、良いッスよ。ほら、あ〜んして……♪」
     それをコマンドと認識したのかは定かではないけれど、一彩くんはスプーンに顔を寄せてゆっくりと上に乗っていた生クリームを口に含んだ。ちなみに今更ながら俺たちが食べているのは一彩くんお手製のパフェである。どうやらSNSの写真に感化されたらしく、わざわざ兄貴に作り方を教えてもらったらしい。火を使わないから火の神様に愛された部長でも作れそうだね、と笑っていた。
     スプーンから離れた一彩くんの口が動き、やがてごくりと嚥下する音が聞こえる。喉仏が動くのを見ながら、俺は知らず知らずの内に胸辺りを掴んでいた。
    「……どうッスか?」
    「……ウム、自分で言うのもなんだけれどとっても美味しいね!」
    「そうじゃなくて! 恥ずかしかったッスよね?!」
     こうすれば一彩くんも同級生に世話を焼かれる恥ずかしさがわかると思ったのに。あまりにも彼がいつも通りだから、こっちの方が調子が狂ってしまう。
    「う〜ん、特に恥ずかしくはなかったよ?」
    「う、嘘……」
    「むしろ部長が僕に食べさせてくれた嬉しさしか感じなかったよ? 今日は僕がSubだからかもしれないけど……」
     そう言う一彩くんの目は爛々と輝いている。不味い、これは新しいことを試してみたいって顔だ。
    「ひ、一彩くん?」
    「ねぇ、部長。今度僕がDomの時にまた食べさせてくれないかな?」
    「へっ?!」
    「きっとDomの時だとまた感じ方が違うと思うんだ。それに……もっと新しい部長を知れる気がする!」
     一彩くんはぐいぐいこちらに詰め寄ってくる。これではどっちがDomでどっちがSubかわからない。流石にこれ以上は駄目だと、手で一彩くんの体を押し出した。
    「もう、今日は俺がDomの日なんだからそんな話はなしッス!」
    「わかった。じゃあ僕たちがまたSwitchに戻った時に聞くね!」
     そういう問題じゃないのだが。息を吐くと、一彩くんは表情を一変させて眉を下げた。
    「部長、ごめん……困らせるつもりじゃなかったんだ」
     ――そうだ、今日は一彩くんがSubの日で。そんな彼が不満そうな俺を見たらどうなるかなんて自分の身を以て知っていたはずなのに。自分を殴るのは一先ず後にして、俺は一彩くんを安心させるべく笑った。
    「……大丈夫ッスよ。話が逸れたッスけど、ちゃんと食べれて『いい子』ッスね、一彩くん」
    「『いい子』……」
     噛み締めるように一彩くんが復唱する。腕を上げて頭を撫でれば、青い瞳がとろんとしてきた。『Sub space』に入ったんだろうなとぼんやり考える。
    「今日は俺の『お願い』だけ聞いて、ね?」
    「……ウム、勿論だよ、部長」
     一彩くんは頭を撫でていないもう片方の手を取ると、その甲に1つ口付けを落とした。
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