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    Ac_4265

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    Ac_4265

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    『セゾンドメイン』
    ※みどてと
    ※未来捏造同棲設定

    何気ない日常を送る2人の話。

    ##みどてと

     鉄虎くんと俺は家事を大体2つに分けて分担している。
     俺は主に掃除や料理。繊細さが必要な作業と――火を扱うものを担当している。対する鉄虎くんは買い物や洗濯、ゴミ出しなど力をよく使う家事を担当している。パッと見では俺の方が力があるように見えるんだけれど……残念ながら自分の肉体を鍛えに鍛え上げた鉄虎くんは今や俺より力持ちだ。
     そういう訳で割と朝はのんびり過ごすことができた。朝ご飯はよくお互い出る時間がバラバラになることもあって前の日の夜に作るのがお約束となっている。今日も今日とて洗濯機の動く音で目が覚めた。隣にぽっかりと布団に穴が空いていてなんだか寂しい気持ちになる。もう少しゆっくり起きても遅刻しないのにな。……そう言ったらきっと怒られるんだろうけど。
     ゆっくり起き上がって大きく伸びをした。カーテンの隙間からは光が差し込んでいる。どうやら今日は洗濯日和のようだ。まだ頭がぼうっとしていて動けないでいると、部屋のドアがノックされた。
    「どうぞ……」
    「あれ、翠くん起きてたんスか?」
    「さっき起きたところだけどね……おはよう」
    「おはようッス!」
     鉄虎くんはすっかり眠気の取れた顔で快活に笑うと、部屋に洗濯かごを持って入ってきた。その流れで部屋に電気を点けてくれる。ここからじゃないとベランダに出られないから、隣の部屋で寝たとしても鉄虎くんは毎朝必ずここに来る。そしてついでに俺のことを起こしてくれるのだ。
    「今日は午後からって言ってたッスけど、そろそろ起きたらどうッスか?」
    「うん、そうする……」
     本当はもう少し寝ていたかったけれど、二度寝をしようとしたものなら彼に布団を剥がされるのはわかりきっていたので大人しくベッドから降りた。俺がちゃんと起きたのを確認すると鉄虎くんはベランダから出ていく。1つ1つ、タオルの皺を伸ばしてから彼は丁寧にそれを洗濯ばさみで留める。――うん、悪くない光景だ。
    「どうしたんスかそんなところに突っ立って? 朝ご飯もう用意できてるッスよ」
    「……なんでもないよ。コーヒー淹れとくね」
     俺は隠すように笑って部屋から出た。


     朝ご飯を食べ、俺より早く収録がある鉄虎くんを見送ってから俺も家を出た。パパラッチに嗅ぎつかれないよう、同じ仕事場でも一緒に家から出ないのが最早暗黙のルールになっている。俺としてはバレてしまった方が面倒な女性ファンも減るし一挙両得なんじゃないかと思ってしまうけれど、誰よりもファンを大事にする鉄虎くんがそれを良しとしない。例え偽りでも夢を見せ、それを壊さないようにするのも俺たちの大事な仕事なのだ。
     今日はテレビ番組の収録が1件だけなので鉄虎くんより早く帰れそうだ。そんなことを考えながら楽屋で出番を待つ。スマホを見てみたが、メッセージアプリには何も連絡が入っていなかった。休憩時間になればちょっとしたメッセージが来てるのが常だけれど今日は忙しいのかもしれない。再び電源ボタンを押したと同時にスタッフさんに呼ばれる声がして、俺は返事をして立ち上がった。


    「はあ……疲れた……」
     無事に収録を終え、楽屋の中でいつもようにぼやく。そのぼやきを拾ってくれる友達は今日はいないのだけれど。さっさと着替えて家に帰ろう。――誰よりも俺の出迎えを喜んでくれる人がいるのだから。
     そんなことを考えているとスマホが震えた。一体誰だろう。急な打ち上げのお誘いじゃなきゃいいんだけど。そんな不安も明るくなった画面を見れば払拭された。
    『予定が変わって仕事もう終わっちゃったッス。翠くんは?』
     慌ててスマホを手に取りロック画面を解除する。服を肩に引っ掛けたままという誰かに見られれば明らかにまずい格好だけれど、そんなこと言ってられない。
    『俺も今終わったところ。Aスタジオにいる』
    『じゃあ、一緒に帰るッスか? あ、打ち上げあるならそっち優先ッスよ!』
     ない。いや、もしかしたらこれから何か言われるかもしれないけど、どちらに天秤が傾くかなんて言うまでもない。
    『大丈夫だよ。玄関前で合流できる?』


    「翠くん!」
    「鉄虎くん、お疲れ様」
    「翠くんもお疲れ様!」
     メッセージに気付くのが遅れたのか、鉄虎くんは俺よりも後にやって来た。と言っても、然程待っていないから気にしていないけれど。笑顔で駆け寄ってくる彼を見ると、知らず知らずの内に頬が緩んでくる。
    「早く終わってよかったね」
    「よかった……んスかね? 撮影直前に機材が足りないってわかって。直ぐに取り寄せられないから延期になったんスよ」
     スタッフの人たちが大慌てで可哀想だったと鉄虎くんは苦笑する。確かに気の毒だが、俺たちにはどうすることもできない。彼らには悪いが、偶然舞い込んできた幸運を享受することにしよう。
    「これからどうする?」
    「時間も中途半端ッスからね……買い物してそのまま帰ろうかと思ってたんスけど、翠くんはどこか行きたいとこあるッスか?」
    「ううん、俺も今日は疲れたから早く帰りたい……」
    「収録1つだけだった癖に何言ってんスか……」
     鉄虎くんは呆れたように言うけど今日はトークが中心の番組だったのだ。芸人さんやほかの人たちにイケメンだからモテるんだろとかはやし立てられて、肉体的な疲れよりは精神的な疲れが非常に大きかった。これなら連日ライブをしてる方がマシだと収録中何度思ったかわからない。
     俺の表情を見て何かを察したのか、鉄虎くんはわざとらしく息を1つ吐くと苦笑を浮かべた。
    「……まあ、お疲れ様ッス。あれだったら先に帰っとくッスか?」
    「いや、買い物も一緒に行くよ」
     鉄虎くんと買い物することも、MPを回復させる大切な行為だ。それに、最近はすれ違うことも多くて会えても家の中がほとんどという状態だった。スーパーに行くだけとは言え、貴重なデートの機会を逃す訳にはいかない。
    「立ち話してたらまた誰かに捕まりそうだし、とりあえずここから出ない?」
    「それもそうッスね」
     早く2人の時間を堪能したい。そんな俺の意図には多分気付かないまま、鉄虎くんは1つ頷いた。


     買い物を終え、家に帰って来るとあっという間に夕食を作る頃合いになっていた。鉄虎くんに先にお風呂に入るよう促して、俺は早速調理に取り掛かる。こうすると、突然キッチンに介入しようとしてくる鉄虎くんを気にすることなく料理することができるのだ。……鉄虎くんにはちょっと悪いなといつも思っている、一応。
     今日作るのはハンバーグだ。鉄虎くんの希望に沿っていると毎日焼肉になってしまうので、メニューは大体俺が決めることが多い。昔は面倒だと思いながら親を手伝っていたけれど、今は微塵切りをしてくれる機械もできて随分楽になった。……親に同じ機械を渡したら、『部品を取り外して洗うのが面倒だ』と一蹴されてしまったけど。
     タネもできあがって後は焼くだけだ。鉄虎くんが上がってからにしようか、などと考えていると良いタイミングで洗面所から足音が近付いてきた。
    「おかえり、鉄虎くん」
    「ただいまッス。……外見るとあんまり空が暗くないから変な感じだったッスよ」
    「ハンバーグ、焼けばもうできるけどどうする?」
    「お腹ぺこぺこッス! 焼くのは――」
    「俺だからね」
    「う〜みゅ……」
     不満そうな顔をしながらも、首にタオルをかけた鉄虎くんはすごすごと部屋に戻った。ルーティンのストレッチが終わったら、何事もなかったかのように戻ってくるだろうから気にしないことにする。ここだけは鉄虎くんに負けてはいけないと、長年の付き合いで俺は理解してるのだ。
     フライパンに油を敷き、ハンバーグを乗せる。4つのハンバーグが音を立ててその色を変えていく。お肉の良い匂いが鼻をくすぐった。部屋に戻った彼にもこの匂いは届いているのだろうか。
     ひっくり返して、更に数分焼けば完成だ。皿に2つずつ盛り付け、隣にキャベツを添える。スープは昨日作った分が残っているし、ご飯はもう炊けている。後は鉄虎くんが来るだけだ。
    「鉄虎くーん、晩ご飯できたよー?」
    「わかったッスー!」
     大きめの声量で名前を呼べばちゃんと声は届いていたらしい。いつも通り元気な鉄虎くんの声が少し遠くから聞こえた。ほどなくして帰ってきた彼は、皿に乗せられたハンバーグを見て目を輝かせる。
    「美味しそうッスね〜!」
    「俺スープ温めるから他の準備お願いしていい?」
    「了解ッス! 翠くんのご飯は……」
    「少なめで」
    「いつも通りッスね」
     苦笑して鉄虎くんは炊飯器の方へと向かう。俺はフライパンを流しに置くと、IHコンロに今度はスープの入った鍋を乗せた。別に俺だけが使うならガスでもよかったのだけれど……念には念を、だ。
     スープを掻き混ぜている間に、鉄虎くんはお茶碗を2つ取り出してご飯をよそう。それぞれ虎、兎の可愛いイラストが入ったそれは、俺がデザインに一目惚れして買ったものだった。最初はぶつくさ言ってた癖に、今でもずっと使ってる辺り素直じゃないなと思う。
     そんなことを考えながら鉄虎くんを眺めている内にスープが温まった。火を止めて、それを深めの容器に注げば完成だ。タイミング良く鉄虎くんも準備が終わったようで、1つを彼に渡してテーブルへと向かう。席に座ると、今にも待ち切れないといった様子の彼と目が合った。
    「いただきます」
    「いただきます!」
     2人手を合わせてから食べ始める。意外と……って言うと失礼かもしれないけれど、鉄虎くんはあんまりガツガツ食べたりしない。ご両親の教えが良かったのだろう。今もハンバーグを丁寧に一口サイズに切ってから口へと運んでいる。
    「……何スか?」
    「いや、なんでも」
    「もう、あんまりぼうっとしてると冷めちゃうッスよ!」
     眉を吊り上げてそう言う鉄虎くんの顔はほんのりと赤い。もしかしなくても俺がずっと見てたから照れてるんだろう。バレないようこっそり笑みを浮かべながら、俺は今度こそ食事を始めた。


     楽しい時間なんてあっという間だ。まだ起きていたいと駄々を捏ねたら、明日も早いんだろうと一蹴されてしまった。大人しく2人で寝室へと向かう。……そう言えばこうやって揃ってベッドに入るのも久しぶりだ。最近はどちらかが先に入ってて、もう1人が空いてるスペースに入ることが多かったから。
     何も言わず静かにベッドの中へと入る。そういうことをした後でもないのに、すぐ横に起きている鉄虎くんがいるのはなんだか新鮮だった。
     何で夜の次には朝が来るんだろう。もうずっと夜だったら鉄虎くんとここにずっと居られるのにな。――そんな鬱モードを彼は察したのかもしれない。
     鉄虎くんはいきなり近付いたかと思うと――俺の唇に口付けを落とした。突然のことに俺は目を見開いて間抜けな声を出す。
    「…………へ?」
    「寝なきゃ駄目ッスよ。……明後日は久しぶりにオフが合う日なんスから。明日までは頑張ってしっかり働くッス!」
    「う、うん……? いや、ちょっと……」
    「おやすみ、翠くん」
     鉄虎くんはそう言ったきり、さっさと電気を消してしまった。え、待ってよ。そんなことされたら逆におやすみできないんだけど?
     混乱してる内に隣から寝息が聞こえてきた。今日だけはその寝付きの良さを呪いたい。だけど、無理矢理起こそうものなら拳か蹴りが飛んでくるのは目に見えていて――。
    「ああもう、覚えてろよ……!」
     ヒーローらしからぬ、悪役みたいな台詞を吐いて目を閉じる。こうなったら明後日は存分に仕返ししてやる。そう心に決めて俺は眠りについた。
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