秋の夕暮れの冒険譚 なんてことのないとある日。秋風が心地良かったから、本当になんとなく帽子だけ被って何も持たずに家を出る。夜の帳が徐々におりはじめ、眼前には見事なグラデーションが空を染めあげる。
目的などなく、ただただ風の向くまま気の向くまま。
明かりを灯しはじめる街頭、魚の焼けるにおい、のびてきえる影、走り去る楽しげな声。
そこそこ広めの公園の入り口にある鳥居をくぐり、まだ色づいていない木々の間を進み、東屋を通り過ぎてまだ細い道を進み公園内をのんびりと散策する。
しばらく道なりに進んでいくと、肘掛けの部分が青白く光るベンチに白い毛玉がいるのに気づき、なんとなくその毛玉の横に腰掛ける。
気配を感じたのか、緩慢な動きで毛玉がこちらに視線を向ける。肘掛けの灯りに照らされた瞳は黒黒としていて、こちらに何かを訴えかけているような気になってくる。
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