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    くじょ

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    くじょ

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    ※降新(全年齢)
    降谷さんと赤井さんの中身が入れ替わった話。
    前半はポアロでバイトする安室さん(in赤井さん)のターン。
    後半は新一とデートする赤井さん(in降谷さん)のターンの予定。
    予定は未定。

    #降新
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    【降新】降谷さんと赤井さんが入れ替わった話(前半)「二十四時間で元に戻れるそうですし、下手に公表してイタズラに混乱させる必要もないでしょう」
     油断したと言いたくはないが、ヘマをしたという自覚はある。それでもまさか、本当にまさか、ふたりの間で見た目と中身がそっくりそのまま入れ替わってしまうだなんて誰が思っただろうか。
     それも、相手は赤井──降谷が殺したいほど憎く思っている男だ。
     そもそもふたりの身長はほとんど変わらないため、目線がほとんど変わることはないから、変わったところで違和感はない。それよりも、口を開くたびに響く声が違和感となって、声を発する度に眉をひそめた。降谷が話しているというのに、聞こえてくるのは他人の声。これが違和感と呼ばずに何を違和感と呼ぶのか。
     はあ、と重苦しいため息が漏れる。
     効果は二十四時間。その間ずっと、降谷が心の底から憎らしく思っている男の姿でいろという。必然性にかられてどうしようもなく顔を合わせることにも抵抗があるというのに。今日一日、鏡を見ればこの殺したいほど憎い男の顔と対面することになるのかと思うだけでげんなりする。
     科学の時代になんとも突拍子もない話だとは思うが、それでもそうなってしまったものは現実を見るのが降谷という男だ。とりあえず鏡がある場所は徹底的に避けようと、ものの一秒もしないうちに心に誓った。そもそもこの男の身体を動かしているのが僕自身だという事実がもはや耐えられない。
    「もう無理かもしれない」
     この恐ろしい状況になってまだ一時間も経っていない。まだ、残りは二十三時間以上も残っている。あと二十三時間。考えるだけで気がおかしくなりそうだ。
    「なに、あと二十三時間だけだ。一生というわけではないのだから、気楽にこの不可思議な状況を楽しもうじゃないか」
     絶望だと頭を抱える降谷とは対照的に、ソファに深く身体を沈めた赤井は、入れ替わった降谷の身体をまじまじと見つめる。それから持ち上げた手で、朝日にきらりと光る降谷の金髪をさらりと髪を梳いた。
    「ずっと、この色が羨ましかった」
    「嫌味ですか、それ」
     金やそれに近い髪色の集団の中で、黒い髪は異質で目立つ。いまさらではあるが、当時の憧れを手に入れたと言ってこころなしか嬉しそうなのがまた腹が立つ。
     加えてなによりも、降谷と同じ状況に陥っていながら余裕ぶっているのが気に食わない。面倒だとでも言うように肩をすくめてみせるその仕草が気に食わない。そして、面倒だといいながらこの現実味のない現実を受け入れているような姿勢が気に食わない。降谷零はそんな仕草は見せない。
     それでも、と目の前でソファで寛ぐ自分の姿をまじまじと見る。
     降谷なら絶対にしない軟派な仕草だが、それでも似合っているし様になっている。
    (うん、やっぱり僕は良い男だ)
     どんな仕草であっても似合ってしまうものだなと、自分の容姿が魅せる仕草のひとつひとつにうんうんと頷く。これまでに何度もイケメンだと言われてきたから、降谷自身、容姿が人と比べて優れているのだろうという自覚はあった。赤井が評価したように、降谷はおよそ日本人らしくない見た目をしている。嫌悪の対象でもあったが、それと同時に武器にもなったし、利用したことだってままある。
     それをまさかこうして第三者の視点から確認する日が来ようとは。
     鏡を通して自分の顔は知っているが、やはり他人の目で見るものとは多少なりとも違うらしい。他人から見たほうがむしろイケメンだ。

    「今日、僕は安室の仕事があるんですよ」
     この状況を誰にも話さないと覚悟したのなら、気づかれないよう任務を遂行する必要がある。告げた僕の予定に、赤井がぴくりとわずかに眉をひそめた。安室の仕事というのは、つまり、喫茶ポアロでのアルバイト。表面上は不要となったその仕事を、本職の傍らに今もなお続けているのは、安室としての地位やら人間関係やらをすべて無に返してしまうのを惜しいと思ったから。
    「それは、休んではいけないやつか?」
    「急な休みは梓さんに迷惑がかかりますからだめです。必ず出勤してください」
     絶対に必要かと聞かれれば、ここで降谷がアルバイトを休んだところで、それは直接人命に関わることではないし、世界が大きく変わるわけでもない。
     それでも休めないと口調を強めたのは、接客業とはおよそ縁がない人生を送っていそうなこの男が一体どんな接客を見せるのかが気になったから。安室の今日の勤務時間は丸一日なので、あとで客として覗きにいっても楽しいかもしれない。
     休むのはだめだともう一度念を押すと、赤井は考える素振りをみせてから、まあなんとかなるだろうと独り言のように呟いた。
    「せいぜいきみの面子を潰さない程度には仕事をしてこよう」
     その言葉がただの楽観視ではないということは降谷だってよく知っている。それがまた腹立たしくて、はあ、と深くため息を付いた。
    「それで、あなたの予定は?」
    「うん?」
    「あなたの今日一日の予定ですよ。仕事……は休みだと聞いていますが、それでもどこかへ行く予定だったとかなにかないんですか?」
     狙撃しろだとか、身体は覚えているかもしれないがそれを扱う降谷の能力では不安がつきまとうようなことは断るが、代わりを務めるのだから予定の把握は必要だ。尋ねるが、赤井はうーんと考える素振りだけを見せて、それから、予定はなにもないと首を振ってみせた。
    「何もないんですか?」
     一日まるっとこのホテルの部屋に引きこもっている予定なのかと改めて尋ねる降谷に、赤井は曖昧な返事をする。約束がないわけではないがと、それでもまだ渋る赤井の答えに、まあいいです、と折れたのは降谷だった。




         ◇

     ──カラン、カラン。
     ドアが開いたことを告げるドアベルが鳴って、カウンターに立つ安室と梓のふたりに来客を知らせる。
    「いらっしゃいませ。──あら、工藤くん」
     朝も早い時間から、梓がここポアロの看板娘らしい元気な笑顔を見せる。いらっしゃい、とカウンターから出ようとして、はたとその手前で梓が足を止めて躊躇する。カウンターの奥でコーヒーを仕込んでいる安室の姿をちらりと振り返るが、彼は動かしている手を止めることなく視線だけを入り口に向けると、いらっしゃい、と目を細めた。
     そんなあっさりとした安室の対応に梓が戸惑いを見せる。それでもカウンターの中から動く気配のない彼にかわって、梓が新一を出迎えた。
    「今日も、いつものモーニングで良いかしら?」
     新一が座る席は、カウンターの一番奥。毎回必ず安室がそこに案内して、彼がここにいる間はずっと、カウンター越しににこにこと眺めている。いつもなら真っ先に飛びついてくるというのに、それをしない安室を不思議に思いながらも、梓は新一をいつもの席に案内した。
     ことん、と静かな音をたてて、梓が新一のもとに水を注いだグラスを置く。朝の時間にポアロに来た新一が注文するのはいつも、コーヒーと安室が考案したハムサンドがセットになっているメニュー。
     とはいえ、新一がいつも注文しているというよりは、新一が注文するよりも早く安室が準備しているというのが正しい。むしろ新一が来店するよりも早く安室が一式の準備をはじめて、すっかり作り終わったのを見計らったかのようなタイミングで新一がポアロのドアをくぐるのだ。
    「どうぞ。あー……新一、くん」
     新一が注文したメニューを提供したのは安室だったが、それでもカウンター越しに身を乗り出して机の上においただけ。そんな安室の対応に、新一はじっと彼の顔を見つめた。
    「うん? どうしたんだ?」
     顔になにか付いているかと不思議そうな顔をする安室は、どうみたって彼そのもの。だというのに、今日の安室はまるで別人のような印象だ。
    「大丈夫ですか?」
    「そうですよ、安室さん。疲れているなら休んでください」
     ひとりの店番は慣れてるから任せてくださいと、梓が力強く胸を叩く。ドタキャンだったとしても、シフトに入れないと連絡が取れるだけ十分だという彼女の言葉に、普段からの彼女の苦労が滲む。
    「いや、どこも疲れてはいないが……」
     特別心配されるようなことはないと安室が言うと、新一と梓のふたりはますます怪訝な顔をしてみせる。疲れていないというのなら、何が原因なのか。真剣に考え込みはじめたふたりに、今度は安室が首をかしげる。
    「なにか?」
     きょとんとした彼の顔は、確かに客相手にたまに見る彼の表情だが、やはり違和感がある。普段はもっと踏み込ませない計算された顔を見せるが、今日の彼は違う。ただ驚いてみせる安室に、新一はますます眉をひそめた。
    「今日は、カウンターから出てこないんですね?」
     いつもなら、新一がポアロのドアをくぐった瞬間にカウンターから出た安室が飛びついてきて、新一への対応はすべて安室が担当する。席の案内から水の提供、それから食事までも全て。加えて、新一がいるというのに彼の隣で愛を囁いてアプローチするでもなく、カウンターの中で冷静に皿を洗っている。
     明らかにおかしいという新一の言葉に、梓もとなりでうんうんと頷く。
    「安室さん。いくらひもじくても拾い食いしたらだめですよ。お腹が空いたら真っ先にポアロを頼ってください。ごはんくらいなら、こっそりとわたしが作ってあげますから」
     ふたりに矢継ぎ早に口々に話をされる。
     降谷が新一を猫っ可愛がりしているというのは話に聞いていたが、客として来店した新一の接客すら譲らないと聞かされて、さすがの赤井も動揺しないわけがない。ついでに、カウンターで食事をする新一の隣の席を陣取って見守っているだとか、他の女子高生たちが新一に向ける視線を遮っているだとか。いろいろ。
    (降谷くんは一体なにをしているんだ……)
     新一と梓、ふたりが結託して話す『普段の安室』の姿を聞いて、安室が頭を抱えた。自分の話ですよと、あまりにも他人事のように話す男の顔をうかがうふたりに、安室はふっと目を細める。ぽんぽんと新一の頭をなでる大きな手に、新一がぱちぱちとまばたきをする。しまった、と赤井が自身の行動に気づく。しかし新一は今日の彼からの接触がその手だけだったことに驚いて、不満げに口をとがらせた。
    「やっぱり、腐ったものでも食べたんじゃないですか?」
    「えっ、やっぱり食べたんですか! 救急車、呼びますか?」
     新一の発言に、梓が反応する。うんうんと同意して頷きながら、その手にはいつの間にか電話が握られている。
    「呼びましょう! 一一〇番しましょう!」
     それは警察の番号だ。確かに新一に対する安室の行為の問題で呼ぶのなら一一〇番でも間違いないのかもしれないが、救急車を呼ぼうとしているのなら間違っている。救急車は一一九番だ。
    「ふたりとも、少し落ち着け」
     一一〇番でも一一九番でも、梓がどちらにコールをしようとしたのかなどこの際どちらでも良い。むしろどちらにかけられても問題しかないと、電話を握る彼女の腕を掴んで止める。
     すると今度は、ぎゃあと梓の口からそれはもう色気とは縁遠い悲鳴があがった。
    「あ、安室さんこそ、正気を取り戻してください」
     炎上です、と力任せにドンと胸を押した梓の思いのほか強い力に、安室は後ろへたたらを踏んだ。
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