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    HayateFuunn

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    HayateFuunn

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    客×店主(マフィア×闇医者)のグレヴィクのお話に絡めようと企んでいる闇医者さんの過去

    「……」
    目を開けた、つもりだった。
    思うように力が入らず、また意識もはっきりせず、実際にはきっとほんの少し瞼が開いただけ。
    それでも彼は裏社会の人間であり、人体を知り化学を知る研究者である。
    もっぱら、肩書きは闇医者として通っているが。
    彼はゆっくりと呼吸をしながら、周囲の人の気配、此処が何処なのか、おそらく気を失っていた、その直前に何があったのかを考える。
    ふと、視界が狭いことに気がついた。瞼が開ききっていないためではなく、視界の右側が見えなかったのだ。右目周辺が何かに覆われている感触があり、それが治療のために巻かれた包帯であることを闇医者である彼は読み取った。
    右目に傷を負ったのか。気を失ったのならば、これが原因だろう。
    僅かずつだが意識がはっきりとしてくる。元々寝起きはまったく悪くないが、さすがに傷を負ったとなれば状況は変わる。
    体は右目以外に目立つ損傷は感じられない。起き上がれそうだったので上半身をお越し、右目を覆う包帯に触れる。
    「……っ!」
    瞬間、その時の記憶が鮮明に甦る。息を呑み、喉の奥が小さくひゅ、と鳴った。
    振り下ろされた先のとがったドライバーが、右目を。
    「!」
    「おっと、良かった。目を覚ましたか」
    「……あ……、ジェイ?」
    ノックをしながら扉を開けると言う、いささかノックの意味をなさない登場をしたのは、彼の旧知の仲であり、マフィア・キッドマンファミリーのボスであるジェイだった。
    ジェイは彼が起き上がっていることに気づくとほっとしたように笑い傍に近づいてきた。
    「……ということは、ここは貴方の屋敷ですか」
    「正解、さすがだな。何があったのかは、覚えているか?」
    「ええ。……趣味ではありませんが、お礼をしなくては」
    「あ、すまない。もううちが殲滅した」
    「は?」
    片目で睨んでくる彼にどうどうと制し、ジェイは苦笑する。
    「あそこから、うちのシマに麻薬が流れてきてな。俺だって驚いたんだ、お前があそこに捕まっていたなんて知らなかった」
    「……。殲滅したのなら、隠す必要もありませんね。捕まっていたというか、今回の雇い主が件のボスでした」
    「何?」
    「言っておきますが別口の仕事です。仮に依頼が密輸で密輸先がここだと知っていたら断っていました」
    ジェイの一家が治める一帯は、麻薬の取扱を禁止し厳しく検閲している。そんなことは界隈のものならば誰でも知っているが、件の人物は命知らずにもそれに挑み、返り討ちにあったというわけだ。
    「そ、そうか。だがそれなら何故お前は、あそこで襲われていたんだ?」
    「……。性行為を迫られたのですよ」
    「えっ」
    その言葉に思わず声を漏らしてしまうジェイだったが、彼は顔色一つ変えずに淡々と続ける。
    「契約内容から逸脱しているので断ったのですがしつこくて。一応雇い主なのでお灸を据えるつもりで、微毒でも盛ろうかと思っていたのですが先手を打たれました」
    「そうか……たまたま、乗り込んだタイミングだったからすぐに連れ帰れたんだな」
    「……右目、どういう状況です?」
    彼はただ静かに、状況の確認をしているだけだった。ジェイは少し間を置き、小さく息をつく。
    「……重度の眼球破裂、と医者は言っていた」
    「ふむ。抉られた、というよりは、潰されたと表現する方がいいでしょうか。まあ、分かりました。手術はしましたか?」
    「いや……小さな診療所のひとだったからな、『そこまでの技術は持っていない、大きなところへ行け』と言われたが……」
    言いよどむジェイに彼は小さく息をつく。彼らは裏社会の人間だ。表舞台の全うな組織にはあまり近づけないし、向こうも恐れて近づかない。
    まして彼は、自身も仮にも医師である。闇と枕詞はつくが。
    「ではほぼ失明するでしょうね。さすがに自分の目の手術は行ったことがありません、興味はありますがリスクの方が大きい。あのとき、反応が遅れた私にも落ち度はある」
    「こういう時はもう少し狼狽えるものではないのか……?」
    「お望みなら泣きわめいてみせましょうか、貧血で倒れますけど」
    「しなくていい、いい」
    「冗談です」
    彼は時折真顔で冗談を言ってのける、ということを今更ながら思い出したジェイである。
    「ところで」
    「?」
    すっかりいつもの調子の彼に、ジェイは改めて居直り、彼の残った左目を真っ直ぐに見つめる。
    碧い瞳もまた、まっすぐに見つめ返す。いやさ元々、彼は目をそらさない。
    「お前、やはりうちに入らないか」
    「……何度同じことを言わせるのですか」
    それは幾度となく交わされてきた会話だ。
    ジェイは旧知であるよしみ、また年下の彼をなんだかんだと可愛がっている。弟のようなものだ、と以前言ったら普段澄まし顔の彼が心底嫌そうな顔をしたのを覚えている。
    彼がこちら側に足を踏み入れた頃からの付き合いなのだ。そろそろ12年ほどになる。
    「ひとつの組織に属する気はありません。それでは……」
    言いよどむ原因を、ジェイは知っている。
    こう返ってくることも予想していた。だから、彼が何か言う前に口を開いた。
    「ならば、長期契約という形でどうだ?」
    「……内容によります」
    「表に戻りのんびりすること」
    「はい?」
    さすがに予想していなかったのか、切れ長の瞳がほんの僅かに丸くなる。驚いた顔は、出会った頃の幼い少年の面影を見せた。
    「お前は一応フリーであるがゆえ、あらゆる組織の内部に潜り込める。今までも狙われたことがないとは言わせないぞ」
    「……」
    「片目じゃこれまで通りの仕事というわけにもいかなくなるし、これを期に件の組織と共に死んだことにして。どうだ、我ながらいい考えだと思うんだが」
    ジェイの提案は、この時の彼にとってはあまり魅力的には映らなかった。
    確かに今後隻眼で生きていくには慣れるまでに時間がかかるだろうが、長くても一年で慣れると自負している。
    まして、彼は目的があって裏社会にいるのだ。それが達成できていないまま身を引くことなどできやしない。
    しかし。
    「お前の身を案じているのは俺だけではない。これを」
    「……! 何故貴方が」
    「ある日届いていたんだ、どこから出したのかは俺も分からない。すまん」
    「……」
    差し出されたのは太陽を示すマークの入った手紙だ。彼が探している、目的。
    動揺を隠し手紙を読む。険しくなっていた顔つきは段々と、叱られてしょげた子どものような表情に変わっていった。
    「……ずるいひとたちですね」
    「そうだな。契約は?」
    「分かりました。ですが規約違反があれば切りますから」
    「ああ。近くに空き家がある、好きなようにして構わないぞ。そうだ、お前コーヒー淹れるの上手いだろう、店でもしてみたらどうだ」
    「私をなんだと思って……ただ、まあ。そうですね。ただゆっくりするというのも性に合いませんし、暇潰しにはなりますかね」
    「よし、それじゃあ契約成立だな、ヴィクター」
    ジェイの嬉しそうな笑顔に、彼、ヴィクターは、呆れたような小さな笑みを浮かべつつ頷いた。
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