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    ミトコンドリア

    @MtKnDlA
    捻じ曲がった性癖を供養するだけの場所です

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    『例えそれが刹那であったとしても』

    人間がよく分からない押しに弱めの👹が🦊に指輪を買う話

    ひとときの永遠を誓おう 人間とは、このような金属の輪ひとつで永遠を信じられる生き物らしい。
     ヴォックスはジュエリーショップの曇りのないショーケースの中にズラリと並んだ指輪を難しい顔で首を傾げてジッと眺めた。愛用のタイピンが壊れてしまったので新調するついでに何か別のアクセサリーを…とちょっと覗いたのだが、なんとなく目についてしまったのである。

    「何かお探しですか?」
    「嗚呼、いや。少し見ていただけで……」
    「ご自分用に?それとも大切な方に?」
    「…………。恋人に……」

     耳にシンプルだが繊細な細工のピアスを光らせた店員のキラキラしい圧に負けて ヴォックスはぎこちない笑顔で返した。店員は「まあ素敵!」と大袈裟に言って、今年はこういうデザインが流行だとかダイヤモンドが主流だが最近は他の石も人気だとかいうことをツラツラ語った。ヴォックスは半分も聞き取れずに「ええ」 とか 「ハイ」とか適当に相槌を打っていたら、あれよあれよという間にスワロフスキーのカフスボタン と指輪を買うことになってしまった。
     美丈夫が眉間に皺を寄せて腕を組んで目の前に並べられたいくつかの指輪を睨んでいる姿は店内で明らかに浮いており、フロア内の客がチラチラと盗み見ていた。
     口を薄く開けたまま30分ほど熟考し、3つに絞ってさらに10分長考し、ようやっと小さなアクアマリンが嵌められたプラチナの指輪を選んだ。彼の恋人の瞳の色に似ていて美しいと思った。

     店員の明るい「ありがとうございましたー」という声を背中に聞きながら回転扉をく ぐり、ヴォックスは店の前の石畳の路に立ち尽くして、右手に提げたクリーム色のショッ パーを困った顔で見つめた。
     そのまま家に帰り、リビングからパタパタ走ってきた恋人に「手を出しなさい」と言って、大人しく差し出された両手の上にリングケースをキャンディでも渡すようにポンと乗せた。
     恋人は自分の手の上の小さな箱とヴォックスをゆっくり見比べた。しばし奇妙な沈黙が漂う。ヴォックスは野良猫を拾ってきたことを母親に告白する子どものような顔で箱をパカ…と開いた。ベルベットの中に鎮座する細い指輪を恋人はジッと見て、「お……?」と丸切りバカの顔で固まってからパッとヴォックスを見上げた。アクアマリンと同じ瞳が動揺に揺れている。

    「ハッ?なにこれ、エッ、え??」
    「指輪…………」
    「見りゃわかるわ!!!何、急にこんな、は……??」
    「俺にもわからん…。気づいたら買っていた……」
    「バカじゃん……」

     そう言いながらも恋人の頬がどんどん緩んでゆくのを、ヴォックスはちょっとびっくりして見ていた。かわゆく頬を染めてあからさまに嬉しそうにするもんだから、マ、喜んでくれたならいっかな……という気持ちになって、キャッキャと顔を綻ばせる恋人の左手の薬指にそれを嵌めてやる。恋人は少し潤んだ瞳で手を照明にかざしながら「お前の分は?おれもヴォックスにつけたい」と訊いた。そこでヴォックスは初めて自分の指輪を買わなかったことに気づいた。

    「エッ無い……」
    「What!?こーゆーのってペアでつけるもんだろ!?!? huh!?」
    「そうなのか……」
    「そうだよ!ああもう今度いっしょに見に行くぞ!絶対!」
    「仰せのままに」

     なるほど、中々悪くない。

    「ハハ、愛してるよ、ミスタ」
    「ンだよ……」

     ヴォックスはプンスコ!という風に怒る恋人をクスクス笑って抱きしめた。幸せでおかしくなりそうだと思った。
     人間とは、このような金属の輪ひとつに永遠を託す、愚かで愛しい生き物らしい。
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    ミトコンドリア

    DONE『義人はいない。ひとりもいない』

    職人の👹が✒️にハイヒールを作る話
    You are my, この頃は、男でもハイヒールを履く時代である。
     18世紀、ルイ王朝時代にハイヒールは高貴なる特権の象徴として王侯貴族に広く好まれた。舗装された路を歩き、召使いに全てを任せ安楽椅子に座る権利を誇示するために。今ではそれは、美というある種暴力的な特権を表すためのものになっている。
     ヴォックス・アクマはそのレガリアを作る職人のひとりであった。彼の作るハイヒー ルは華美と繊細を極め、履いて死ねば天国にゆけるとまで謳われる逸品。しかし彼が楽園へのチケットを渡すのは彼に気に入られた人間のみであり、それは本当に、幾万の星の中からあの日、あの時に見たひとつを探し出すよりよっぽど難しいことであった。

     いつものように空がマダラに曇った日、ヴォックスは日課の散歩に出ていた。やっぱり煙草は戸外の空気(そんなに綺麗なもんじゃないが)の中で吸った方が美味いもので。 数ヶ月の間試行錯誤している新作がどうにも物足りずにむしゃくしゃしていて、少し遠くの公園まで足を伸ばした。特にこれと言って見所は無いが、白い小径と方々に咲き乱れる野花の目に優しい場所である。
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    ミトコンドリア

    DONE『お前が隣に居る日々を』

    🦊が👹から逃げる話
    ミスタ・リアスの逃亡/帰還「エッ」

     ヴォックス・アクマは心の底から驚いて言った。昨日の夜中にたしかに腕に抱いて眠ったはずの恋人が、朝日が昇るのと同時に忽然と姿を消していたのである。 びっくりした猫ちゃんみたいな顔のまま空っぽのスペースをしばらくジッと見つめ、ノソノソベッドから降りた。脱ぎ散らかした服を適当に洗濯機に突っ込んで、早足で家中を回る。ベランダにもトイレにもミスタの姿はなく、ヴォックスは右手にティーカップを 持ってリビングのソファにドッカリ座り、なんとなくテレビを付けて、ついでに煙草にも火をつけてキャスターが滑舌良く話すのをぼうっと聞き流した。
     こういうことは前にもあった。朝起きたらミスタがいなくて、ほとんど半狂乱で探し回っていたら当の本人がビニール袋を引っ提げてケロッと帰ってきたのだ。起こすかメモくらい残せと詰め寄ったが、「疲れてると思って」「忘れてた」とかわゆく謝られたもんだから うっかり美味しい朝食を拵えてしまった。他にも小さい喧嘩をしてプチ家出を決め込んだりだとか、漫画だかゲームだかの発売日だったりだとか、マアしばしば あることだった。それでもこうして毎回律儀に驚いてしまうから、ヴォックスからすれば釈然としないこと ではあるのだが。
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    recommended works