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    ねねねのね

    キメツの二次創作小説を書いてます٩( ᐛ )و

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    ねねねのね

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    副タイトル・真夜中の杏さん小芭さん (それじゃ腐向けだよ、タイトル詐欺だよ😂)

    煉獄歌舞伎 千両役者ああ。人生を巻き戻したい。
    この時ほどそう、思ったことはなかった。今のこの知識を持ったまま、十代の頃に巻き戻りたい。そうすれば私は『あの時』選択を間違ったりしなかっただろう。
    ほんの少しの無知、ちょっとしたすれ違い、そんなもので人生の舵は簡単に変わってしまう。それはいい方向のこともあるし、悪い方向の時もある。けれども大概は、あの時が分かれ目だった、と気づいた時には、すでにどうしようもないくらい進んでしまっている。全ては後の祭りなのだ。

    彼は、平伏し頭を地面につけたまま、畳の匂いを吸い込んだ。真新しい藺草の青臭い匂いに混じって、微かに香る甘い匂い。それは彼の前に居るあるじが放つ香りだった。どこでも嗅いだことのない、高貴さと酷薄さが混じった匂い。あるじの匂いは誰とも違う、唯我独尊の匂いであった。

    「玉藻よ」

    目の前に傲然と立つ女。この女に出会わなければ、また別の人生があっただろうか。

    人生。

    その言葉に、思わず嗤ってしまう。どの面を下げて『人』生、なんて。
    とうに人であることなんて捨てたくせに。



    奈落の底で、人が消えるのだという。

    よもやこの俺が歌舞伎の舞台の底に潜ることがあろうとは、と甲隊士伊黒小芭内は遥か上に位置する舞台を見ながらひとり思った。
    奈落、とは、歌舞伎の舞台の下にある大きな空間、舞台機構である廻り舞台やセリなどを動かす動力となる機械が所狭しと置かれている場所のことだ。
    これらは江戸時代には人力で動かしていたそうなのだが、明治になり歌舞伎座が洋風建築になったと同時に夜間興行が始まり、電気照明や音響の設備が急速に発達したのに伴い、こちらも次第に機械化されていったのだという。ここは歌舞伎座ほど大きな施設ではなかったのだが、それでも時代の趨勢には乗っており、それなりに機械化が進んでいた。
    また、奈落とは仏教用語で地獄を表しているそうなのだが、それとこの空間の関係については諸説がありはっきりしたことはわからない。
    以上は全て他人からの受け売りで、小芭内は歌舞伎については何の知識もなかった。
    果たして、付け焼き刃の知識しかない奴が受ける任務であろうか、と思わなくもなかったが、生憎下っ端なので任務を選べない。やれと言われればそれまで、否やもなかった。

    「どうですかね?」
    小芭内をここまで案内してくれた大道具係の男が、額の汗を手拭いで拭いながら伺いを立ててきた。
    小芭内はゆるりと辺りを見回しながら、どうと言われても、と眉を潜めた。周囲にはずらずらと機械が並ぶばかりで、鬼の気配などトンとない。首に巻きつく白蛇殿も、舌を静かに出し入れするばかりで何の反応も示さなかった。
    「今はいない」
    小芭内は答えた。マアそう答える以外はない。
    「もう少し詳しく話を伺いたいのだが?」
    小芭内がそう言うと、男は汗を拭き拭き、大袈裟に三度、頷いた。
    「とりあえず上でお話しします。ついでに冷たい麦茶でも」


    「よもや!」
    そしてようよう奈落から這い出た途端、辺りに響き渡った大音量の聴き慣れた声に、小芭内は頭痛を覚えた。
    何故、貴様がここにいる…。
    奈落の入り口は舞台の裏ではなかったのか。
    そこに着流し姿で腕組みをしてドォンと佇む、佇む?言い方が変だ。ドォンと居直る?これも変だ、まあどうでもいい、そこに居る金髪のド派手な男、燃える炎の男煉獄杏寿郎が、小芭内を視界に収めワハハと笑った。
    「ここに小芭内がいるとはな!」
    「それを言いたいのはこっちの方だタワケめ」
    小芭内は毒づいた。よりにもよって一番来て欲しくないやつが来た。
    しかし彼の趣味を考えるに、小芭内の数少ない知り合いの中では、一番ここにいてもおかしくない人物でもあった。
    「うむ、俺は観劇帰りだ!」
    案の定、杏寿郎はもっともな理由を述べてまたワハハと笑い、
    「女殺油地獄(おんなころし あぶらのじごく)だ!素晴らしかった!」
    と、耳を疑いたくなるようなタイトルを平然と口にした。小芭内は、それは一体なんだ?と聞きたくなってしまったがグッと堪える。この男に歌舞伎を語らせ出したら止まらない。

    本日の演目ですわ、とボソリと大道具係の男が後ろから教えてくれた。ウチの看板役者の十八番なのでさァ、ろくでもない男の話ですよゥ、と。
    そうか、ロクデナシの話か。少し興味を惹かれたが、ここは一旦脇に置いておく。今は芝居の話をしている場合ではない。
    「俺は任務だ」
    羽織についた埃を払いながら小芭内は答えた。
    すると金の目をかっ開き、杏寿郎は「うむ!」と元気よく返事をした。
    「そうだろうなとは思った!」
    「解っているなら邪魔をするな」
    「うむ!邪魔をする気はない。気になるだけだ!」
    そして、フンフンと犬のように鼻を鳴らし、小芭内の周りをグルリと一周回った。
    「鬼の匂いはないな。まだ、ということか!」
    なんだそれは、と小芭内は眉を潜め杏寿郎を睨んだ。俺がぽんこつだと言いたいのか。
    だが杏寿郎は至って真剣だった。いや、此奴が真剣でないところなど見たことはない。常に全力投球、暑苦しさがアイデンティティの男だ。おそらく悪気はない。
    ただ大道具係の男は、杏寿郎の奇行に明らかに引いていた。
    どなたですか…とカタカタ震えながら言うので、小芭内は彼を一瞥し、ひとこと告げた。
    「此奴も鬼狩りだ」



    役者は白湯しか口にしない。茶を飲むと葉に色がつくからだ。食べるものも最大限に気にする。太りすぎると女形としての艶が消えるからだ。
    そうやって彼は看板役者の座をようよう手に入れた。ここまでにどれほど苦労したことか。だから彼はその座を誰かに譲るなんてことは微塵も考えない。この頃は若手の台頭も著しいが、そんなことは知ったことか。
    「兄さんは真面目ですねえ」
    と、近頃二番手にのし上がってきた瑠璃玉が、顔の化粧を落としながらへらりへらりと笑うので、彼はフンと鼻を鳴らした。
    「役者なら当たり前のこと、瑠璃坊もせいぜい気をつけな」
    そして瑠璃玉を見もせずに化粧道具を片付け、さっさと楽屋から出る。
    そして、暖簾をくぐって草履を履こうとしたその時、目の前に男がふたり、立っていることに気づいた。

    男は二人とも異装だった。一人は髪が金だ。目立ってどうしようもない。服装は浅黄色の着流し。もう一人は肩口くらいのザンバラの黒髪に白黒の縞模様の羽織。これも異様なことに首には白蛇が巻きついている。

    「私に用で御座いますか?」

    おそらく堅気ではあるまい。
    正直、関わり合いたくないと思いながら、彼は目も合わさず草履を履いた。
    うむ!と金髪の方が声を上げた。
    「この一座の看板役者の嵐蘭玉殿とお見受けする。少し、話を伺いたいのだか宜しいか?」
    「どなたでございましょう?」
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