893パロ「ネコっていいよね」
袂を分かちながらも未だに飲めぬ酒を持って気紛れに訪れる元兄弟に、お前のその行為も割と猫に近いんじゃないのかと口に付けたお猪口の中で笑みを浮かべた。
「龍を飼ってる男が何を言うのさ」
背中に立派なのが居るだろう、そしてここにも、と足で突けば、今日はそういうことをしに来たわけじゃないのと叩かれた。
「大体、悟に猫は飼えないよ」
私には、この男に自分とじくらい気紛れな猫が飼えるとは到底思えなかった。そも、人間の子を育てているということも未だに信じられることでは無い。だが、そちらなら同じくらいの子を育てる身としては口出しが出来る分、何とかなるとは思っているのだが……。
因みに私の背には猫も龍もおらず(美人は居るが)また、側にいるのもそれは素直な猛犬なので飼い方を指南してやることは難しい。
「猫じゃないんだなぁ」
「は?」
「お前のとこの犬と同じだよ」
「あー、そういう…」
この間拾った男か。なら放っておいても勝手に育つか。
「私というものが居ながらね」
「お前のほうが先に犬を側に置いたくせに。……あげないからね」
「そう言って自慢しに来るくせに」
「それとこれとは別だから」
じゃぁ、またね。
ほんとに酒だけ持ってきて、ただそれだけ話して帰り支度を始めた男を見送りに門まで出れば、黒塗りの見慣れた車の前で、これまた見慣れた男が頭を下げて待っていた。
「やぁ伊地知。お疲れ様」
「こんばんは、夏油さん。お疲れさまです」
挨拶もそこそこに、それじゃぁと車に乗り込んだ悟は最後に少しだけ窓を開けた。
「また来るね」
それだけ言って伊地知に車を出すように体を浮かせたその一瞬、向こう側で見慣れぬ金の髪が揺れた。
なるほど、ネコか。
自慢したいなら会わせてくれても良かったのにと思いつつ、そのうち会えるかと結論付けて、走り出す車に背を向けた。