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    #ふぁあきくん週間 お題の「バレンタインデーの後で」になります。
    「後で」のタイトルなのによりによって当日の話で前編として投稿させていただきます。(終わらない気がしてきたため、保険です……)

    ##ふぁ

    バレンタインデーの後で⚠️2023年バレンタインデーボイス
    ⚠️前編です

     俗世を離れて四百年が経っていた。
     人里離れた嵐の谷で自給自足の生活。生業として呪い屋をしていたが特に具体的な報酬を設定していた訳でも無かったため、気味悪がって成功報酬を渡そうともせず隠れるように去っていく多くの依頼主の中に、時折なにを思ったか大金を置いていく者もあった。元々浪費をするような時代を生きていた訳でも性格でもなかったため、金銭は貯まっていく一方だった。
     それがどうしたことか。
     ファウストを取り巻く状況が一変してしまったのだ。半数の賢者の魔法使いを石へと変え、ファウスト自身にも命を落としかねない重傷を与え、厄介な傷痕を残していった厄災との戦いを機に拠点を嵐の谷から魔法舎へと移し、そこでの新しい生活が始まった。そして変わったことは生活の環境だけではなかった。これまでは時折顔を合わせるヒースクリフの面倒を見るだけだったのが明確に「先生」としての役割を与えられてしまったうえに、生徒は三人に増えていたのだ。
     これは大変不服であった。自分より年上で面倒見もよく気配りだってできるネロがいるというのに、なぜ僕がと不満を零したことは数知れないほどあった。なのにネロ自身が「いいじゃん、先生。そもそも俺はちゃんとした教育を受けてねえからさ、教えられることなんてあんたが渋い顔することばっかだぜ」と言っては生徒役に甘んじているのである。実に不満だった。挙句、少し気になる賢者にまで「先生」と呼ばれてしまうのだから大変居心地が悪かった。
     だが、やると決めたら徹底的にやるのがファウストである。若い魔法使いたちに授業をするために珍しい素材を集める必要があり、四百年間貯めに貯めた金銭が漸く役に立つ時がきた、とファウストは思っていた。
     だが、ここで誤算が生じていた。元来ひきこもりであるはずのファウストが物を買うために商店へ行かなければならなくなったのだ。珍しいものなら双子や賢者に一言断って少し離れた地へと向かう。どこにでもあるようなちょっとしたものなら中央の市場へ向かえばいい。そしてやはり、消耗品を考えると後者の機会が自然と増えていた。
     西の国の欲望の街ほどではないが、中央の市場も中々に魅力的なもので溢れている、とぐるりと周囲を見渡しながらファウストは考えていた。
     たとえば、猫の雑貨店。猫を題材にした小物たちを専門に扱っているため、どれも愛らしく魅力的だった。初めてその店に気付いたときは荷物持ちとしてシノが同行していたため、立ち寄ることはしなかったが折を見て訪ねた店内は何時間でも居られると思えるほど楽しい空間だった。だが、自分はあくまでも「陰気な呪い屋」である。こんなにも愛らしいものを所有していては沽券に関わるし、なにより買われてしまった小物も可哀想だろう、と思い小さな黒猫の置物をひとつだけ買い、いつもカーテンが閉じられている窓際の机のうえにちょこんと置くことにした。その置物はファウストが読書をするとき、書き物をするとき、いつだって近くで見守ってくれていた。
     ある日の晩、ファウストの部屋の扉が叩かれた。そこまで深い夜でもない時間帯だが、申し訳なさそうに控えめな音と気配からファウストは声を聞く前から誰がやってきたのかを理解していた。手を振るって施錠を外し、一声掛けると静かに扉が開かれる。
    「こんな時間にすみません、ファウスト。あの、少しいいですか?」
     おずおずと顔を覗かせる賢者に少しでも寛いでほしい、と思ったファウストは床に散乱している物を足で払い除けると小さな机と椅子を用意する。座るように促しながら部屋の中にあるいくつかの蝋燭に小さな灯を点す。優しい明かりに照らされた室内に賢者は少しほっとした様子を見せながらも遠慮がちに示された椅子に腰掛けた。
     ぱちん、とファウストが指を鳴らすと机の上にティーポットと二組のティーカップが現れる。もう一度指を鳴らせばティーポットの注ぎ口から爽やかな香りとともに湯気が立つ。最後の仕上げ——ティーカップへ注ぐことはファウストが手ずから行う。一組のティーカップを差し出すと賢者は胸いっぱいに薫りを吸い込んで、漸く笑みを浮かべて感謝の言葉を口にした。
    「それで、何の用なの?」
    ファウストが声を掛けると紅茶を楽しんでいた賢者がそうだった、という顔をしながら慌ててカップを机に戻す。
    「あ、いえ……特に重要なことではないのですが」
    そう前置きをしてからもごもごとなにか言いにくそうにする様子にファウストは自分もゆっくり紅茶を口にする。
    「別に、きみが言いにくいなら無理に言わなくてもいいよ。紅茶を楽しみに来たと思えばいい」
    実際、ファウストはこうして二人きりで賢者とお茶をできたことに対して嫌悪感はなく、むしろ選んでくれたことが嬉しいとさえ思っていた。賢者はその言葉に目を瞬かせていたが、薄らと笑みを浮かべると安心したのか、滑らかに語りはじめた。
    「俺、明日は一日用事がない日になったんです。スノウとホワイトがたまに休んだらどうかって言ってくれたので」
    「へえ、よかったじゃないか」
    はい、と賢者も嬉しそうに頷きをかえす。
    「でも、それと僕とでどう関係があるの?」
    それは率直な疑問だった。賢者はわざわざ自分が休みを貰えたことを魔法使いたちに報告して回っているというのだろうか。それくらい嬉しかったのだろうか。それなら、定期的に休みの日を作れるように、僕たち魔法使いも討伐や依頼任務をこなしていかなければ——そこまで考えたときだった。賢者が「あの!」と意を決したような口調でファウストの意識を自分へ向けさせた。
    「明日は東の国の魔法使いたちもお休みだってヒースから聞きました。だから、もしファウストさえ良ければ俺とお出かけしてくれませんか?」
    「僕と?」
    思いもかけない申し出にファウストは思わずきょとん、と賢者を見てしまう。
    「はい!ファウストと……でも、ファウストが嫌なら……」
    「行く、僕でいいなら行こう、賢者」
    賢者が言い終える前にファウストは返事をしていた。もし他の魔法使いを誘う、などと言おうものなら悔しさでどうにかなってしまうのではないかと思ったからだった。我ながら青臭い、とファウストは自らを恥じたが賢者の嬉しそうな表情にそんな思いは簡単に霧散していた。
     
    「お、呪い屋。今日はちゃんと食うんだな」
    珍しくファウストが自室ではなく食堂でネロの作った朝食に舌鼓を打っているとブラッドリーが朝食の乗ったトレイを手に近付いてきた。
    「悪いか」
    「いや、悪かねえよ。食うことは大切だからな」
    それだけを言い残してブラッドリーは立ち去っていく。少し離れたところで食べ始めた様子を見ると本当に挨拶代わりに声を掛けただけのようだった。
     だが、そんなブラッドリーとのやり取りも悪い気はしなかった。それほどまでにファウストはこれからの賢者とのお出かけが楽しみだと感じていた。

     ファウストは自分の箒を手に魔法舎の中庭にある噴水に腰掛けて待っていると、賢者が重たい魔法舎の扉を全身を使って開けて現れた。
    「ファウスト……もしかして、お待たせしましたか?」
    「いや、待っていないよ。忘れ物はないな?」
    「はい!大丈夫です」
    「行こう」
    ファウストは箒を左手に持ち、空いた右手を賢者に差し出す。意図したものではなく、自然と身体が動いていた。一瞬呆気に取られていた賢者もおずおずとその手を取る。賢者の手の温もりに自然と口角が上がってしまうようだった。きゅ、と彼の指先を指先で握る。
    「行きたい場所は?」
    「えっと……俺、あまりまだ詳しくはないのでファウストのおすすめのお店があったら教えてください」
    申し訳なさそうにそう口にした異界から来たばかりの賢者にファウストはそれもそうか、と納得しつつ、この子にお誂え向きな、自分も気に入っている店があることに思い至る。
    「それなら任せて」
    そう言いながらファウストは先に箒に腰掛け、隣に座るように促した。落ちないように賢者の肩に手を回し、身を寄せさせるとほんのり彼の耳が赤く染まったような気がした。その赤みがまるで自分にも伝染してしまったように熱い気がする。気づかれなければいい。そう思いながらファウストはひとつ咳払いをしてからふわりと箒を宙に浮かせ、中央の市場へ向かって箒を飛ばした。
     
     賢者を案内したのは、あの日黒猫の置物を買ってから何度か訪れていた猫の雑貨店だった。店内に入れば見渡す限りの猫に纏わる小物が置かれている壮観な光景はいつも初めて来た時と変わらない胸の高鳴りを与えてくれるものだった。だが、今日はいつもとは違う。一人ではなく隣に賢者がいるのだ。隣の賢者を横目でこっそり見ると傍目にも分かるくらいに目を輝かせていた。そんな表情にファウストは思わず笑みを浮かべてしまう。
    「何時間でも居られる気がします……!」
    自分と同じ感想を抱いてくれたことに胸が擽ったくなる。そうだな、とファウストは返事をしながら彼の背を押して店内を自由に見て回るよう促した。
     基本的に賢者は無闇矢鱈と商品に手を伸ばすことはしなかった。美術品を眺めるように、棚に置かれた商品をいろんな角度から眺めている。その中でも我慢がならなかったのかいくつかの物に手を伸ばし、優しく触れては「可愛い」と幸せそうに呟いてファウストにそれを見せる。その度にファウストは彼が手に持ったものを記憶し、彼の好みを把握する。だがどれもこれもファウストが好ましく思ったものばかりであったため、覚えることはそう難しいことでもなかった。
     楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていく。
     店内に置かれた時計——もちろんこれも猫だ。短針と長針に猫があしらわれ、二匹が追いかけっこをしているように見えるよう設計されている——によって思いがけず現在の時刻を認識してしまった途端、ファウストはこの楽しいひとときから一気に現実へと引き戻された。
    「賢者、そろそろ帰ろうか」
    ファウストは声を掛けると、珍しく賢者がただを捏ねるような様子を見せた。見るからに後ろ髪を引かれるような様子にファウストは思わず笑みを浮かべてしまう。
    「お腹が空いただろう?ネロの夕飯までまだ少し時間があるから美味しい物を食べてから帰ろう」
    そう誘うと漸く賢者も納得したのか小さく頷いて猫の雑貨店を後にした。
     
    「今日は楽しかったよ、賢者」
    魔法舎へ戻った時にはすっかり空は紅く染まっている時間になっていた。
    「俺も楽しかったです、ファウスト。今日はありがとうございました」
    礼儀正しく頭を下げようとする賢者にファウストはそれを留めさせる。代わりにファウストは手のひらにひとつ、綺麗に包んでもらったものを乗せ、賢者の目の前に差し出した。
    「きっと君が気にいると思って」
    あの店でファウストが気に入っている物を、彼が他の商品に夢中になっているうちにこっそりと買っていたのだ。
    「いいんですか?」
    「ああ、君のために買ったんだから」
    恐る恐るファウストの手から賢者が包みを受け取る。手のひらに収まる大きさのそれをまじまじと見つめた後、賢者はありがとうございます、と嬉しそうに礼を口にした。
    「あ、でも俺はなにも用意していません」
    眉をへにゃ、と下げた賢者が寂しそうに言うと、ファウストは緩く首を振ってそれを否定した。
    「僕は君と過ごせた時間が楽しかったからそのお礼だよ」
    「俺だって、ファウストと過ごせて楽しかったですよ!」
    む、と口を歪める賢者にファウストは思わず笑みを浮かべてしまう。
    「なら、君はまた僕に付き合ってくれ。それが僕に対するお礼だよ」
    その申し出にあまり賢者は納得していないようだったが、実のところ、賢者はそんなにこの世界における通貨を持ち合わせていないことをファウストは知っていた。それは当然だ。異界から来たばかりなのだし、金銭のやり取りのあるような労働ではなく「賢者」としてこの世界に存在していることに意味があるのだから、なにも恥じることはない筈だった。
     前任の賢者が抜け目ない人物だったおかげか、賢者に対しても多少の給金を出すことになってはいた。だが今の賢者は自分のために使うことをせず、子どもたちの保護者として街へ出たときにお菓子を買って共に食べて楽しんだり、オーエンのご機嫌を取るために甘いものを買うことに使っていることを知っていた。だからこそ、ファウストは自分が彼のために何かを買ってやりたいと思ったし、甘やかしたいとも思っている。そして何より、共に過ごすことが楽しくて仕方がなかったのだ。
     だが、他人を誘うなどということ、自分にできるだろうかと思っていたファウストはあまりにも自然に次のお誘いをすることができていたことに内心驚いていた。そして、誘われた賢者本人も少し驚いているようだった。だが、すぐに手の中の贈り物を握りしめ、元気に「はい!」と返事をしてくれた。
    「次のお休みが楽しみになっちゃいますね」
    どこか罪悪感を忍ばせたその甘美な響きにファウストは自然と「ああ」と同意を示していた。
     そうやって始まった二人の逢瀬が繰り返されているうちに、ファウストは自分の部屋に置いていた一匹の黒猫に罪悪感を覚えるようになっていた。これまでファウストが目を逸らしていた孤独、寂しさを埋めてしまった今、黒猫一匹にそれを負わせていることが申し訳なかったのだ。
     次に晶と共に中央の市場へ出向いたとき、ファウストは共に店内を見て回りながら黒猫の相手となりそうな置物を探していた。
     すると御誂え向きに同じ大きさ、同じ材質の白猫の置物があることに気がついた。どうやらファウストが買ったときから在庫が変わっていないらしく白猫二匹に黒猫一匹が置かれていた。ファウストがその三匹を手に取ると、晶はファウストの手を覗き込んで笑みを浮かべた。
    「ファウスト、部屋にある黒猫ちゃんのお友達ですか?」
    「ん、ああ、そのつもりだよ。よく気がついたな」
    「俺、いつかあの子にお友達を作ってほしいなって思ってたんです」
    「君に気を遣わせてしまったようだな」
     ファウストは晶に好きに見て回るように一声掛けてから手にした置物を持って店主のところへ行く。一匹の白猫、白猫と黒猫一匹ずつに分けてもらい、包装してもらう。
    お揃いを部屋に置くことになるのは重いだろうか、と思わなくもなかったが、ファウストとしては自分と同じ物が晶の部屋にあることを想像するだけで胸がどきどきと高鳴るようだった。きっとあの子は嫌な思いはしないはず。そう自分に言い聞かせて、綺麗に包んでもらったものを受け取った。
     いつも通り、ファウストは魔法舎の中庭へ降り立つと別れ際に晶に贈り物を手渡した。幾度となく繰り返されたそのやり取りに晶はいつもは嬉しそうに受け取っていたが、今回は少し申し訳なさそうにしていた。ファウストの頭を真っ先に過ぎったのはお揃いであることだったが、どうやらそうでもないらしい。
    「ファウストが選んでくれる猫ちゃんの贈り物はどれも可愛くて、どんなに疲れているときでもそれを眺めているとしあわせな気持ちになることができるんです。でも……」
    晶が言いにくそうに口籠る。ファウストが続きを促すと意を決したのか続きを口にした。
    「数が増えすぎてしまって、配置に困ってしまっているんです……!」
    「は?」
    「どの子も目につく位置に置いておきたいのですが、それがしにくくなってしまってて……!」
    晶は本当に悔しそうにそう口にしていた。ファウストは虚を突かれる思いだったが、晶の抱える悩みを理解すると思わず笑みがこぼれてしまうほど愛らしいものだった。そんなファウストの反応に晶は少し臍を曲げたようだったので、ファウストは笑いながら「悪い」と告げた。今日の贈り物が包まれている晶の両手に自分の手を重ね、彼の目を覗き込む。少し動揺したのか晶は目を泳がせるが、少し顔を近づけると観念したのかファウストの目に晶の目も固定された。
    「これからは僕も配慮するようにするよ。だから、君さえ良ければこれからも僕からの贈り物を受け取ってほしい。……だめかな?」
    「……ファウストが無理していないのなら」
    「君への贈り物を選んでいるときは僕にとっても楽しいひとときで間違いないよ。そう言ってくれてありがとう、賢者」
    ファウストはそう言うと興が乗ったのかそのまま賢者を上向かせると彼の愛らしい顎へキスをした。自分でもやりすぎたか、と思い晶の反応を見ることをせずにそそくさと魔法舎の中へと逃げるように入って行った。
     
     さて、どうしようかとファウストは考えていた。ある日を境に始まったネロとの秘密の晩酌のときだった。
    「せんせ、なんか悩んでんの?」
    ネロはつまみをすすめながらファウストの様子に目敏く気づいたらしい。軽い調子で問いかけてくる。言いたくないなら拒否することもできるような問いかけはファウストにとって心地よいものだった。だからだろうか、何の気なしに呟くように相談を持ちかけていた。
    「賢者に色々と贈り物を渡していたら置き場所がなくなったと言われたんだ」
    「ああ、賢者さんの部屋に最近猫のものが増えたと思ったら、やっぱり先生の仕業だったか」
    「そんなに?」
    「そんなに」
    ネロはワインで喉を潤してから続きを口にした。
    「でも迷惑って訳でもないと思うぜ。あんたからのだから余計に嬉しいんだろうし」
    「僕からだから?」
    「……あ、いや気付いてないんなら聞かなかったことにしてくれ。それで、先生の悩みってなに?あげたいのにこれ以上増やすわけにいかないからっていうそういう感じのこと?」
    「その通りだよ、ネロ。話が早くて助かる」
    ネロの作ったサンダースパイスをまぶした火炎ジャガイモの揚げ物を口に入れる。さくりとした表面の中のほくほくとした食感にファウストは心の中で美味しいな、と思いながらひりひりした味をワインで流し込む。
    「気に入ってくれたようで何よりだよ、先生。定番メニューに入れとくわ」
    嬉しそうにネロは笑いながら自分もひとつ口に放り込む。
    「それで、賢者さんへの贈り物だろ?形として残る物だから増えるんだよ。残らないものならいいんじゃねえの?」
    「残らない物?」
    「そ、食べ物とかだな。もちろん凝った装飾の入れ物に入ってるものじゃなくて簡易包装の菓子」
    ワイングラスの中で揺れる水面を眺めながらネロが提案したことはファウストにとって目から鱗のものだった。
    「いいな、それ」
    「だろ?」
    ファウストは上機嫌にワイングラスに残った酒を飲み干すと、次はなにを贈ろうかと楽しそうに考え始めた.
     
     ◇◆◇
     
     晶はひとつ悩みを持つようになっていた。それは東の魔法使い・ファウストに纏わることである。
     初めは取っ付きにくい印象があったが、彼と同じ国のヒースクリフから自分と同じ猫好きであると知ってからは話してみたいと強く思うようになっていた。そして実際に打ち解けるようになり、猫スポットを教えて貰い度々共に訪れるようになると少しずつ彼の人となりに惹かれるようになっていた。
     晶は具体的に誰かを好いたり交際したりといった経験はなかったものの、好きな対象は異性であるとばかり思っていた。だが、ファウストをそういう対象として意識していることに気づいたときは多少の驚きはあったものの、すんなりと受け入れることができた。いや、好きになった人がたまたま同性だった、というだけとも言えたからかもしれない。
     晶の中では自分の問題は片付いたが、果たしてファウストは同性から想われて嫌ではないだろうかという新たな問題が浮かび上がることになった。そこで一つの話を晶は思い出していた。魔法使いは自由に性別を変えられる、と南の国へ行った折にフィガロから聞いた話である。もしかして魔法使いにとって性別は些細な問題で、恋愛対象として関係ないのではないかと期待した。実際どうなのだろう。元々好奇心旺盛な方である。自分の感情云々抜きにしても知りたいと思ってしまった。だから、色恋に長けていると思ったシャイロックに相談することにした。
    「随分と初心な質問をしてくださいますね、賢者様」
    彼は愉快そうに胸元に忍ばせたパイプを取り出し、一気に煙を吸い込んだ。そしてゆっくりと吐き出していくと上機嫌そうに笑みを浮かべていた。どうやらシャイロックの機嫌を損ねる質問では無かったらしい。晶はほっと息をついた。
    「そうですね、あなたの言う通り、私たちは性別を自由に変えられます。だからこそ、本当に性別は些細なことなのですよ、賢者様。私たち魔法使いはそもそも同じ人型であることに拘りません。ムルをご覧なさい。彼が愛しているものは厄災なのですから」
    「あっ……確かにそうですね。なんだか安心しました」
    「おや、賢者様。もしかして今——」
    「わっ!わー!」
    思わず晶は大きな声を出して続く言葉を遮った。晶はシャイロックのバーに珍しく客が少ないことを幸運に思っていた。いや、少ないことを確認した上で質問したとも言えるが。その少ない客である少し離れたソファで静かに飲んでいるオズは特に気にも留めない様子だった。それに安心した晶は視線をシャイロックに戻す。すると彼は目を細め、微笑ましそうにしている。
    「賢者様。私が今あなたに伝えたことはあくまでも一般論であることをお忘れなきようにお願いしますよ」
    「あ、は、はい。それもそうですよね」
    「けれど、賢者様ほどの魅力のある方から好意を持たれて嫌な思いをするような賢者の魔法使いはおりません。自信をもってアプローチしてみては」
    シャイロックははっきりと「賢者の魔法使い」が相手であると口にした。見抜かれている、と晶は肩を落とすもシャイロックは気にせずに笑みを浮かべている。
    「そうですね、賢者様。相手がどなたであれあなたからの誘いは喜ばしいことかと。外出を誘ってみては?」
    「そ、そうします!」
    ご健闘を祈ります、シャイロックにそう見送られて晶は一日休みになる日が来るのを待つことにした。
     その日は意外と早くやってきた。スノウとホワイトがたまには休むとよい、と提案してくれたのだ。ちょうど来ている任務は賢者が同行しなくても片付くだろうとのことだった。申し訳なさがありつつも、待ちに待ったこの日を逃す手はないとうきうきしているところに丁度ヒースクリフと出会い、明日は休みだから市場で見つけた懐中時計を分解するつもりだという話を聞くことができた。東の魔法使い全員が休みだという確認も取ることができた。晶はヒースクリフへお礼もそこそこに飛ぶように四階のファウストの部屋まで駆け上がっていった。
     だが、彼の部屋の扉をいざ目の前にするとつい怖気付いてしまう。色々理由を挙げては諦めるように心の中で説得が行われているようだった。もう遅い時間だから。前日の夜に誘うのはいかがなものか。ファウストも予定があるのではないか。
     そんな疑問を振り払うように晶は頭を振ってから静かに目の前の扉を叩くことにした。
     
     デートの誘いは大成功を収めた。しかも楽しく一日を二人だけで過ごすことができただけでなく、ファウストから贈り物を渡され、次回以降の誘いまでファウストからされてしまったのだ。
     もしかして、もしかして。
     晶は自室に戻り、ファウストから受け取った包みを丁寧に解いていく。そこには愛らしい猫があしらわれた栞が現れた。それを指先でゆっくりと撫でるとファウストの手の温もりまで感じられるようだった。
     これは、ファウストが自分のために選んでくれたものだ。つまり、これを選んでいる最中は俺のことだけを考えてくれたいたに違いない。真面目なあの人のことだから気もそぞろに適当に選ぶとは思えなかった。
     もしかして。
     ファウストも、俺のことが好きなんじゃ——。
     その可能性が頭に浮かんだ途端、晶は一気に顔が熱くなるのを感じた。熱を冷ますように晶は頭を激しく振る。
     いや、きっと優しいあの人のことだから。
     閃いてしまった可能性に浮き足立った晶の心はゆっくりと地面に足を着ける。
     俺と同じ気持ちとは限らないだろう。好きな人がちょうど自分のことを好いてくれているだなんて、そんな都合のいいこと、そうそう簡単には起こらないことくらい晶は理解しているつもりだった。
     だから、距離をおかれてしまわないように。この気持ちを隠しておこう。
     晶は賢者の書に自分の気持ちを閉じ込めるかのようにファウストから贈られた栞を挟んで大切にそっと閉じた。
     
     晶にとって事件が起きたのはそろそろファウストとの逢瀬も両手では数えきれない程になるだろうと思われた頃のことだった。
     晶の机の上にはファウストからの贈り物が綺麗に並べられていたが、これ以上は机本来の用途では使えなくなるのではないか、と思わざるを得ない量にまで増えていた。ファウストから貰えることは嬉しい。けれど、貰ってばかりは心理的に辛いものがあった。色々な要因が重なってしまったのだ。晶は意を決してファウストに提案することにした。もう贈り物は十分であると。だが、できればこのままファウストとのお出掛けを続けさせてほしい、と。
     自分のそんな思いをうまく伝えられるか不安で晶はゆっくりと言葉を紡いでいく。果たして贈り物に対して嬉しい気持ちがあることがちゃんと伝わったのだろうか。恐る恐る彼の表情を見ると、ファウストからの反応は笑みだった。
     わ、笑われた——⁈
     晶は思わず唇を尖らせる。こんなにも自分が必死に考えたことなのに。子供っぽいと思われてしまったのだろうか。そう思われても仕方がないだろう。なんといっても彼は自分よりも二十倍は生きているのだから。そんな彼にしてみれば赤ちゃん同然なのかもしれない。
     そう思っているとファウストから渡された贈り物を持つ手が温かなもので包み込まれた。見るとそれはファウストの手だった。思わず顔を上げると思っていたよりも近くにファウストの顔があり、動転してしまう。
    「これからは僕も配慮するようにするよ。だから、君さえ良ければこれからも僕からの贈り物を受け取ってほしい。……だめかな?」
     どうやらファウストが笑みを浮かべたのは子供っぽいと揶揄ったのではないらしかった。安心したからか晶からふっと力が抜ける。想いを寄せる相手からの贈り物は嬉しい。けれど、負担になっていなければいい。気にしすぎると彼の自尊心を傷つけてしまいかねないから、きっと彼が気にしないくらい軽い言葉を選ぶ。
    「……ファウストが無理していないのなら」
    「君への贈り物を選んでいるときは僕にとっても楽しいひとときで間違いないよ。そう言ってくれてありがとう、賢者」
     その直後、晶は何が起きたのか理解できなかった。ファウストの指先が晶の顎の下へ添えられ、軽い力で上向かされる。視界にファウストの顔が近づいてきたかと思うと、顎に柔らかいものが押し付けられた。
     
     きっと、ファウストも俺のことが好きなんだ!
     晶は走り出さずにはいられなかった。魔法舎の中のふかふかした絨毯がうるさいはずの足音を全部吸い込んでしまう。
     どうしよう、どうしよう。こんなこと、初めてだからどうすればいいか分からない。
     幸か不幸か晶の部屋は二階にあった。走っていればあっという間に着いてしまう。自分の部屋の扉を前にしてこのまま入ってしまうか晶は思案する。このまま走り出したとして、どこへ向かえばいいか分からなかった。もしかすると他の魔法使いに見つかってしまうかもしれない。そうすればきっと、晶が走っている理由を聞かれるだろう。だが、その時にどう答える?そこまで考えると晶は一気に冷静さを取り戻した。
     どう答えればいいんだろう。
     金属のひんやりした感触が手のひらに伝わる。ゆっくりと回して自分の部屋への入る。視界に真っ先に飛び込んでくるのはファウストからの贈り物たちだった。ファウストからの贈り物が嬉しくて、ひとつ飾ったのが始まりだった。それ以降も増えていき、今では自分の部屋へ帰るとファウストが出迎えてくれていると思えるくらいになっていた。
     ——恋人?
     いや、まだファウストから明確な言葉はもらっていなかった。幾度となく逢瀬を重ね、今までより遥かに距離感は近づいたと言えるだろう。それに、とうとう今日は顎にキスまでされてしまった。言葉にはしていないだけで実はもう恋人関係になっているのかもしれない。元々いた世界では告白しない文化の国もあると聞いていた。だから否定はできない。でも、ファウストは誠実な人だった。言葉も心も大切にしている。だからきっと交際が始まる時には言葉で告げてくれるはずだと思った。
     けれど、彼は顎にではあるがキスをしたのだ。交際前に真面目な彼が手を出すだろうか。いや、きっと出さないはずだ。でも顎になのだ。唇ではない。顎へのキスはどんな意味だったか。晶はどうしても浮き足立つ感覚が抑えられそうになかった。
     だが、それだけなのだ。手を繋いだことも抱きしめられたこともまだなかった。
     だから晶は軽率にファウストとのことを他の魔法使いに打ち明けるわけにはいかない、と考え直す。もしかすると自分の勘違いかもしれないのだから。
     晶は手の中にある新しい包みの存在を思い出した。今回はなんだろう。晶は丁寧に包みを解いていくと、中から出てきたのは白と黒、それぞれ一匹ずつの猫の置物だった。昼間のファウストとのやり取りを思い出す。ファウストの部屋にあるものと同じものなのだろう。つまり、これはきっとお揃いなのだ。お揃い、それは多分初めてなのではないか。
     晶はこれまでの贈り物たちを少しずらして二匹の居場所を作ってやる。一番目立つ訳ではないが、ちゃんと視界に入る場所。
     二人の部屋に共通して出入りする魔法使いはそう数が多いわけではなかったが、気が付いたらどう思うだろう。
     そもそも、贈り主はなにを思ってお揃いにしたのだろう。
     答えを求めるように晶は指先で軽く黒猫の頭を撫でてみた。
     
     晶は人一倍責任感が強かった。生来の気質として真面目なのもあったが、自分を慕ってくれる美しい魔法使いたちのことを思えばますますその「真面目さ」に磨きがかかっていくようだった。だからこそ、ファウストへの想いを成就させる気はなかった。なぜなら晶はこの世界において魔法使いたちの為に在るのだから、どの魔法使いたちに対しても平等に接しなければならない、と思っているからだ。
     だがどんなに想いを無視しようにも一度生まれてしまったものはどうすることもできなかった。不安定な気持ちは静かな夜に厄災の光に照らされて寝台にひとり横たわる時にますます強くなるような気がした。
     早くこの想いにけりをつけてしまいたい。だが自分ではこの想いを殺すことは難しかった。だから、できれば、彼に引導を渡されたい。他人本願だとは思うが、もうそうすることでしか決着はつけられないところまで、晶は大切にファウストへの想いを育ててしまっていたのだった。
     その日は思いの外すぐにやってきた。バレンタインデーである。
     どうやら以前の賢者が適当なことを吹き込んでいたらしいが、それに関しては晶がちゃんとした情報を伝え直していた。日本における風習と、海外の風習それぞれを。
     それは魔法使いたちのお気に召したのかあっという間に情報は広まり、街へ出たり材料を用意して作ったりして当日への準備を進めているようだった。楽しそうな魔法使いたちの様子に晶もなにかをしたくなってしまった。
     それならば、と晶はネロに協力をお願いしてチョコレートのお菓子を作ることにした。
     ネロに薄く輪切りにしてもらったオレンジを鍋に入れ、砂糖と共に煮詰めていく。ぐつぐつと生まれては消えていく泡たちをぼんやりと眺めていると、ネロが何気ない調子で晶に問いかけた。
    「なあ、賢者さん。みんなに配る用だけでいいのか?」
     晶は鍋からネロへと視線を移す。ネロはネロでなにか作っている様子だった。なんですか、と問いかけても「内緒、賢者さんにもあげるからさ、楽しみにしててよ」と言ってはぐらかされてしまうため、大人しくネロの言う通りにすることにしていた。
    「ああ、いや、賢者さんってさ、好きなやついるだろ」
     ちょっと気まずそうに視線を泳がせるネロの口にした言葉を晶は咀嚼する。つまり、ネロにはバレていたということになる。
     そもそもネロは人をしっかり観察してあれやこれやと考えながら料理を作る魔法使いだった。だから、晶が誰かに想いを寄せていることなど簡単に気づいてしまったのだろう。そしてネロは正しくバレンタインデーの意図を解釈し、気を遣って問いかけてくれたのだと晶は思った。
     ネロからの申し出に晶は考える素振りを少し見せた。実のところ、もう結論は出ていたので見せるための振りでしかなかったが。
    「ありがとうございます、ネロ。でも俺は関係を変えるつもりはないので特別なチョコレートを作ったりするつもりはありません」
     この返事にネロは少し考えるようにゆっくりと目を瞬かせていたが、「あんたがそう言うなら」と言うと自分の作業へと戻っていった。その姿はどことなく寂しそうなものに見えた。
     
     バレンタインデー当日。
     晶は魔法舎で魔法使いを見かける度に日々の活躍を労いながらあの日ネロと共に作り、クロエとともに可愛らしく包装したオランジェットを手渡した。嬉しそうに受け取る魔法使いや、自分からもと用意したものを手渡してくれる魔法使いもいた。
     だがオーエンに出会したときは晶は少し慌てることになった。晶の持っている袋に目をつけ、残り全部を頂戴というだけでなく、受け取った分も美味しそうだから貰ってあげる、と言うなり気がついたら晶の袋はオーエンの手の中にあったのだ。困ります、そう言いながら返してもらえるよう説得しようとした矢先だった。そこに偶然通りがかってしまったのがオズとフィガロだったのだ。
     
     取り返してもらった安堵はあれど、その後の騒動を思うと疲労感が強い中、みんなの思いが込められた大切な袋を胸に抱えながら晶はとぼとぼと魔法舎の中を歩いていた。一人ひとりの個性が際立つ沢山の包みの中に、晶が包んだものがひとつぽつんと残っている。渡したい相手はあと一人。よりによってその魔法使いを見つけることができなかった。
     彼は真面目な魔法使いだから、自分の国へ一時的に戻るのにもちゃんと一言告げてから出発をするというのに、朝から姿が見えなかった。他の東の国の魔法使いたちは魔法舎にいてそれぞれが好きなことをしている。行方を訊ねても皆知らないと口にするばかりだった。
     どこへ行ってしまったのだろう。晶が項垂れたときだった。
    「賢者」
     声のした方へぱ、と振り返るとそこには晶が探していた張本人が立っていた。
    「ファウスト」
     何処へ行っていたんですか、喉から出かかる言葉をぐ、と飲み込む。特に予定を合わせていた訳ではない。ファウストも晶も互いに自由なのだから、責めるような立場ではないと思ったからだ。
    「ヒースたちからきみが僕のことを探しているって聞いたのだけれど」
     皆んなに気を遣わせてしまったか、そう晶が少し反省しながら袋の中から最後の一つとなった包みを手に取る。差し出すとファウストは素直にそれを受け取って「これは?」と口にした。
    「賢者の魔法使いの皆さんに配っていたんです。今日はほら、バレンタインデーだから」
    昨日ネロに教えてもらいながら作ったんですよ、そう言いながらファウストだから特別という訳ではないことを強調した言い回しをする。ファウストはそうか、と言いながら軽く包みを揺らしながら「後でありがたく食べさせてもらうよ」と微笑んだ。きっと包みを開けて合うお酒や紅茶を考えることを楽しみにしているのだろう、と思った。
     そんなささやかな楽しみを考えている彼に水を差すのが嫌になった、というのは言い訳になるのだろうか。結局自分が傷つかないための言い訳を考えていたのかもしれない。やっぱり、今はやめておこう。都合のいいことに他の魔法使いたちと同じチョコレートをあげたのだからなにも言わなくたって変ではないだろう。そう考えることにした。いつかこの気持ちを粉々にできる機会があるかもしれないし、そんな機会がないまま元の世界へ帰ってしまうかもしれない。それもありかな、と思ったのだ。そもそも誰かと恋人になるために自分はここにいるのではないのだ。浮ついた気持ちで「賢者」などと名乗るのは軽薄だとさえ思った。
    「じゃあ、俺はこれで」
    そう言って彼に背を向けて立ち去ろうとした晶を止めたのはファウストだった。振り向くと、先程までは持っていなかったはずの包みをひとつ、手にしていた。
    「僕からも、君に」
    夜を思わせる群青色にきらきらといくつもの星が箔押しされ、それを横切るように金色のリボンが掛けられていた。
    「わ、綺麗ですね……どうしたんですか、これ」
    角度を変えるとちかちかと瞬くように見えるそれにすっかり心を奪われた晶は角度を変えては眺めている。
    「中央の店では誰かと被ると思ったから、東の国まで足を伸ばして買いに行ったんだ。僕も嵐の谷にいた頃何度か行ったことのある店だから味は保証するよ」
    「わざわざ東の国までですか?」
    「ああ、君の——」
    晶はファウストが紡ぐ次の言葉を固唾を飲んで待った。
    「君への、日頃の感謝を込めて」
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    Replies from the creator

    yutaxxmic

    MAIKING #ふぁあきくん週間 お題の「バレンタインデーの後で」になります。
    「後で」のタイトルなのによりによって当日の話で前編として投稿させていただきます。(終わらない気がしてきたため、保険です……)
    バレンタインデーの後で⚠️2023年バレンタインデーボイス
    ⚠️前編です

     俗世を離れて四百年が経っていた。
     人里離れた嵐の谷で自給自足の生活。生業として呪い屋をしていたが特に具体的な報酬を設定していた訳でも無かったため、気味悪がって成功報酬を渡そうともせず隠れるように去っていく多くの依頼主の中に、時折なにを思ったか大金を置いていく者もあった。元々浪費をするような時代を生きていた訳でも性格でもなかったため、金銭は貯まっていく一方だった。
     それがどうしたことか。
     ファウストを取り巻く状況が一変してしまったのだ。半数の賢者の魔法使いを石へと変え、ファウスト自身にも命を落としかねない重傷を与え、厄介な傷痕を残していった厄災との戦いを機に拠点を嵐の谷から魔法舎へと移し、そこでの新しい生活が始まった。そして変わったことは生活の環境だけではなかった。これまでは時折顔を合わせるヒースクリフの面倒を見るだけだったのが明確に「先生」としての役割を与えられてしまったうえに、生徒は三人に増えていたのだ。
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