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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    甲操 春告鳥の色びと
    春告鳥一作目謎パロ

    ##甲操
    ##春告鳥
    ##パロディ

    2021.01.29

     誰に読まれることもない記録をつけている。私自身の言葉が残ることはないけれど、形を変え、飾る言葉を変え、物語となって人間に伝えられていくよう施された書に、延々と記録をつけている。そうして日々を過ごすよう定められて生まれたのは、いつの頃だっただろうか。私のようなモノを、人間は妖精と呼ぶらしい。世界には、そういうふうに生まれ持った役割を果たして生きているモノが、私の他にも様々に暮らしている。たとえば、春告鳥。私は春が好きだ。彼らの愛が、この国の春を告げている。だから、春告鳥と呼ぶのだそうだ。

     春日井の色男が生まれたばかりの雛を配偶者にしたという事実は瞬く間に春告鳥じゅうの知るところとなった。なんの事はない、単純な恋愛結婚だというのに、尾鰭は好きに伸びてゆく。
     卵の美しい色形から見初めていただの、欲しさのあまり断られるのを恐れて親元から拐かしただの。あげつらうように好き勝手をまくしたてられるのは、色男と呼ばわれるとおり、見目の美しさが起因している。群れから離れ気ままに浮かぶ美しい男、ともなれば、興味の的になるのもやむなしではあった。
     とはいえ一歩踏み込めば繊細と分かる男を噂の的にして、本人にさえ届くようなお喋りを続けてしまうのは、春告鳥の悪い癖だった。どんなものにも心を寄せるくせ、見目にこだわっては下世話に噂をまくし立てる。そうした性質が色男を群れから離れさせた事には、誰一人気付いていない。
     春告"鳥"といっても、皆が人間の知る鳥の姿をしているわけではない。心を寄せたものに合わせて、人間を模倣してみたり、花の形を倣ってみたりと、各々が好きに姿を変える。もちろん、その名の通り鳥のままでいる者もそこそこに。
     なにをも愛せるし、なんにでも変われる。彼らは自由だ。春を無事迎えれば気ままに空を舞い、夏の陽射しに肌を焼き、秋の豊穣で心ゆくまで腹を満たし、冬の寒さにも、明日の太陽のまぶしさへ思いを馳せる喜びを見出して生きている。愛するものの命や心のあるなしに関わらず、愛しい何かに春の暖かさを与え、季節の巡りのすばらしさを伝える為に、彼らは生きている。
     彼らは何かを愛するほどに、その命を伸ばす。定命を持たない種族でもあった。生まれたてであろうが形を整えて生まれてくるし、幕引きの瞬間まで姿を変えずに生きていく。愛するものを見守る為、愛したものの見た世界の変化を見届ける為。愛の相手が心から消えぬ限りは、彼らの命は永らえる。
     春告鳥の愛は、見返りを求めない。身勝手で一方的なものだ。だから愛と呼ばれる。なにかを一心に愛しながらも、つがいを求むる性質を持つのも、また春告鳥の特徴だった。色男に売り込もうとする春告鳥は、それはいくつもにいたという。皆、舌を巧みに動かすけれど、色男の心を見てはいない。己の名を知らぬまま口説かれたところで、動く心などあろうはずもない。おもしろくもない理由の他に色男が嫁を求めようとしなかったのは、心を寄せる人間がいたからだ。彼女に愛してほしい。彼女に恋心を報せたい。人の目には映らぬと理解しながら、些細な喜びを大切に受け止める少女を、足繁く通ってはよく眺めていた。少女が一歩を踏み出すまでは。
     雛と結ばれる少し前、恋い慕った少女が長いあいだ見つめた男に想いを告げると決心したので、色男は、そこで生の幕を閉じるつもりだった。どうであれ、結果を見た己が、少女の他に心変わりしてしまうのが恐ろしかった。少女の幸せがあれば良い。彼女に恋をし、愛した生き方一つでいい……それに、彼女の心は暖かで美しいから、俺の代わりに顔も知らぬ誰かが彼女に春を与えてくれる。彼は、少女が想い人の背中に向けて駆けてゆくのを見送ってから、よく晴れた空を見上げて、心を閉ざして、消えるつもりだった。そこに卵が落ちてきた。文字通り、空からぼんやりの親に手放されたかのように。けれども見上げて見渡しても、青空にいくつかの雲の切れ端が見えるばかりで、羽根の影も見当たらない。
    「お前はどこから落ちてきたんだ?」
     白の帽子をかぶせたような灰色の卵を抱きかかえ、ぬくもりを伝えるように、一度撫でた。返事をしたがるように、卵が身震いをする。震えが大きくなるので抱えていられなくなって、若草に下ろして収まるのを待つ事にした。やがて殻を壊して飛び出した少年の瞳が色男の瞳を見て……笑う。
    「抱きしめてくれてありがとう」
     互いが互いを見て恋をした。だから繋ぎ止めた。単純な話だ。
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