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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    来主操 ぼくの誕生日

    ##操の日

    2021.03.30

     朝から風の強い日だった。大急ぎで行き交う雲も、せっかく咲いた花弁を散らすぬるい風も、地下に据えられたアルヴィスに籠もってしまえば関係無くなるけれど。
     調整の為に招かれたブルクという場所で器を見上げる僕と、計測された僕のデータで議論を重ねる保や、イアン、それから羽佐間容子。もう少し作業員がいるらしいけれど、僕と器について話す日は、決まってこの三人が側に来てくれた。
     来主くん。操くん。彼らが呼んでくれるのはどちらも僕の名で、どちらとも僕の名ではない。僕の前にいたコアに与えられた役割を人の言葉に直したものを、人間と話すために拝借した。だから正確には、僕に名前は無い。人間の言う、こどもという継承方法を得られない以上、「俺」はずっと来主操だ。僕がいなくなっても、次の子がまたその次の子に引き継いでも、ずっといつまでも同じまま。
     この名前は、僕だけのものじゃない。
    「来主くん。ぼうっとしちゃって、退屈だったかしら?」
    「ううん。ここにはたくさんの感情があるから楽しいよ。ただね、皆が呼んでくれないままだったら、僕は名乗らなかったのかもしれないと考えて」
     気にかけてくれているのは、羽佐間容子。僕に貸与された器の主の母親だ。いなくなる恐怖を乗り越えてまで、この未来を選んだ強いあの子の親になったひと。彼女は、数いる個体の中でも特別やさしい。優しくて、懸命で、柔軟で、強い人だ。癒えはしない強い悲しみに今も苦しみながら、生きる為に、カノンの戦いを無駄にしない為に。脚を折らずに、ずっと戦い続けている。
    「以前島に来たボレアリオスのコア……で、いいのかしら。彼は、役割を訳した名を、私達を理解するのに最適だから名乗った、と言っていたわ」
    「うん。僕も同じように感じるし、呼びかける相手固有の名称がなければ不便だと思うから、彼の名前をもらったんだ」
    「それで、あなたは「自分も来主操だ」と言ったのよね?」
     誰が伝えたのだろう。きっと美羽だ。人間は他にも大勢いたけど、そんな気がする。彼女は伝達能力に長けている。うまくアルタイルを懐に入れてからも、人と人、人とフェストゥムの架け橋を担おうとするだろう。その時、緩衝役に徹しようとして、日野美羽という個をかなぐり捨ててしまわなければいい、と思う。生まれて嬉しい僕の気持ちを、世界で一番最初に肯定してくれた女の子。僕の命を、まっさらな心で祝福してくれた彼女を、手放さないでほしいと。
    「そう。もう、ミールの指先ではないし、選択一つですべてを変えられるわけではなくなったけど……」
     けど、なんだろう。曖昧な感じ方を、どの言葉で伝えればいいか、まだ、咄嗟にはわからない。左胸の鼓動に手のひらを当てて深呼吸をする。清潔になるよう循環されたブルクの空気を吸って、吐いて、もう一度吸って。それから、何も言わずに待っていてくれた羽佐間容子を見た。
    「与えられた名前がうらやましかった、のかも。借り受けた名前でもいいから、僕を呼んでほしいと、願った、のかも……」
     僕の名前、を、選択した時点の思考を取り出せない。感情を膨らませ続ける日々に、岩戸での思考が塗り潰されている。歓迎するべきことで、怯える必要など無いはずなのに、手が震えた。元来単調な思考には、人間の感情は魅力的で暴力的だ。感情を会得すればきっとわかるだろうと、ミールの記録に手を伸ばしたあの日の自分は、何を考えていたのだろう。
    「自分を呼んでもらっていると感じるのは、どんなとき?」
     俯いていたらしい。震えるままの手に添えてくれる白い手と、優しい声に顔を上げた。
    「目の前の、僕を見て、意識して、呼んでもらう時?」
    「私には正解はわからないわ。でも、あなたが欲しがって名乗ったのなら、今はあなたの名前として独占しても、いいのじゃないかしら」
     僕の名前と思っていい。たったそれだけの言葉で震えが止まる。同じ名前だとして、この先いろんな子に与えられる名だとして、今、僕を見てくれる人はたくさんいる。それでいい。そのとおりだった。
     僕を肯定してくれた羽佐間容子の優しさに触れた、からか、呼ばれるたびにうれしがっていたカノンの記憶が胸によみがえる。僕も。
     彼女の代わりだから、ではなくて、僕も、あの愛を、与えられたい。
    「……あのね、お願いをしてもいい?」
    「なあに? 私一人に対してかしら。それとも、島のみんなに対して?」
    「あなたへの、お願いになるのかな」
     柄にもなく呼吸が乱れる。心臓がうるさくなって、緊張しているのだと自覚した。断られるかな。受けてくれるかな。もしも望んだ答えをもらえなくても、これからも、優しく話してくれるかな。
    「僕のおかあさんに、なってください」
     朝から風の強い日だった。星を眺める頃には、雲を連れていなくなっているだろうか。
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