2021.06.09
現パロ
高三×中二
兄、とまではいかないだろうけど、それなりに懐いてくれている年下に恋をしていると明かしたら、やっぱり呆れられるだろうか。それも同性に。自分がそういう意味で慕っていると思っていた同級生の、大事な弟に。
今日だって、姉さんたちが行けなくなったから二人で行こう、と誘われはしたけれど、夏祭りの付き添いとして頼られただけだ。警戒心はあるくせ、愛想はやたらといいから、勘違いした大人に小さい頃誘拐されかけてしまった操は一人での外出を心配されている。操本人が慕ってくれているのと、羽佐間……一番上の姉の、俺と同級生の……翔子のお墨付きもあって、出掛けのお供として認めてもらえただけだ。
でも、受験対策最中の夏祭りに誘われて、しかも二人っきりで、変化を期待するな、なんて難しい話だろう。優しい人に囲まれている操と二人きりになれる機会は、そうそうあるものじゃない。連れ回されて、りんご飴をかじる少年の無邪気な笑顔を見て、胸の奥がうずいた。四年前から知ってる子に、こんな欲を持つなんて。「恋は理屈じゃない」って翔子の言葉のおかげで自己嫌悪には至らないけど、やっぱり、褒められた想いじゃないだろう。黙っているのも難しいほど、大きくなってしまったけれど。
さいわいもうじき、花火が上がる。風物詩にかき消されるように、こっそりと言ってしまおう。見返りは必要ない。どうせ、この土地を離れる事は決まっている。大した距離じゃなくても、頭を冷やす時間くらいは得られるはずだ。
二年前に見つけて以来、こっそり占領してる穴場で空を見上げる。ちょうど、ひとつ前に上がった花火の音が響いた。
「あ、もう始まってるね」
「今年の、なんだか早いよな。さっき来たばかりな気がするのに」
「ね。おっきいの見たら、手持ち花火もやりたくならない? 姉さんたちも甲洋くんに会いたがってたから、休み合う日に一緒にやろうよ」
凝った花火が夜に咲く。赤に、緑に、青色に。黄色が操の横顔を照らす時、見上げるままのふりをして、瞳を輝かせる少年にこっそり目を向ける。今言おう。今だったら、届きやしないだろう。
「好きだよ」
光に遅れて、どうん、と派手な音が鳴る。耳に届く間際、できるだけ口を開かずに囁いた。少し、胸の重石が軽くなった気がした。
「冷える前に帰ろうか。かき氷たくさん食べてたろ? 風呂でちゃんと温まってから寝てくれよ」
まだ音は続いてるけど、終わってから帰るのって、なんとなく寂しいし。名残惜しげに今上がっている花火から目を離した操は、こともなげに成長途上のてのひらをこちらに向ける。
「じゃあ、はい」
「? なに、この手」
繋いであたためろとか、そういうことか? そんな、剣司みたいな事言うやつだっけ。
「だって、今日から恋人同士なんでしょう? しばらく甲洋くんと手、繋げてなかったし。おねだりするならいい機会かなって」
聞こえ、てたのかよ。いや、返事、求めてたつもり、ないんだけど。
「これじゃ足りない? 僕も好きだよ。甲洋くんがずっと大好き」
「……意味、ほんとにわかってる?」
「恋人になってくれるって事じゃ、ないの?」
最初っから負けは決まってたけど。断る選択肢なんか、はなからないんだけど。操のおねだりを突き放すなんて、土台無理な話だった……。