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    okeano413

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    別カプは別時空

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    甲洋と操 伴いの海晴れ

    2022.04.21

    「次はなにを食べたい? だって」
    「……なにをって、誰が?」
     OPENのプレートをひっくり返し終えた来主が脈絡なくそう言った。事細かに聞かなくても内容はわかっている。うぬぼれでないなら、になるけれど。いくらか交流を深めたとはいえ、まだ、主語無しの会話に確信が持てるほどの間柄じゃあない。あと、思う通りの誘いならできれば遠慮したい。剣司のところみたいに、既に完成してる家族と当たり障りなく交流するのならまだしも、家族になり始めのところへ異物として混ざるのはどうにも気まずいからだ。
     だからとぼけて返事をしてみても、来主にはちっとも通じない。わざとやってるのかってくらい、はぐらかしたいものを直球でぶつけてくる。
    「おかあさんのごはん。甲洋の好きなものが作りたいらしいよ」
     まあ、そりゃ、そうだよな。飲食店で食事のリクエストの話題なんて、まして来主からの話題なんだから、羽佐間先生関連しかあり得ない。
    「で、なにがいい? 今夜の献立だから、早めにね」
     就業中は客席に座るな。カウンターに肘をつくな。肩口に花びらの土産がついてるぞ。注意したところではぐらかされてはくれないし、決めたことには案外強情だから、俺が答えるまで動かないだろう。そういう確信だけはある。
    「俺が行くのは決定なわけ?」
    「うん。連れてくって言ってあるもん」
    「拒否権は?」
    「こないだの一緒にごはん、甲洋も嬉しかったんでしょ?」
     答えになっていない。開店直後に世間話を長引かせるのもなんだし、話すうちに、早速お客様の影が見えている。近付く気配を察しているだろうに俺を見上げたままの少年の肩口から薄ピンクの花びらを取ってやって、もう片手で振り向くように促す。動かない。手だけじゃだめか。
    「休憩までに考えとくよ。ほら、ちゃんとお迎えして」
    「はあい」
     言った途端、ご満悦で仕事に戻った。俺が言うのもなんだが、なかなかにいい性格をしている。
     考える、と言っても家庭料理には明るくない。手間のかからないものなどないだろうし、夕食に招いて頂いたのだってつい一昨日の話だ。なにかとショコラを預けている身で今更だが、頻繁にお邪魔するほど図々しくはあれない。
     大体、答えたとしてどう伝えるんだ? 来主は私用端末なんか持っていないし、読心で伝えるのかと勘ぐってみても、羽佐間先生に受信の手段はないはず。肝心の答えに巡らせるよりも、そっちに気を取られそうだ。


     伝達手段については難しい話じゃなかった。ランチタイムが落ち着いた頃、羽佐間先生がショコラを連れてくださったからだ。歳を重ねて歩みの速度はゆるんだが、相変わらず人の生活に寄り添うのが好きな子だから、体調をみながらのんびりの散歩を続けている。先生はこうして、夜はもう冷えるからと、昼の散歩までも引き受けてくださっていた。
    「甲洋くんのところへ行くんだって言ったら、リードをくわえてきてね。そのうち、一人で出かけちゃうんじゃないかしら」
    「すみません、なにからなにまで」
    「気にしないで。私も付き合ってもらってるんだもの」
     お昼を済ませてきたという羽佐間先生の注文はカプチーノと、小ぶりのバニラアイスを添えたプリン。時間帯によってプレートメニューやデザートを合わせてくださる。ミルク関連は来主担当だから、息子の成果を楽しんでるんだろうな。
    「おかあさん、今日のもおいしい?」
    「おいしいわ。コーヒーとの加減がちょうどいいわね。ぜんぶ、操が入れてくれたの?」
    「んー、黒いのはまだ甲洋の担当。濃さがいまいちわかんないんだよね」
    「操、コーヒー飲まないものね。でも、なかなか慣れてきたんじゃないかしら?」
     休憩入りちょうどの訪問と、客足が引いたのもあって羽佐間先生の隣に座ってなついている来主の今日のおやつはメロンフロートと試作のワッフル。ホイップクリームとブルーベリージャムをたっぷり添えて、手づかみでざくざく食べる。近頃はそういう、食べ物ごとの食感を楽しむにハマっているらしい。
     それにしても焦げ茶が目立つ。その、焦げを重視しろとねだられたから言うとおりにしたが、やわらかいほうがおいしいんじゃないのか。正道からずれた要望のおかげで焼き加減を試せたから助かるけれど。
    「これにさ、お絵かきするのもやってみたいんだ。おかあさんはどんなのを飲みたい?」
    「そうねえ。操の好きな雲のかたち、とか。あなたの好きな世界を見てみたいの」
    「ええ、どれにしようかな。五十個くらいあるよ。今日も増えたし」
    「あら。毎回飲んでも追いつけないわね」
     養母子の仲良さげな交流の秘訣は、探り合う、のじゃなく、相手を思いやり合うおかげだろう。仲睦まじい様子を微笑ましく眺めながら、厨房から出てきた黒い影へ目を向ける。
    「……で、一騎はなにやってるんだ?」
    「ショコラにおやつ。茹でたささみ、気に入ってたからさ」
     休憩しろって促しても受け流す男が自ら。すごいなショコラ。よほど気に入っているのか、ほぐしたのをはぐはぐ頬張る姿は仔犬の頃と変わらない。食欲があるのを見ると安心する。
    「羽佐間先生のとこにお邪魔するんだろ? もう、なにを頼もうって決めたのか」
    「……なんで知ってる?」
    「来主が言ってたぞ。帰りに連れてくんだーって張り切ってたけど。違ったか?」
    「ああ……いや、うん、合ってるよ」
     そうでしょうともね。こいつにまで言われちゃいよいよ断りづらい。来主のやつ、外堀の埋め方まで習ったのかよ。学んだのは誰からだ? 溝口さんか、遠見か、西尾さん……ええい、候補が多い。そっちはまあいい。ちょうど向こうも盛り上がっていてこちらへ意識は割いていないだろうし、行き先がばれてるんなら相談してしまおう。一騎の近くにしゃがんで、一応声をひそめておく。
    「思い付かないんだよな。うちじゃ要望なんか通らなかったし、そもそも家の飯ってものを、うまく想像できなくて。どう答えたらいいと思う?」
     返事がこない。一騎からふったのに。困ってるのか、迷うのか、ショコラを撫でる手が止まってる。
    「なんだよ?」
    「いや……」
     顔ごと視線を向けた男は、甘味と苦味をいっぺんに食べたみたいな顔をしてる。総士を育て始めてから気の配り方を変えたのか、一騎の言葉に取り繕わずに答えるとこうなる。昔みたいにずけずけ言われたってもう傷つきやしないのに、促しても、言葉を選ぶように口をつぐむ。なんでだ。
    「普通に、カレーとかでいいんじゃないか」
    「店で毎日お前のを出してるのに?」
    「同じ料理でも、家で食べるのって、なんか、違うんだ。どっちがいいかはともかく」
     もうないのかと頭突きするショコラをなだめつつの一騎は、やっぱり言葉を選んでる。この、気配りを身につけるのが親になるってことなんだろうか。それとも、俺のいない間に少しずつ変わっていった部分に、島を移ってようやく俺が気付いたのか。なんにしろ、むずがゆい。こいつは間違いなく一騎なのに、俺の知っている一騎じゃあ、ない気がして。
     こいつの変化を気にするのも、羽佐間先生が俺を誘ってくださることに戸惑うのも、たぶん、変化を受け入れたくないわけじゃない。でも、確実に俺の心が、一歩を踏み出すことを恐れている。地続きで生きていた頃より、とっくにずいぶん変わっているくせに。
     そのままでいていいと、言ってもらえる。ありがたいことだと思う。だけど、俺のそのままって、どんなだったろう。
    「……甲洋? 大丈夫か?」
    「あ、いや。なんでもないよ。それで?」
     一騎がごまかしに応じてくれるのは、こどもの頃からずっとだ。何度も優しさに付け入る俺には特に顔を顰めない。追求せずにそうか、と続けてくれるから、あとは耳を傾けるだけで済む。
    「なにが食べたいかを聞く時はさ、食材を言ってくれるんでも助かるんだよ。ぱっと思いつくのでも、素直に言ってみたら先生も喜ぶんじゃないかな」
    「へえ……」
     真壁のおじさんからの実例かな。答えには近づかなかったが、参考にさせてもらおう。礼を言おうと口を開く、前にカウンター向こうから来主が身を乗り出してきた。
    「ねえ、おかあさんもう帰るって! お願いしたいもの、決まった?」
     食べたいもの。食材だけでもいいらしい。今の旬ってなんだっけ。眺めるものといえば店舗用の食材ばかり。だけどそういえば、試食につまませてもらった新じゃがの食感が面白いな、と思ったばかりで。
    「……じゃがいもとか?」
     言ってはみたけど、リクエストになるのかな、これ。
    「おかあさん、甲洋、じゃがいものお料理が食べたいって」
     復唱しなくても聞こえてるだろ。そうねえ、と考え込む声の主に顔を見せづらいが立ち上がる。一騎の太腿を枕に寝そうになってるショコラを起こして見送りを済ませたら、来主の思う訪問時間に響かないようにやれる仕事を片付けて、家族の時間にお邪魔する心の準備も始めないと。
    「じゃあ、グラタンにしましょうか。チーズも使ってしまいたいし」
    「僕、きのこ入りがいいな」
    「しいたけ? それともしめじ?」
    「えのきとしめじ!」
    「いいわね。甲洋くんも、それで食べられそうかしら?」
    「はい。ありがとうございます」
     メニュー決定を皮切りに、とんとん拍子に追加も決まる。合わせてピラフにしようとか、サラダになにを入れて欲しいとかの、細かい要望は来主に任せておこう。標的にされていないこういう時ばかりは、来主がおしゃべりで良かったと心から思う。
    「な。食べたいものを言ってもらえるって、嬉しいんだ」
    「先生もそうみたいだな。助かったよ」
    「これぐらい、なんでもないさ」
     それだけ交わして、あれこれ話しながら会計を済ませた来主と先生を、眠たがるショコラと三人で追いかける。珈琲楽園海神島店店員一同揃い踏みの特別送迎。なんて。
    「一騎くん、ショコラの相手してくれてありがとう。今日もごちそうさまでした。それじゃあ、家で待ってるわね」
     家で待っている。わかっていたはずの言葉に体がこわばった。この人の言葉は、喜んでいいものだ。ただ俺が、素直に受け取められないでいるだけで。
    「……甲洋くん? どうかした?」
     店を閉めたら、この人の優しさに満たされた空間へ今夜もお邪魔する。賑やかな会話を途切れさせてしまうのに。
     俺のぎこちなさを知った上で、どうぞと迎え入れてくれるのが嫌なわけではないのに、妙に身構えてしまう。見送ることは慣れているのに。顔が強張ってはいないだろうか。問答を繰り返した幼馴染連中ならともかく、次の交流を許してくれる、約束をした相手との適切な距離感がわからない。
    『また難しいこと考えてる。甲洋の決める距離感って、そんなに大事? 僕たちが来てほしいって言うのを受け止めるのと、どっちが重要?』
    「もしかして、操が強引に誘っちゃったのかしら。だとしたら断りづらかったでしょう。はしゃいでしまってごめんなさいね」
    『なんにも企んでなんかないし、僕がきみを連れて帰りたいって思ったんだから。一緒にいたいなら、ついてきてよ』
     一枚隔てた向こうから、優しい、声が聞こえる。さびしがってるようなショコラの鼻息も。返事の一つもできない俺を、急かしたり責める響きなんかじゃない。隣で押し黙った一騎にも見守られている気がする。どちらにも、気にしてません、行きますと頷けばいい。たったそれだけの、単純な返答が出てくれない。
    「来てもらえたらもちろん嬉しいけれど、無理にとは言わないの。あなたと話せたら、それだけで嬉しいから」
    「だいじょうぶだよ、緊張してるだけだから」
    「操にはそう見えてるとしても、甲洋くんの決めることよ。急かしちゃいけないわ」
    「……はあい」
    「今日はやめておきましょうか。ショコラも、このまま甲洋くんといる?」
     相槌一つ、打てない俺に変わらず優しさをくれる。来主もそうだ。戦場以外で俺を構う利点などないのに、当たり前に言葉を交わしてくれる。遠慮しているだけじゃ伝わらない。ずっと差し伸べ続けてくれる手が嬉しいと、俺からも伝えなくちゃ。
    『いいのか、ほんとに。お前の大事な時間に、俺が混ざっても』
    『いいよ。みんなで食べるごはん、おいしいって思ってたでしょ。僕も同じ気持ちになれて嬉しかった。だから、いいよ』
     居心地のいい場所だった。食事を楽しんでいい場所だった。萎縮する俺を排斥しようとしない……あの場所へ、もう一度、行きたくないわけじゃない。先生を悲しませたいわけでもない。これからも来てもいい、と誘ってもらえて嬉しかった。
     新しい日常が欲しいなら、自分から変えなくちゃ。
    「……あの」
     耳よい言葉じゃなくても、飾り立てるのが下手な俺の言葉でも、言わなくちゃ。羽佐間先生。ショコラ。一騎に……来主。俺をよく見てくれている彼らに、意地を張っても仕方がないんだから。
    「……行き、ます。行かせて、ください」
     顔を上げているのってこんなに難しかったっけ。こう頻繁じゃなくってもとか、補足の言葉を言うべきなのに、答えるので精一杯だ。戦っている方がよほど簡単だろう。俺にはずいぶん遠くなってしまった日常を、今も過ごしていいと与えてくれる。何度礼を尽くしても返しきれないが、せめて受け止められる自分でありたい。
    「ほんとう? 今日、すぐじゃなくってもいいのよ。この子、また誘うと思うから」
     できれば今日がいい。要望をくんでくれた今日がいい。
    「あの……はい。誘っていただいたこと、俺も、嬉しかったので……」
     そう、とほころばせた先生に、ぎこちなく笑みを返す。やっぱり顔はこわばったままだ。でも、言えたから、今はいい。
    『なに、それ。かっこわるい』
    『うるさいな』
    『でも、かっこつけてるより好きかも』
     なんだよそれ。俺が悩むのを好きだのなんだの。来主は一騎や総士よりずっとマイペースだし、これからも、俺の要望を暴いて導こうとするかもしれない。だったら、こっちも好きにやろう。認めて変えるなら、自分からがいい。
    「それじゃあ、待ってるわ。二人でゆっくり帰ってきてね」
     手を振り返してから、ちゃんと言え、とせっつこうとする来主の肘を避ける。よろけても一騎が受け止める。誰かが崩れればフォローして、手が塞がっていればもう一人に任せて。共に過ごした時間はまだまだ短いだろうが、エレメント、なんて仰々しくまとめられる俺たち三人はそういうふうに回ってきた。戦場以外でも、たぶん、これがもっと当たり前になっていく。俺が変化を怖がって閉じこもっても、まあいいやって、開き直っても。
    「はい。先生のご飯、楽しみにしてます」
    「あら、ふふ。責任重大ね」
     からからベルを鳴らして帰っていく先生たちに見えないように、このやろう、と睨む視線を背中に感じる。前回ぶんの仕返しだ。こういう貸し借りへのむずがゆさにも、慣れていくだろうか。どうあれ、感謝の言葉は忘れずに伝えよう。
    「一騎、いろいろありがとう」
    「うん? いいよ。話くらいならいつでも聞く」
    「ああ。また頼らせてもらう。来主も、誘ってくれてありがとうな」
    「僕が助けてあげなくなっても、来たい気は甲洋からちゃんと言うんだよ」
     寄りかかったままですごまれても怖くないな。努力しますよと頷いて、立とうとしない来主を引っ張り起こしてやる。
    「さ、営業再開だ。午後も三人で頑張ろう」
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