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    okeano413

    @okeano413

    別カプは別時空

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    甲操 ロックオンムーンベイビー

    ##甲操

    2022.09.23

    「おはよう!」
    「……」
     元気のいい声が聞こえるが、なんでか体が動かない。フェストゥムも金縛りに遭うのかな。薄ら開いた視界にぼんやりの人影を認めてから、形ばかりの瞼をぎゅうっとつむり直して、まだ寝ていますよのフリをする。
    「ねえっ、起きてってば!」
    「……る、さいな」
     わあっとアラームがかかる。当然狸寝入りは無視された。来主の声が上から聞こえるのって、なんか変な感じがする。
    「甲洋が返事しないからでしょ。ね、すぐだから、起きてよ。急がないと見られなくなっちゃう」
     そりゃあ、休眠中に返事なんかできない。カーテンに陽光が差さないのを見るに、まだ朝日も登っていない様子だし、活動時間には早いはず。そもそも、来主が起きているのだって異常事態だ。いつもは早起きをいやがって、準備を始めるギリギリまでベッドにいたがるくせに。どうにか首を動かして、ベッドサイドの目覚ましを確かめると、日が変わってすぐの二時を示している。朝どころか深夜の時間だった。目が乾いている気がして、もう一度つむる。なにかするなら、寝直すのも億劫だ。すぐ、が済んだらそのまま起きていようか。
    「……なに、こんな時間に……なんの用事」
     そもそも、昨夜はうちに泊まってすらなかったのになんでいるんだ。鍵を開けられたら気配がするはずだし、そもそもショコラが俺を起こしに来ないってことは、また直接侵入したんだろう。なにか珍しいものでも見つけて転移でもしてきたのか。それなら聞いてやらねばならないが、やっぱり起き上がれない。力が入らないってより、腹の上になにかあるせいだ。目をつむったまま何度か上体を起こそうとして、すぐに諦めた。来主がいたずらしてるのかもしれない。起きるまでの試しになにか乗せてるとか、手でぐっと抑えつけてるとか。後者はないな。たちの悪いいたずらはやらないし。
     今の俺はコアにまとわせて造ってもらった体だし、接続不良で体が思考とリンクしきれてないのかな。自分の体だと思ってるこれって、実はどこかで閉じこもってるの俺の思考を反映させた遠隔操作の傀儡だったりして。叩き起こされたせいで、反映が遅れてるとか。
    「んふ。おもしろいことかんがえてるね。傀儡だったら僕の声に応えてくれないでしょ」
     そうかも。じゃ、なんにも原因がないのなら、単に俺が起きたくないだけだ。
     寝ぼけ頭でくだらないことを考えていると、来主の手が頭をかき回した。ぐしゃぐしゃと、すぐ上から。人影も上にあったな。それも横から覗き込むような感じじゃなく、天井との間に見えた。
     あれ、じゃあこいつ、今、どこにいるんだ?
    「起きてよ、ほら。僕に甲洋の目を見せて」
     何度めかの誘いにばち、と瞼を開ける。ブランケットは乱れなくかぶったままで、押さえ付けるもののせいで、胸を上下させるのがちょっと苦労するくらいで。
    「……あ……?」
     腹を圧迫する正体は明快だった。来主が俺の上に乗っている。いわゆる馬乗りというやつ。そりゃあ動けないわけだ。
    「おはよ。ね、着替えたら外に行こうよ。僕はそのまんまでもいいけど、甲洋が気にするもんね?」
     俺を見下ろす少年の手がまた乱暴に髪を撫で回す。倒れかかるついでのように唇が鼻頭を掠めた。捕まえようとすると、ひらりとかわして、廊下へ逃げていく。
     明かりのない扉の向こうに消えていく背中が用意が済んだら付いてこい、といっている。脇目も振らず、軽くなった体を駆使して追いかける。放ったままじゃブランケットがしわになってしまうが、時々なら行儀悪くても構わない。人目があるならなにか羽織でもしたけれど、月以外に見る誰かなんていないだろう。
     数歩で追い付いた隣に並ぶ。広い歩幅でゆったりと歩いていて、どうやら機嫌がいい。店舗じゃなく、もうひとつの玄関口へ向かっている。
    「それで、なんの用事? わざわざ人の上にまで乗って」
    「空をきみと見たくてさ。その格好でいいの?」
    「いい。お前が急げって言ったんだろ」
    「ふうん?」
     そう長くない間二人でぺたぺたと足音を鳴らす。勝手口にサンダルは俺のぶんしかないから、当然来主は俺が抱き上げて連れ出すことになる。棒立ちの膝裏と腋に手を滑り込ませて、首へ抱き着かせてから星のもとへ出る。手が塞がっているから、と頼む前に、来主がハンドルを押して開けてくれた。最初から開けておけばいいんだけど。たぶん、二人とも承知の上でやってる。
     向かうのは明るい方かな。闇の濃い方かな。来主のことだから、月光かな。
    「どっち?」
    「月のほう! 雲が行っちゃったら見えなくなるかも、はやく!」
    「はいはい」
     この格好で急げもなにも。降ろして二人で歩く方が早い。「寝起きのほうがふわふわしてるね」とか言って髪を触りたがるのを好きにさせて、月に近い方へ回る。今日は満月だったはず。おまけに雲がかかっているのなら、思い浮かぶ現象はひとつ。
    「ほら見て、月がいろんな色の輪っかで囲まれてるんだよ。きれいだよね」
     来主の指さした先、二人して見上げた月の周りを薄い光がぐるり囲んでいる。ぼんやりといくつかの色を帯びたそれは、光冠と呼ばれるものだ。確かにきれいだが、よほど目を凝らさなければ見逃す自然現象のひとつ。叩き起こされるのは困りものだが、ささやかな喜びを共有してもらえることは嬉しい。また俺の髪で遊び始める来主を抱く腕に力を込めると、くすくすと笑う息が耳をくすぐる。
    「あんな薄いの、よく見つけたね。眠れなくて空でも眺めてた?」
    「んーん。甲洋、今休んでるんだろうなって思いながら窓の向こうで雲が一生懸命光ってるのを見つけたら、顔が見たくなってさ。寝顔、ふにゃふにゃでかわいかったよ」
    「そのふにゃふにゃを叩き起こしたくせに?」
    「声も聞きたくなったんだもん。あの光じゃ足りない? じゃ、キスしてあげる」
     唇に?
     甘えるつもりで言う前に、むに、と頬に唇を押し付けられる。物足りないって顔をして見せても、当人はしてやったりで満足そうだ。
    「……ふうん。じゃ、気は済んだ?」
    「うん。もう帰ろうかな。起こしちゃってごめんね? おやすみ、」
     一方的に満足して、せぇの、で転移しようとする体を抱きしめる。腕にうまく収まるというには大きいが、おかげでバランスを崩した来主からも、すがるようにしがみついてくれる。来主からの抱擁はちょっと苦しいくらいがいい。そうしてくれたら、俺も壊さないぐらいの力加減で返せるから。
    「ぐえっ。な、なに?」
    「待ってよ。会いたかった、なんて言われたら帰したくない」
    「そ、んなの言ってくない……?」
    「おんなじような意味だろ。顔が見たいなんてさ」
     薄い胸に顔を押し付ける。とくとく、規則的な動悸がちょっとだけ乱れて、すぐに元通りになる。
    「ね、いっかい離してよ。くるしいんだけど」
    「やだよ。今、離したら逃げるだろ」
     言ったら呆れるだろうけど、俺のせいで崩れる音を聞くのが好きだ。さっき、キスをもらった頬を擦り付けて、困ってる様子の来主を連れて家に戻る。開けっ放しの鍵をかけ直なきゃならないから、扉から。
    「せっかく来たんだから、一緒に寝ようぜ。羽佐間先生には俺から連絡しておくから」
     行儀悪く膝で開けたはいいけれど、まだ降ろしたくない。鍵をかけるのは来主に頼まなくちゃ。引き受けてくれたら、来主もそうしたいって言ってくれることになる。ずるいねだりだけど、夜中に飛び込んで来られたんだから、これくらいは許されるだろう。
    「だめ? いてくれるなら、鍵かけてよ」
     捕まえていた腕を少しゆるめてもうひとつねだる。そう長い時間悩まずに、隙間から見える手がずいぶんゆっくり、銀色の鍵をかたりと倒す。
    「……腕枕してくれる? 朝までやってくれるなら、いてあげる」
    「いいよ。一緒に朝寝坊しよう」
     新メニューの準備もあるし、明日、一騎が来る前には起きなきゃならないけど。せっかくの二人きりの夜を、とりとめなく眠って過ごそう。たまになら、こんな夜があったっていい。
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