瘴奸はずっと貞宗のそばにいますよ 北条時行との戦が終わった。最後は見事に出し抜かれた形になったが、貞宗はどこか満足そうな顔をしていた。時行に射抜かれて手当てを受ける土岐に、貞宗は寄り添っている。いつもは自分の世界でしかものを語らない土岐が、他人の言葉を黙って聞いていること自体が奇跡のようだった。
生き方を改めよと貞宗は言う。貞宗らしい言葉だった。人を見る貞宗の観察眼と、その人の在り方を受け止める懐の深さは貞宗という人の良さだった。
「儂が嫌いでない奴はいつも……」
貞宗が土岐に背を向ける。その瞳が一瞬だけ過去を向いていた。
「不器用に生きて早く死ぬのだ」
貞宗の声には寂しさが滲んでいた。誰を思い出しての言葉なのかは貞宗にしかわからない。しかし、その背を見て一人にはしておけなかった。
「妬けますね。大殿にそこまで言わせるなんて」
瘴奸は貞宗の隣に並ぶ。貞宗が目だけでこちらを見た。
「……しぶとく地獄から戻ってきた者もおるな」
「大殿のお隣にいたくて」
貞宗は瘴奸の言葉に何も言わなかった。それでも隣に立つことを許されている気がして、瘴奸はそれだけで心が満たされる。
貞宗も何やら満足そうに夜空を眺めていた。やはり貞宗は誰かを思っているのだろうが、それを瘴奸が知ることはできない。心が穏やかなのは良いことだが、貞宗の苛烈さが鳴りを潜めてしまうのは寂しくもあった。
すると、書記の僧から受け取った戦闘諸報に目を通していた貞宗が震え出した。どうしたのかと思っていると、貞宗は怒りながら分厚い戦闘諸報を引き破いた。挙句には夜空に向かって叫んでいる。
瘴奸は思わず笑っていた。やはり貞宗はこうであってほしい。瘴奸はこのまま突撃していきそうな貞宗の腕を掴んだ。常興や他の郎党たちも駆け寄ってきて貞宗を取り押さえる。みんなで貞宗にしがみついた。貞宗は重いと言いながらもみんなを引きずっていく。
楽しい夜だった。秋風が心地良く吹いている。このままいつまでも貞宗のそばにいられるような気がして、瘴奸は貞宗を抱きしめる腕に力を込めた。