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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    将監と死蝋の出会い

    ぬくみ 随分と寒い夜だった。いい加減に出ていけと放り出されて、将監は身を震わせながら夜道を歩いていた。鼻まで垂れてきたと袖で拭えば朱に染まる。最後の気晴らしとばかりに頬を張られたときにぶつけた鼻が、今になって血を流していた。
    「あの糞野郎め」
     吐き捨てても聞く者さえいなかった。京の街も外れとなれば、どの家も明かりすら灯っていない。夜露をしのぐ場所さえ見当たらず、将監は風に吹かれるままに足を進めていた。
     やがて荒屋を見つけた。戸も窓も外され、見るからに人は住んでいない。それでも屋根が残っているだけましかと思い、将監は今夜はそこを寝床にすることに決めた。
     中に入ると月明かりさえ届かず、己の足の先も見えなかった。それでも目が慣れればぼんやりと板敷が見える。むしろの塊のようなものが見え、誰かが寝床にしていた様子があった。おそらく将監と似た境遇の者が使っていたのだろう。
     将監はこれで眠られるとむしろに腰を下ろした。途端にギャっと甲高い声が上がる。柔らかいものを踏みつけた感触もあり、将監は飛び退いて太刀の柄に手をかけた。
     むしろが動いた。そこから小さな頭が顔を出す。子供だ。誰もいないと思っていたむしろの中に子供がいたらしい。
    「出ていけ」
     将監は太刀から手を離して言った。今日の寝床はここと決めている。子供であろうと邪魔だった。
     しかし子供は何も言わなかった。怯えているのか、口がきけないのか、暗闇の中で小さな影はじっと動かなかった。
     将監は面倒に思いながら、子供に手を伸ばした。触れたのは手で、その骨ばかりの細い腕を掴んで引っ張り上げる。将監はそのまま子供を外へと引き摺り出した。月明かりが地面に倒れる子供の姿を照らす。まだ十にもならないほどの子供だった。体に合わない小袖は見るからに貧しい者だった。
     将監はそのまま引き返すとむしろに寝転がった。むしろはほんのりと温く、さっきの子供の体温を残している。腰の太刀を二本引き抜くと、抱えるようにして目を閉じた。
     暫くして、小さな足音が近付いてきた。板敷が軋む。将監は目を閉じたままその音を聞いていた。さて子供一人でどうするつもりかと様子を伺っていると、子供は将監の足元にうずくまった。そこだけ僅かにむしろが余っている。それを求めてやってきたのだろう。
     その小さな体を蹴り飛ばすことは簡単だった。しかし、その子供の小さな温もりがじんわりと将監の足に伝わってくる。それは冷えていた体を幾分か温めていった。
     やがてとろりと眠気がやってくる。将監は足元の小さな存在を感じながら夢へと落ちていった。


    「頭ァ!!」
     館に死蝋の声が響く。それは征蟻党にとっては日常の光景だった。死蝋は廊下をずんずんと歩くと、戸を思いきり開けた。
    「いつまで寝てんですか!もう夜ですって!」
     褥で布団を被り、身を丸める将監に死蝋は大声をかける。それでも将監は身動いだ程度で起きようとはしなかった。
    「頭ァ!起きてくださいってば!」
     死蝋は布団を掴むと引き剥がそうとする。しかし将監は布団を掴んで離そうとしない。布団は死蝋と将監の間で引き合いになるが、寝汚い将監は絶対に手を離そうとしなかった。
     死蝋の口から舌打ちが出る。なんだって自分はこんな糞面倒なことをさせられているのかと苛立った。いっそ外に引き摺り出してやろうかと、死蝋は布団から手を離して将監へと手を伸ばす。
     途端に死蝋の脳裏に寒い夜の記憶が蘇る。行く当てもなく辿り着いた荒屋で、今にも朽ちそうなむしろでようやく眠れたと思ったら、突然現れた男に外へと放り出された。死蝋の体は凍え、冷えた耳はちぎれそうなほど痛んだ。このまま死にたくないと恐れながら荒屋に戻り、死蝋は己に死の恐怖を与えた男の足元に身を埋めた。
     あの屈辱は消えない。死蝋はまた舌打ちし、将監に伸ばしていた手を止めて、布団を乱暴に引っ張った。
    「この糞野郎ッ」
     勢いよく布団を引っ張り上げた死蝋の足に、将監の足が触れた。今まで布団で温めていた足は、寒さに耐えられないとばかりに死蝋の足で暖を取っている。その丸まった指先が、死蝋の足首へと絡みついた。
    「なに寝惚けてんすか」
     死蝋は引き剥がした布団を部屋の隅に放り投げる。ここは京でもなく荒屋でもない。己は非力な子供ではなく、この男も、恐怖の存在ではなくなった。それでもなお、この男は自分を利用するように温もりを求めている。
    「……いい加減にしろっての」
     昔も今もこの男は変わらない。あの夜、ただ生き延びるために温もりを乞うた。それなのに、今でもこうしてこいつは、俺の体温を当たり前のように奪っていく。
     この男のせいで人生を狂わされたと死蝋は思う。あの荒屋で一人で凍えて死ぬはずだったのに、傍若無人な訪問者の足の温もりを、死蝋はまだ忘れられないでいる。
     
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