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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    ⬜️🐜(⬜️記憶なし)

    #死瘴

    幸せに名前なんてなかったから3「断ってよかったのか?」
     新三郎の言葉に、瘴奸は一度目を伏せてから、ゆっくりと頷いた。
     死蝋は連絡先を教えろと言ってきたが、瘴奸ははっきりと断った。そのまま家の中へ逃げ込んだから、その後のことはわからない。貞宗が追い返したと言っていたから、諦めて帰ったのだろう。
    「ほれ、アイスを食べるぞ」
     貞宗が冷凍庫から出したアイスを持ってきた。差し出されたアイスを受け取ろうとすると、貞宗はそのアイスを瘴奸の頬に当てた。冷たさに思わず声が出る。貞宗はその反応に笑うと、すまんすまんと言いながら瘴奸の頬に手を当てた。ついた水滴を拭うように動く手に、瘴奸は頬を擦り寄せる。誰かの視線が背中を撫でたような気がして振り返ると、常興と目が合った。常興は小さくため息をついて背を向ける。今回は見逃してくれるらしい。
    「ほれ、美味いぞ」
     貞宗はアイスの蓋を開けるとスプーンでアイスをすくった。スプーンの縁でとけたアイスが垂れる。口に入れたアイスは甘く、バニラの優しい香りが涙を誘った。
     その翌日、瘴奸は仕事の休憩に公園に立ち寄った。薄曇りで風の強い日で、風を避けながら煙草に火をつける。弁当包みには貞宗の握ってくれたおにぎりがあった。
     瘴奸は俯いて地面を見つめる。蟻が一匹彷徨い歩いていた。何も考えずに煙草を喫むが、どうしても死蝋のことが頭を過ぎる。
     すると、軽い金属音がした。見れば瘴奸が座るベンチに缶コーヒーが置かれている。顔を上げれば死蝋が立っていた。
    「お前、ストーカーは犯罪だぞ」
     昨日に続きまた姿を表した死蝋に、もしや発信機でも付けられているのではないかと思う。
     すると死蝋は瘴奸の隣に断りもなく座った。
    「ストーカーじゃないって。昨日のは後をつけたからだけど、今日のは違う」
     後をつけて家を突き止めたことを白状した死蝋に、瘴奸は苦い顔をする。しかし死蝋には悪びれる様子がなかった。
    「さっきそこのビルにいただろ」
     死蝋が指差したビルは、先程まで瘴奸が窓拭きを行なっていたビルだ。瘴奸はゴンドラに乗って高層階を掃除する仕事をしている。
    「俺、あそこのビルの中で働いてんの」
     死蝋は首から下げていた社員証を見せてきた。その会社名には覚えがある。窓拭きの最中にその会社名を見ていた。
     瘴奸は死蝋をまじまじと見つめた。死蝋はカジュアルなジャケットに大きなロゴの入ったTシャツを着ている。自由な気風の会社なのだろうか。ともかく、裏社会との関わりは無さそうだった。
    「真っ当な職に就いてたのか」
    「それどういう意味?馬鹿にしてんの?」
     だってお前は前世で碌に字も覚えなかったじゃないか、と言いたくなるのを瘴奸は堪えた。死蝋は肩をすくめると「別にいいけどさ」と素っ気なく言った。
    「俺がビビったわ。窓の外にあんたがいたんだもん。こっちは中にいて気づかれないし、昼休みに見たらいなくなってて……公園に向かうのが見えたから追いかけた」
     前世で縁があった者同士は自然と引かれ合う。瘴奸が貞宗たちと今世で出会ったのもそのためだった。気まぐれな運命が死蝋と瘴奸を会わせたがっているのだろう。
     死蝋の視線が刺さる。瘴奸は煙草を灰皿に押し込み、視線をそらした。立ち去ろうと弁当包みを手にする。
     すると死蝋の手が瘴奸の手を掴んだ。
    「俺、あんたに会ったことあるよな?」
     目の前にいる死蝋に、昔の姿が重なる。瘴奸は口走りそうになった言葉をすんでのところで飲み込んだ。
    「思い出せねえんだけど、会ったことある気がしてさ。あんたも俺のこと知ってる感じだし……教えてくれよ。あんた、誰なんだ?」
     悪気がなさそうに笑う顔が昔と同じだった。同じなのに、何も覚えていない。それが酷く腹立たしかった。
    「お前が思い出せばいいだろ」
     突き放すように言って立ち上がる。胸が悪い気がして、ポケットから薬を探った。
    「じゃあヒントちょうだい。名前教えて」
     死蝋の手は瘴奸を離さない。その感触に肩が震えた。息が不規則になり、汗が吹き出すような感覚がして視線が泳いだ。とにかく逃れたくて口を開く。
    「……平野」
    「下の名前だって」
     息が苦しい。泣き叫ぶ子どもの声が耳の奥で響いた。それを掻き消すように下卑た笑い声がする。それが己の声だと気付いて瘴奸は息を詰めた。
    「……どうした。具合悪い?」
     死蝋の声にはっとして、瘴奸は掴まれていた手を振り解いた。ようやく見つけた薬剤シートから錠剤を出して口へ放り込む。そのまま瘴奸は歩き去った。
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