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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    POIPOI 274

    なりひさ

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    マトリフとポップのクリスマスの話

    聖夜の贈り物 良い子が眠るクリスマスイブ。その夜は星が綺麗に見える夜だった。
     ポップはその夜、師匠であるマトリフの洞窟へと来ていた。お手製のチェリーパイでささやかなクリスマスディナーを楽しんだあと、ポップは先に寝ることにした。寝酒を飲みながら本を読んでいる宵っ張りの爺に付き合っていては、明日のダイとの約束に寝坊してしまう。
     ポップが暖かな布団に包まってウトウトとしていると、微かに物音がした。マトリフも寝に来たのかとポップが夢現に思っていると、何やら妙な気配がする。人ではない何かが近くに来たような気がして、ポップはぱっと目を覚ました。
    「ぎゃっ!」
     目を開けたポップは驚いて飛び退いた。何か黒い影が宙に浮いている。するとその黒い影はゆっくりとポップの布団の上に下りてきた。ポップは慌ててメラで蝋燭に火をつける。そこにあったのは紙で包まれた何かだった。
    「なんだこりゃ」
     それは両手で持つくらいの大きさのものだ。ポップは恐る恐るそれを持つ。それなりの重さがあった。
    「サンタからのプレゼントじゃねえか」
     そう言ったのはマトリフだった。それはそうだ。この洞窟にはポップとマトリフしかいないのだから。マトリフは酒瓶を片手にニヤニヤとしながらポップを見ている。
     そこでポップはピンときた。これは素直ではない爺からのクリスマスプレゼントなのだと。さっき感じた妙な気配は、このプレゼントを呪文で飛ばしてポップの枕元に置こうとしていたのだろう。
    「なんだよ師匠、普通に渡してくれりゃいいのに」
     ポップは口を尖らせて言ったが、内心では嬉しかった。クリスマスを喜ぶなんてガキっぽいと思いながらも、プレゼントを貰えたことに心は弾んだ。
    「オレじゃねえよ。サンタだろ」
     マトリフはそう言いながら部屋に入るとベッドに寝転んだ。まったく素直じゃねえなとポップは苦笑する。
    「だったらおれも師匠に何かプレゼント持ってくりゃよかったな」
    「ああ? プレゼントを貰うのはガキだけだろ」
    「だったらおれだってサンタにプレゼントを貰うほどの歳じゃねえっての」
     大人ぶりたい年頃のポップにしてみれば、サンタを信じているような年頃と一緒にされては面白くない。
     するとマトリフは珍しく驚いた顔をしてポップを見た。
    「おめえ……まさかサンタを信じてねえのか」
    「おいおい、おれはとっくにサンタなんていねえって知ってるよ!」
     と言ってもその衝撃の事実を知ったのは数年前だ。父と母の気合の入ったサンタ実在小道具によってポップは結構サンタを信じていた。
    「ま、サンタがいねえって知ってひとつ大人になるんだよな」
     うんうん、とポップは頷く。
    「ってか、師匠はおれがサンタを信じてるって思ってたのかよ!」
     あははと笑いながらポップは言ったのだが、マトリフは神妙な顔で何やら考え込んでいる。ポップの顔から笑みが消えていった。
    「……オレがお前くらいの歳の頃は信じてたぞ……」
    「え!?」
     マトリフが特殊な隠れ里で育ったとポップは聞いたことがあった。もしかしたら俗世とはかけ離れた生活だったのかもしれない。サンタの存在とは自分で気付かなくても、年頃になれば兄弟や友達から知らされるものだ。
    「まあ、オレもサンタが実は師匠だって気付いたときは驚いたがな。お前にやった輝きの杖があるだろ。あれはサンタから貰った最後のクリスマスプレゼントだった」
    「マジで!? あれクリスマスプレゼントだったの!?」
    「あれはオレが二十五の時だ」
    「待って待って。それがサンタがいねえって気付いた歳ってこと!?」
     ポップのつっこみが追いつかないまま、マトリフは過去のクリスマスの話をはじめた。



     あれはオレがギュータに来て初めてのクリスマスだった。朝起きてみれば枕元に包みがあって首を傾げた。こんな所に誰が置いたのだろうと不思議に思っていると、同室の兄弟子がそれはクリスマスプレゼントだと教えてくれた。クリスマスにはサンタという奴が来て、プレゼントをくれるのだという。開けてみろと言われてオレは包みを開いた。そこにあったのは手袋だった。魔法使い用の魔法耐性があるもので、それはオレの手にぴったりの大きさだった。それまで兄弟子のお古を使っていたオレは、初めての真新しい手袋が嬉しくて、その日の修行に早速その手袋をつけていった。師匠はオレが手袋をつけているのをチラリと見ただけで何も言わなかった。オレは自慢げに師匠に手袋を見せた。
    「この手袋はサンタがくれたんだぜ」
    「ほう」
     師匠はにこりともせず頷いた。
    「お前のところにサンタが来たか」
    「来たぜ!」
    「あのサンタという者は良い子のところへしか来ない」
    「つまりおれは良い子ってことか」
    「良い子とは修行に励んだ者のことだ。来年もプレゼントが欲しかったら修行に励むことだ」
    「……サンタって何者なんだ?」
     修行を頑張った者にプレゼントを配り歩くなんて、ガキのオレにも奇行に思えた。すると師匠は勿体ぶったように髭を撫でると、明後日の方向を見た。
    「考えてみろ。サンタはこのギュータに来た。見回りの兄弟子たちの目を掻い潜り、お前にプレゼントを届けた。そして音もなく去った。そうやって世界中の修行を励む子へプレゼントを配っているのだ。しかも一人で」
     世界中を一人で飛び回り、音もなく歩く。そんな芸当が出来る存在に、オレはピンときた。
    「……まさかサンタは魔法使いなのか?」
     師匠はゆっくりと首を横に振った。
    「サンタは賢者だ」
    「師匠とどっちが強い?」
    「私だ」
     師匠は即答した。
     それからオレは師匠の言葉を信じて修行に励んだ。そしてクリスマスプレゼントの手袋がぼろぼろになった頃、またクリスマスが来た。
     オレはドキドキしながら布団に入った。見回りに来た師匠が、早く灯りを消して寝なければサンタは来ないと言うものだから、蝋燭の火を吹いて消した。
     夜中、部屋のドアが音もなく開いた。部屋に廊下の明かりが僅かに差し込む。何者かの足がそっと部屋へと入ってきた。
     オレはそれを待っていた。オレはどうしてもサンタの正体を知りたかった。そのためにサンタを捕まえようとした。
     オレは跳ね起きると布団を盾にしてサンタへ突撃した。上手く隠れながら手に作ったバギをサンタへと向ける。だがそれよりも早くサンタはオレにラリホーを唱えた。オレは霞む視界に赤い服を見た。
     翌朝、オレは布団の中で目を覚ました。枕元には真新しい手袋とマントがあった。朝の見回りに来た師匠は、オレを見ると「サンタは来たか?」と尋ねた。オレはサンタと戦ったこと、そして負けたことを話した。すると師匠は
    「サンタの正体を暴こうとしてはいけない」
     と言った。オレは貰った手袋とマントを胸に抱きしめてコクリと頷いた。
     これがオレとサンタの二十年に及ぶ攻防の始まりだった。
     それからオレは毎年、サンタに挑み続けた。師匠の忠告などもちろん聞かなかった。だが何回相手にしてもサンタは手強かった。その顔すら見えないまま十年が過ぎたが、オレは諦めなかった。サンタはいつもモシャスで姿を変えており、捕まえない限り正体がわからない。そしてさらに十年後、オレはついにサンタといい勝負になった。
     サンタはオレのベギラマを受け止めた。相殺されるまでに一瞬の隙が出来る。それを狙ってオレはルーラでサンタの後ろに回り込んだ。すぐさまサンタの後ろ蹴りが飛んでくる。それをバギで緩めながら受け止め、そのままベタンを唱えて自分諸共サンタを足止めした。
     ベタンを受けてサンタが床に膝をついた。だが、ベタンは強制解除される。サンタの掲げた手には強大な魔法力が集まっていた。オレは負けを悟って目を瞑る。だが呪文は飛んでこなかった。
    「……強くなったな。この私に膝をつかせるとは」
     その声にオレは目を開ける。その声はよく知った師匠のものだったからだ。
     見ればそこには赤い服を着た師匠が立っていた。
    「なっ……なんで師匠が……サンタは……?」
    「私がサンタだ」
     師匠は手に持っていた包みを床に置いた。それはいつもオレの枕元に置かれてあるのと同じ包みだった。
    「本当に師匠がサンタなのかよ」
    「そうだ」
     どおり強いわけだ、と思いながらも、オレは不思議な喪失感を覚えていた。本当は心のどこかで、サンタなんていないと気付いていたのかもしれない。だが毎年毎年、プレゼントを運んできてくれる相手に、夢を見ていたかった。
    「お前にはこれをやろう」
     そう言って師匠は白い大きな袋から細長い包みを取り出した。そしてそれをオレに差し出す。
    「お前がサンタの正体に気付いたら渡そうと思っていた……まさかこんなに時間がかかるとは思わなかったが」
     オレは受け取った包みを開いた。そこにあったのが輝きの杖だった。
    「ありがとよ師匠。これまでのプレゼントも。長い夢を見させてくれたことも」
    「マトリフ……」
    「そっか……サンタはいねえのか……」
     師匠はオレをじっと見ると肩に手を置いた。
    「大事なのはサンタが実在するかどうかではない。プレゼントを待つ子供がいたときに、お前がサンタになれるかどうかだ」
    「オレが?」
    「お前は今日でサンタを卒業する。だが……いつか誰かのサンタになってやれ」
     師匠は相変わらずの仏頂面だったが、その声には師匠の優しさが滲んでいた。オレの手の中で杖の宝玉が輝く。その日オレは貰った杖を枕元に置いて眠った。

     ポップは聴き終わるとパチパチと手を叩いた。マトリフは手元のマグカップを見つめると、湯気が少なくなったそれを口へともっていった。
    「それで師匠はおれのサンタに……」
     ポップは胸にじんわりと温かいものを感じながらも、二十五までサンタを信じてたマトリフがちょっと心配になった。綺麗なお姉さんに怪しい道具とか売りつけられそうだ。後でそれとなく注意しておこう。
     その時だった。洞窟の外に派手なルーラ着地音が響いた。
    「な、なんだ?」
     ポップは驚いて洞窟の出入り口を見る。するとそこには青い巨体がいた。
    「メリークリスマス、大魔道士」
     元魔王軍幹部ガンガディアが包みを手に持って立っていた。


    「本だろ」
     マトリフは分かりきっているという顔で言った。ガンガディアは指で眼鏡を押し上げている。口の端を吊り上げてガンガディアは笑っていた。
    「さすがは大魔道士」
    「毎年本じゃねえか」
     するとガンガディアは手に持った包みを肩の高さに掲げた。
    「今年は一味違うと伝えておこう」
    「勿体ぶるな。寄越せ」
     マトリフは受け取った包みを破いていく。するとそこにあったのはやっぱり本だった。ポップからは裏表紙しか見えないが、マトリフはその本を見て真顔になった。
    「堅物にしちゃあいい趣味してんじゃねえか」
     マトリフはにやけながら言うと表紙を捲った。マトリフが喜ぶということはスケベな本だったのだろう。すると途端に本が光を発した。ポップがその眩しさに目を瞑る。光がおさまったと思って目を開けると、そこにマトリフの姿はなかった。
    「師匠?」
     マトリフが立っていたところに本が落ちている。ガンガディアは屈むとその本を拾った。そのときに本の表紙が見え、ポップはぎょっとした。その本の表紙はマトリフの顔になっていたからだ。ポップはトラップブックというアイテムのことを聞いたことがある。本を開いた者を本へと閉じ込めてしまうものだ。
    「まったく。君も懲りないな」
     ガンガディアはマトリフが閉じ込められた本を懐へと入れた。そのまま踵を返して出て行こうとする。
    「ちょっと待ってくれ。大魔道士のお持ち帰りは禁止なんだって」
     ポップはベルトに差していた輝きの杖をガンガディアに向けた。
    「すまないが私は忙しい。これからヒュンケルへプレゼントを届けにいく」
    「は? ヒュンケルに? あいつとどういう関係なんだよ」
    「私はヒュンケルの幼少期を知る者の一人だ。幼いヒュンケルは大変に愛くるしく、私の脚にしがみついて『がんがだいしゅき』と言うような子だった」
    「それ何年前の話なんだよ」
    「だがら私は今年もヒュンケルへプレゼントを届けねばならない」
    「行っていいけど、師匠の本は置いていけよ」
    「あれはヒュンケルがはじめて私を『がんが』と呼んだ日のことだった……」
    「今夜は思い出話は腹いっぱいだから壁にでも向かって喋っててくれるか」
     ガンガディアはちょっと傷ついたように悲しい顔をした。
    「私と幼いヒュンケルのクリスマスにまつわる話を聞きたくないと?」
    「さっき似たような話を聞いたばっかりなんだわ。で、ヒュンケルはいつサンタがいないって気付いたって?」
    「ヒュンケルは今でもサンタを信じている」
    「どいつもこいつもピュアかよ」
     ポップは頭を抱えた。弟弟子として真実を伝えてやらねばと思いながらも、師匠だって長いことサンタを信じてたしそんなもんなのかなと思い始めてきた。
     ポップは語り始めたガンガディアの話を聞き流しつつ、先ほどマトリフから貰ったプレゼントの包みを解いた。そこにあったのは長方形で石と金属で作られているものだった。用途がわからなくて首を傾げる。だがいくら見てもそれが何なのか分からなかった。もしかしたらレアなマジックアイテムかもしれない。
     ポップはプレゼントの何かを抱えながらガンガディアの話を聞いた。小さなヒュンケルとサンタを演じようと奮闘する魔王軍の面々の笑いあり涙ありの話でそれなりに面白かった。
     ガンガディアは話すだけ話してすっきりしたらしく、機嫌良く帰っていった。ポップはその後ろ姿に手を振りながら、何かを忘れているような気がした。

                     

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