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    なりひさ

    @Narihisa99

    二次創作の小説倉庫

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    なりひさ

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    【ごくパ展示】ロカ+マト。最終決戦で呪いを受けて眠り続けるロカ。マトリフはロカを目覚めさせようと奮闘する。しかしロカに残された時間は少なくて……

    #ロカ+マト

    君に残す物語【ごくパ展示】 部屋は眩い光に包まれていた。回復呪文の淡緑の光はロカに惜しみなく注がれ、やがて霧散していく。
     マトリフは回復呪文を唱えながら、ロカに目をやった。その瞼は閉じられ、その奥にある瞳を長く見ていない。このままでは笑った顔すら忘れてしまいそうだと思う。
    「マトリフ、もういいわ」
     レイラの手がやんわりとマトリフの手を止める。マトリフはまだ諦めきれない気持ちでロカの顔を見ながら、回復呪文をやめた。
    「疲れたでしょう。お茶を淹れてくるから」
     レイラは床で遊んでいたマァムに、おいでと誘ったが、マァムは首を横に振って手にした積み木をさらに積み上げた。
    「マトリフおじさん、つみきしよう」
     マァムは手にした丸い積み木をマトリフに差し出す。ロカが寝ているこの部屋が、すっかりマァムの遊び場になっているらしく、ベッドの周りにはおもちゃが散乱していた。
     マトリフはマァムから積み木を受け取る。だがそれを手の中で弄びながら、視線はついロカのほうに向いた。
     ロカは眠り続けている。あの戦いで受けた呪いが、ロカを眠りの世界に閉じ込めていた。マトリフはなんとか呪いを解く方法を探しているが、ロカはまだ目覚めようとしない。そうして眠り続けたまま、一年が経とうとしていた。
     マトリフは延命措置のような回復呪文で時間を稼ぎながら、呪いを解く方法を探している。眠り続けて衰弱していく体を呪文で回復させているが、頑丈さが取り柄のロカですら眠り続けてすっかり体が衰えていた。残された時間があまり多くない。回復呪文は本来持っている生命力が尽きれば効果はないからだ。
     マトリフは布団から出していたロカの腕に触れる。逞しかった腕はすっかり筋肉が落ちて骨が浮いていた。だが温もりはある。ロカが生きていることを自覚すると共に、その灯火が消えることの恐怖を感じずにはいられなかった。
    「おじさん、はやく!」
     マァムの声にはっとする。マァムはマトリフが積み木を積むのを待っていたようだ。
     マトリフは手にしていた積み木を見る。球体のそれは、どう考えても上手く積めそうにない。載せた瞬間に転がり落ちるだろう。マァムは手持ちの積み木を全部積んだらしく、塔のような形をした積み木は、マァムの背丈ほどあった。
     この一年でマァムも随分と大きくなった。赤ん坊だったのが幼児らしくなり、達者に歩けば簡単な会話すら出来る。マトリフおじさん、と屈託もなく呼ぶ顔がロカに重なって見えた。
     マトリフは手にした積み木を塔に置いた。慎重に置いたつもりだったが、途端に木の球は転がり始める。するとバランスを崩した塔も傾いた。マトリフは咄嗟に小さな真空呪文で支えようとした。だが一度傾いた塔は耐えきれずに塔は音を立てて崩れていく。
     マァムは驚いたものの、怒りもせず崩れた積み木を集めた。そうしてまた積み上げていく。その作業をマトリフは見つめながら、どうにもやるせない気持ちになっていた。
     早く目覚めねえとこの子だって大人になっちまうぜ。マトリフはロカにそう言ってやりたくて、だが言えるはずもなくて手を握りしめる。
     あの戦いでもっと早くにロカの元へ駆けつけていたなら、ロカは呪いなど受けずに済んだかもしれない。マトリフが駆けつけた時には、全てが終わっていた。倒れ伏すロカを抱きかかえたレイラの表情で、マトリフは取り返しのつかない事が起きたのだと知った。ロカは最後の力を振り絞って敵を倒し、その呪いを一身に受けたのだという。
     世界に平和が訪れた。だがロカは眠り続けている。そのことに、マトリフはどうしようもない寂寥を感じた。

     ***

     マトリフは書斎に積み上げた本に、さらに読み終わった本を積み上げる。ジュニアール家の書斎の床は、今やマトリフが乱雑に積み上げた本で埋まっていた。反対に壁一面の書架には空白が目立つ。ロカにかかった呪いを解くために魔導書を読み漁っているが、いまだに成果はなかった。
     マトリフは蝋燭の灯りを近くに引き寄せた。いつの間にか外はすっかり暗くなっている。時間はあっという間に過ぎていくのに、得られるものは少なかった。マトリフは髪を掻き上げて項垂れる。目の奥がじんじんと痛んだ。だが肉体の疲労よりも、手掛かりすら見つけられないことが堪えた。ロカに残された時間は少ない。その焦りがマトリフを追い詰めていた。
     すると書斎の扉が開いた。足音から見なくても誰かわかる。
     アバンはマトリフの隣まで来ると、同じように床に腰を下ろした。そして置いてあった本を手に取る。
    「ヒュンケルは?」
    「寝ました。今はドリファンが見ててくれてます」
     アバンは笑みを浮かべて言うが、その表情には疲れが見えた。アバンはマトリフの横に置かれたトレイの食事が手付かずであることを見て、皿に乗ったパンを取ってマトリフに差し出す。
    「無茶しないでくださいね」
     マトリフは本を閉じるとパンを受け取った。ドリファンが手づから焼いてくれたパンは焼きたてが一番美味しいとわかっていながら、つい魔導書を読むほうを優先してしまった。
    「お前こそ、あのガキを預かってて大変だろ」
     アバンはぎこちない笑みを浮かべる。それが二人の関係が良好でないことを物語っていた。まだ大人にもなっていないアバンが幼い子を育てるなんて無茶な話だった。しかしヒュンケルの生い立ちから、育て親を探すことも難しい。ヒュンケルはアバンを親の仇と思うことで、生きる力を得ているようでもある。ヒュンケルもつらいがアバンもつらいだろう。殺気を浴びながら接することは想像以上に疲弊する。
    「今日は少し喋ってくれましたよ。剣術のほうはめきめき上達しています」
     マトリフはパンを齧ると、アバンの手から本を取り上げた。
    「お前も寝てこい」
    「いえ、私も呪いを解く方法を探します」
    「ロカのことはオレにまかせておけ。それともこの大天才のことが信用できねえってのか?」
     アバンは何か言おうとして言葉を飲み込んだ。そして表情を崩して頷く。
    「ではマトリフにお任せします。マトリフもちゃんと休んでくださいね」
    「ああ、そうだな」
     アバンは立ち上がると静かな足取りで書斎を後にした。その足音が十分に遠ざかるのを聞いてから、マトリフは懐から一冊の魔導書を取り出した。それはアバンには絶対に見つかってはならないものだった。
     ロカを助ける方法は既に見つけてある。そしてこの方法をアバンが知ったら、間違いなく使うだろう。マトリフはそう思ったからこそ、この本をずっと隠してきた。他の、もっといい方法があるはずだと思ったからだ。
     だが見つからない。そしてロカに猶予はなくなっていた。
     マトリフは短くなった蝋燭の火を、新しい蝋燭に灯す。マトリフは何度も読み込んだその本を、またじっくりと読み進めた。

     ***

    「あ、おじさん」
     マァムの声にレイラがこちらを向いた。マトリフは二人に向かって手を挙げる。レイラはシーツを広げて干しているところだった。マァムはその足元で泥を捏ねている。昨夜の雨で地面はぬかるんでいた。だが空を見ると今日は晴れそうだ。
    「今日も来てくれたの?」
     レイラは洗濯ばさみでシーツを止める。そしてマァムの服が悲惨な泥汚れになっていると気付いて肩を落とした。マトリフはマァムの前に屈むと、頬についていた泥を指で拭ってやる。
    「ロカのとこに行ってくる。試したいことがあるからよ」
     その言葉にレイラの顔が一瞬明るくなった。一縷の望み、あるいは藁にもすがるという思いだろうか。だがレイラが浮かべた笑みは儀礼的なものだった。
    「ありがとうマトリフ」
     これまで何度同じことを言ってレイラを期待させ、そして落胆させただろう。レイラはもう希望を持つことを恐れているようでもあった。何度も繰り返す失望はどれほど強い心にも傷をつけてしまう。
    「マァムを着替えさせてから行くわ」
    「時間がかかるだろうから慌てなくていいぜ。マァムもまだ遊び足りなさそうだしな」
     マァムは泥団子でも作りたいのか、熱心に土を捏ねていた。マトリフは立ち上がる。ちょうど太陽の光が眩しく思えて手で遮った。やはり今日はいい天気になるだろう。マトリフは太陽に背を向けて家の中へ入っていった。
     ロカの寝ている部屋は家の一番奥にあった。窓が開けられており、入ってくる風がカーテンを揺らしている。
     ロカは目を閉じて眠っていた。本当にただ、寝過ごして眠っているだけのように見える。風に揺られた前髪が額にかかっており、マトリフはそれを払ってやった。
    「オレが死ぬときもそのマヌケ面してんじゃねえぞ」
     マトリフは呟いて手を伸ばした。レイラたちが来る前に終わらせねばならない。マトリフは詠唱をはじめる。途端に魔法力が溢れた。
     この呪文を人間が使ったらまず助からない。だがマトリフの技法と魔法力なら呪文を使うことは可能だ。
     結局、呪いを解く方法は見つけられなかった。だが、身代わりになることは出来る。マトリフが見つけたのは、残りの寿命を交換する呪文だった。老齢のマトリフの残りの寿命は少ない。だが、このまま呪いを受けて死ぬよりかは、長く生きられるだろう。そして代わりにマトリフはロカの呪いを受ける。おそらく、マトリフでは呪いに耐えられずに死ぬ。だがマトリフとっては死が少し早まったに過ぎない。そして悲しむ人もいない。マトリフを待っている人はすでにあの世にいる。だから迷いはなかった。
     魔法力が膨らんで二人を包む。まるで内臓を引き抜かれるような不快感が襲ってきた。この呪文は禁呪法に近い。本来なら自分が死にかけたときに相手と寿命を交換させることで生き残る呪文だ。だが成功率が低く自爆と変わらない。だがマトリフは成功させる自信があった。
    「くッ……!」
     マトリフの腕が震える。やはり呪文の威力は大きく、身体へのダメージも大きい。だが止められない。もうこれしかロカを救う方法はないからだ。
    「マトリフ!」
     慌てた様子でレイラが部屋に飛び込んできた。
    「何をしているの!?」
    「心配すんな。これでロカは目が覚める」
     レイラはマトリフが使うその呪文が特殊なものであると気付いたようだ。
    「この呪文……まさか禁呪法なんじゃ」
    「まあそんなと……ぐッ!」
     途端にマトリフは胸に激痛を感じて呻いた。二人の寿命が反転し始めた証拠だ。だが呪いの負荷は思ったよりも大きかった。まるでこの世の全てを怨むような呪いの思念が流れ込み、マトリフの胸を蝕んでいく。ロカが胸に受けていた呪いがマトリフに転移したからだ。レイラが止めるようにマトリフの腕を掴む。
    「やめてマトリフ! あなたが死んでしまう!」
    「ダチのために死ぬんだ……こんないい死に方はねえよ」
     その瞬間にレイラがマトリフの頬を平手で打った。マトリフは突然に与えられた衝撃に目を見張る。
    「ロカはあなたの命と引き換えに生きることを望んだりしない!」
    「……そんなこと知ったことか。オレの命なんだ、オレの好きにする」
    「やめて……ロカに後悔させないで」
    「その後悔も生きてなきゃできねえ。生きてさえいれば、いくらでも良いこともあるだろ」
     いつの間にかマァムがレイラの脚にしがみついていた。マァムは何が起こっているかわからないようだが、二人の緊迫した様子に怯えていた。マトリフはマァムに笑みを見せようとしたが、口元が歪んだだけだった。
    「……オレの命とロカの命と、どっちが必要とされてるかわかりきったことだろ」
     ロカにはレイラとマァムがいる。その人柄から、この村にもすっかり馴染んでいる様子だった。祖国にだってロカを慕う人間は大勢いる。どう考えても、ロカが生きるべきだとマトリフは思う。しかしレイラはきつい眼差しをマトリフに向けた。
    「勝手に決めるなんて傲慢よ。そんなこと誰にだって決められることじゃない」
    「だったらこのままロカが死んでもいいってのか! お前だって本当はッ」
     その瞬間にマトリフは首筋に強い衝撃を感じた。それがレイラの手刀だと気付いたが、意識はそこで途絶えた。

     ***

     マトリフが目を覚ましたとき、部屋は夕暮れに染まっていた。首に痛みを感じて咄嗟に押さえてから、呪文が途中で終わってしまったことを思い出した。
    「ロカ……」
     マトリフは慌てて起き上がってから、そこが寝室であると気付いた。ロカが眠るベットが見えて、そのそばに立つレイラとアバンが見えた。
    「……マ、トリフ」
     その声がロカのものであると気付いて、マトリフは立ち上がった。アバンとレイラがマトリフを振り返っている。アバンがマトリフを支えるように手を差し出した。
     マトリフはアバンに掴まりながらベッドに歩み寄る。するとロカの眼がマトリフを見ていた。ロカが目覚めている。
    「ロカ……」
     ロカは肉が削げた頬に笑みを浮かべてみせた。
    「お前のおかげなんだってな……ありがとう」
     マァムがロカにしがみついている。突然に目覚めた父に戸惑っているようだが、離れまいと小さな手で掴んでいた。
    「……あれは……成功しなかったはずだ」
     マトリフは呪文を成功させなかった。だからロカの呪いは依然としてロカに巣食っている。
    「みたいだな……だからこそ言える。マトリフ、そんな呪文は使わないでくれ」
     見ればアバンがあの魔導書を持っていた。マトリフが使おうとした呪文が載っていた本だ。アバンはマトリフが気を失っている間にここへ来て、レイラから状況を聞いたのだろう。そしてマトリフが持っていた魔導書からどんな呪文を使ったか知ったはずだ。
    「ロカ……」
     マトリフは友にかける言葉を持たなかった。半端な呪文は僅かな寿命の交換を行なったのだろう。マトリフは己の体に呪いの欠片を感じる。そしてマトリフの寿命のごく一部がロカに渡り、目覚めさせたのだろう。だがそれも長く保つとは思えなかった。
    「オレにもっと……もっと力があれば」
     残り少ない時間で己の後悔など口にしている場合ではなかった。ロカが目覚めたら伝えたいことが沢山あったはずだ。
     するとロカがマトリフの手に手を重ねた。
    「オレはマトリフが死ぬなんて嫌だぜ」
    「馬鹿野郎、オレはどうせ死ぬんだ」
    「それでも嫌だ……おまえは生きてくれ」
     ロカはしがみついているマァムを見て目を細めた。その目に涙が浮かぶ。それは堪えられもせず目尻から溢れていく。
    「でも嬉しかったぜ……おかげで大きくなったマァムを見られた……」
     そう言うとロカは再び目を閉じて、二度と開けなかった。
     間も無く夕陽が沈んで闇が訪れる。暗くなっていく部屋で、仲間たちは身を寄せ合った。ロカを見送るその寂しさは一人では耐えきれなかった。
     それからマトリフは己に失望して洞窟へと籠った。生きろと言ったロカの言葉が無ければ、それすらできなかったかもしれない。
     マトリフは命が尽きるのを待ちながら誰かを待っていた。この命はその誰かのためにあるのだと信じることで、ロカのために使えなかったこの命に意味を見出したかった。
     だが同時に、呪いの欠片がマトリフを変えてしまった。ロカから引き受けた呪いは、マトリフの胸に残り続けていた。呪いの欠片から送られる思念によりマトリフは人を怨み、かつての仲間さえ拒むようになった。
     マトリフは誰も訪れない洞窟で一人で過ごす。胸に抱えた希望と呪いが糾える禍福のようにマトリフを縛りつけた。
     やがて時間は過ぎ去り、魔王軍の脅威が再び世界を襲う。だがマトリフは何もしなかった。こんな世界なら滅べばいいと思っていた。
     だがある日、マトリフは燃えて墜落しようとする気球を見つけた。
     マトリフの中で呪いの声が大きくなる。見捨てればいい。どうせ人間なんてくだらないのだからと。
     しかしそれよりも大きな声がした。助けに行くぞと、耳を塞いでも聞こえる大声がする。それがマトリフを立ち上がらせた。だんだんと大きくなるその声はロカの声だった。
     マトリフに残された物語が再び動き出す。さあ行こうと手を引く友がそばにいる気がした。


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