君の存在に祝福を「あなたの誕生日を教えてほしい」
ガンガディアにキラキラした顔で言われる。それが答えのない質問だったのでマトリフはすぐに視線を読んでいた本へと戻した。
「わからねえ」
「わからない?」
「知らねえんだよ。誕生日だとかを大事にするような場所で育ってねえからな」
もし仮にあの里で誕生日を祝う習慣があったとしても、マトリフには祝いのケーキひとつなかっただろう。マトリフはどこで誰から生まれたかすらわからないのだ。
「そうなのかね。人間の面白い風習なのでやってみたかったのだが」
「残念だったな」
本当に残念そうな顔をするガンガディアに、マトリフは読んでいた本から顔を上げた。
「そういやお前の誕生日はいつなんだよ」
「私が生まれた日かね。我々には生まれた日を祝う習慣などないから、いちいち日付を記憶したりしない」
魔物には人間の暦のようなものはないから当然かもしれない。だからこそガンガディアは誕生日を祝う人間の風習に興味を持ったのだろう。
話はそれで終わってもよかった。だがガンガディアの思いつきを無碍にするのは惜しい気がした。そこでマトリフはある提案をした。
「新年の日があるだろう」
「人間の暦のかね」
「そうだ。その新年の最初の日をオレとお前の誕生日にするってのはどうだ」
その提案にガンガディアは興味を持ったようだが、同時に疑問も感じたらしい。
「あなただけでなく、私にも誕生日を?」
「ああ。そんで一緒に祝うんだ」
「あなたが祝ってくれるのかね? 私の誕生日を?」
「いい考えだろ?」
ガンガディアの顔に喜びが広がっていく。マトリフは感情表現がわかりやすい恋人を眺めて頬に笑みを浮かべた。
「今から誕生日のプランを考えたい!」
ガンガディアはそう言うと本棚へと向かった。嬉々としながら本棚から次々と本を抜き出している。新年はまだ数ヶ月も先だから随分と気が早いことだ。
「楽しみが先にあるってのも良いもんだな」
マトリフは独り言ちて視線を本へと戻す。だが目は文字を追わなかった。頭は自然と誕生日のことを考え、ガンガディアが何を喜ぶだろうかと思いを巡らせた。