夕食の鶏の丸焼きを平らげてから急激な眠気に襲われていた龍ノ介は目を擦りながらのそのそと洋箪笥へと入り、亜双義に扉を閉めてもらう為に身を縮こませた。扉が閉められ暗闇に包まれる。
「成歩堂」
凛とした声が扉越しに届く。既に瞼はとじられ夢の中へと誘われていたが、亜双義の声はしっかりと耳に届いていた。
「おやすみ」
今度は穏やかな声色が鼓膜を揺らす。顔は見えずとも親友が微かに笑った気配がした。
「おやすみ、亜双義」
呟くように告げた言葉は届いていたのだろうか。扉の前から離れていく足音を聞きながら、龍ノ介はゆっくりと深い眠りへと落ちていった。これが、親友との最期の会話になろうとは知る由もなく──。