「その、もしかして、いつもこうかな?」
「………、」
バッグの中には、サンドイッチの入っている箱がひとつと、タンブラーが二つ、並んでいる。店のカウンターで見たのはたしかに一つずつだったと思うのだが、光忠が見ていないうちに宗三が入れていたのだろう。なら、もしかしたらいつも二杯分入っているのかもしれないと大倶利伽羅を見て、光忠は肩を揺らした。
どうやら違うらしい。大倶利伽羅も怪訝そうな顔をしている。
と、なにかが震える音がした。電話だろうか。思わずスマホをしまっているポケットを探るが、自分のものじゃなかった。大倶利伽羅もゆっくりと顔を上げて、ついさっきまで立っていた障子のほうを見ている。それから、無言で立ち上がって行ってしまった。
大倶利伽羅が障子を開けたところで、ぶぶぶ、と響く音が大きくなる。小さなメロディも鳴っていた。しばらくすればどちらの音も止んで、代わりに大倶利伽羅の声が聞こえてくる。
「……もしもし、…あぁ。………、…………わかった。いや、ちょうどいい」
会話の片方が耳に入ってしまうのに、光忠はそわりと視線を庭に戻した。聞き耳を立てているわけではないが、近いせいで聞かずにいるほうが難しい。それでもどうにか意識を逸らそうとしていたら、声が近くなった。
「国永…? …知らん、切るぞ」
思わず振り返った先、障子の隙間から足が見える。すぐに大倶利伽羅が出てきた。手に持ったスマホを操作しながら、その目が光忠を見る。
「…宗三だ」
「!」
てっきり仕事か何かの電話だと思っていた。意外な名前に驚けば、大倶利伽羅の肩が竦められる。光忠の隣に戻り、溜め息の混じったような声で教えてくれた。
「それはあんたの分らしい」
「…僕の?」
「……あまり休憩らしい休憩を取らない。だから、俺の昼食に付き合わせてほしい、と。そうなのか」
「……え、っと。そう、なのかな、…?」
置いていかれたような思考で首をかしげ、手元のバッグを見た。一つ多いミルクティは光忠のもので、それは宗三の用意で、大倶利伽羅のところで休憩を取れと、大倶利伽羅に電話が入って、
「……………、」
どうしよう、と思ってしまったのが伝わったのか、すこしの間を置いて大倶利伽羅が笑うように息を吐いた。ふ、と落ちた空気は丸くて柔らかい。そんなふうに笑うのを初めて見せられて、光忠のほうは息が止まってしまった。