【キネwebオンリー展示】 君に夢中/おれ、ワルいヤツなんでこの頃、何にでもネズを見出してしまう。
というと何事かと思われそうだが、本当にそうなのだ。街角の化粧品の広告を見ればあの色はネズに似合うなと考えてしまうし、頬を撫でる風の心地よさにネズと一緒に散歩に来ようなどと思う。ネズの好きな場所。ネズの好きな色。ネズの好きな音楽。世界がネズで溢れていて、オレにとっては幸せで仕方ない。好きなもので溢れる世界が幸せでないはずがない。
こんな事を言ったら冷ややかな目で見られるだろうと思っていたが、存外気に入ったらしい。お前もなかなか詩人ですね、まあおれってあたりが変な奴ですけど。恋人になったのにどこかまだオレの一番大切な人になったという自信のないネズの態度が少しもどかしい。
華やかな女優とも可憐なモデルとも付き合って、真っ赤な口紅をべったりと首筋に着けられたり自他共にハンサムだと認める顔を腫らされたり、パパラッチの好みそうな事は一通りやった。それがいい年をして年上のパンクロッカーの男にティーンの読む漫画のような一途な恋をしている。ネズを見るだけで吹雪の日が晴れになる。天候を操るだなんて普段のオレがどこへやら。こっぱずかしくなるような口説き文句を囁き続けて、そしてオレの愛にとうとうネズが折れたのだ。
ネズとは恋人なのでセックスをする。恋人になる前からおまえがやりたいならいいですけど等と言っていたが、オレは好きな相手は大事にしたい性分なのだ。前言撤回、ネズに恋してからそうなった。結局恋人になってからだって、夢中すぎて翌朝内容なんかまったく思い出せた試しがない。柔らかくない硬いからだ、細すぎて加減を間違えたら壊してしまいそうな骨格、オレの手に応えて上がる甘い声。そうなるともうオレはだめだ。夢心地になってしまって、ドラゴンストーム・キバナ様の仮面はどこかへ消え去る。そこに居るのは一人の恋する凡庸な男だ。こんな盲目でつまらない一途な恋、今時ロマンス小説だって描かない。
ネズ、オマエのためならなんだって出来る、地の果てだって着いていく。そう伝えれば明らかに信じていない顔をする。じゃあおまえ、おれが別れたいと言ったら別れますか。別れたいのか?もしもの話ですよ。ネズがそう望むならオレはその場では素直に別れるだろう。でもオレは執念深いのだ。なんと言っても十やそこらの頃から一人の男を負かす事を目標にしていた奴なのだ。どんな手を使ってだって、オマエの進む先に立ち塞がってやる。
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おれ、ワルいヤツなんで。
「やんちゃ」をする度にネズは首元のチョーカートップをかちゃりと言わせながらそう言う。まるでそれだけがアイデンティティだと言うかのように。
おまえは最低ですね。だから一緒に居てやるんですよ。おれ、ワルいヤツなんで。彼女を一回適当に抱いて帰らせた後のオレの家で、にっこりとほほ笑むネズ。さっきまで抱いていた女の顔なんか思い出せなくなる。ああ、そういえばお前の彼女、おれとおまえがセックスしてるの気付いてますよ。この前わざとおまえの香水付けて出たら、下で出くわしたんです。そりゃあもう、ギャラドスのような形相してやがった。あれで一か月は笑えますよ。
慣れた手つきでオレに首輪をつけてネズが言う。おまえに生殺与奪の権利を握られてるのに興奮するんですよ。だからおれを、おまえのペットにして?やっている事と言っている事がちぐはぐだ。おまえそう言えばこの街のいい家の出身だったでしょう。おれみたいな田舎者の悪い男に誑かされてるなんて知ったらおまえの両親どんな顔をするんだろうね。
ケラケラと笑うネズを机に押さえつけてスキニーパンツを剥ぎ取ればTバックの傍から目に痛い色のプラグが覗く。勢いのままに引き抜いてオレのものをブチ込むとわざとらしくあん、と甘く鳴いた。オレの首輪に繋がるリードに力が入る。首が締まる。にんまり、オレよりいくらか薄い色の瞳が黒い睫毛に縁取られて弧を描く。
おれ、ワルいヤツなんで。それくらいしか取り柄がないもんですから。