True俺はその蓋を――開けられなかった。
彼女の安らかな眠りを、妨げることは出来ないと思った。
どこか遠くから、オレを呼ぶ声が聞こえた気がした――
「――――沖くん」
「うわっ」
目を開ける。
目の前に尾白がいて、俺の額を人差し指でぐりぐりとしていた。
「こんな所で寝たら風邪ひくよ」
「それもそうだな……」
病院近くの桜並木の下。ベンチで昼を食べていたら、眠ってしまっていたらしい。
「なんだか、夢でも見てたような顔してるね」
「ああ……でもあんまり覚えてない」
「ふうん、そっか」
「興味無さそうだな……おまえは通院?」
「そうだよ。
じゃあ、私行くね」
「おう」
もう春とはいえ、屋外で昼寝とか風邪ひくかもしれないし、気をつけないと。
世界は今日も春をうたい、オレはなお一人で桜を見上げている。
それでもいい、と思う。
オレの恋は決してきれいな形と色をしていなかったけれど、でも、今は。
「――絃」
今だけは、きっと、オレの中で綺麗に輝いている。