恋愛若葉マーク 僕は降谷さんと付き合っている。
あの凄い人と自分が? しかも男同士なのに? と今でも信じられない気持ちでいっぱいだ。
しかし付き合っていると言っても、仕事が忙しいので中々ゆっくり会うことが出来ない。
こんな事を思っていいのかは分からないが、せっかく想いが通じあったのだから、もっと"恋人としての時間が欲しい"と思ってしまうのは、欲張りだろうか。
あの人と恋仲になれただけでも凄いことなのに、もっと恋人らしくイチャイチャしたいというのは、僕だけのわがままなのだろうか。
そう悶々と日々を過ごしている中、降谷さんに捜査備品(洋服)を頼まれたので、せっかく会えるのだから、思い切って聞いてみよう! と僕は意気込んだ。
……のだが。
「? 風見?」
いざ聞こうと思ったら口から言葉が出ない。むしろこんな事本当に聞いてしまっていいのだろうか?
『もっと二人の時間が欲しいです!』なんて女々しいんじゃないか? どんな顔で言うんだ? かわいい女の子でもないんだぞ?
「おーい風見」
「わっ!」
うーんと悩んでいるとギュッと手を握られてビックリした。ふ、降谷さん近いです!
「言いたいことがあるならちゃんと言ってくれ」
ちょっと困ったように顔を覗き込まれて、うっと息が詰まる。
「あの……」
「うん」
「その……」
「うん」
なんて言う? 『もっと二人の時間が欲しいんです!』とそのまま言う? それとも何かもっと遠回しに……?
「思ったままを言ってくれていい。君の願いなら、出来る範囲になってしまうけど努力するよ」
「あの……」
「うん」
「む、無理に努力して欲しい訳では無いです。ただ、恋人になってから、その……恋人としての時間が少ない……かな、と思っていまして……!」
目をギュッと瞑って、勢いに任せて全てを言い切る。顔が熱いから、きっと真っ赤になっているんだと思う。そう思うと恥ずかしくて、さらに顔が熱くなる。
降谷さんはどんな反応をするだろう。ドキドキとうるさい心臓の音をかき分けて、降谷さんの声を聞こうと耳に集中する。
「"恋人の時間"、か」
そう聞こえたかと思ったら、ふわっと体が暖かいものに包まれる。降谷さんだ。
「正直、僕は今まで恋人がいなかったからどういうものが恋人の時間なのかよくわかっていないんだ。でも、僕も君と恋人らしい事を沢山したいと思ってるよ」
「ほ、本当ですか?」
「勿論だよ。だってせっかく好きな人と両想いになれたんだから、満喫しないと損じゃないか」
す、好きな人……
「君が同じ気持ちで嬉しい。伝えてくれてありがとう。……その、僕よりも君の方が恋愛に詳しそうだから、君に任せてたところがあって……その、悪かったな」
「え!?」
僕の方が降谷さんよりも詳しい!? というか、僕に任せてくれてたのか!?
「え、降谷さんの方が詳しいでしょう?」
「いや、僕は演技以外の恋人は初めてだし」
あ、あー。なるほど。
「初めから言っておけばよかったな。『若葉マークだがよろしく頼む』と」
「ふふっ」
降谷さんの言葉にだんだんと緊張が解けてきた。僕たちは同じ気持ちだったんだとわかってホッとした。
まさか降谷さんに任されているとは思ってもみなかったけど。
「これからは……そうだな。昼食の時間とか休憩の時間とか、出来るところから少しずつ時間を合わせていこうか。勿論夕食の時間も」
「はい」
「ゆくゆくは一軒家を買って一緒に住むのが目標なんだけど……どうだ?」
「良いですね。組織の件が落ち着いたら一緒に住みましょう。物件探しておきますよ」
「……僕たち、思ってたよりもラブラブだな」
「ふふっそうですね」
「おじいちゃんになってもずっとラブラブがいい」
「勿論です」
降谷さんの顔が近付いてきて、ちゅっと唇が触れ合う。そうして笑い合った僕たちは、これから加速していく幸せな未来に思いを馳せた。