【半纏は無防備感をプラスする】 三が日が終わった翌日、風見に頼んでいた捜査備品を持ってきてもらった。
「悪いな年始早々」
「いえ、仕事のうちですし」
ニコッと笑った風見は外が寒かったんだろう、鼻の頭が少し赤くなっている。室内にはストーブがついているからと風見はコートを脱ぐが、それでもそこまで室温は高くしていないので、風見にとっては寒いだろう。
ちなみに僕は平気だ。
「良かったらこれを着るといい」
そう思って半纏出してきた。濃い緑のそれは僕用だが、風見を思い浮かべながら買ったものだ。
風見はありがとうございますと嬉しそうに受け取ると、いそいそと半纏を着込んだ。
「ふっ。ロイヤル力ティーみたいだな」
スーツに半纏。そのギャップがなんだか洋食に和食をプラスしたみたいで面白かった。
「なんですか? そのロイヤル力ティーって。紅茶……ですか?」
風見が不思議そうに聞いてくるので、僕は捜査備品を確認する手を止めて風見の方をむく。
「端的に言うと、きな粉入りのミルクティーに餅を浮かべたものだな。とある紅茶会社がレシピを出している」
「こ、紅茶にお餅ですか? ……いや、きな粉が入ってるなら合う……のか?」
頭に沢山ハテナを浮かべた風見が可愛くて、作ってやろうか? と提案する。風見は未知の物に若干警戒心を覗かせながら、『降谷さんが作ってくれるなら美味しいだろう』という顔をして「お願いします」と言ってきた。
その信頼が嬉しい。
作っている間、風見にはコタツに入ってもらった。キッチンでササッとロイヤル力ティーを作る。
作り方はロイヤルミルクティーにきな粉と焼きもちを入れるという簡単なものだ。まあ、ロイヤルミルクティーは少し丁寧に入れるけど。
そうして出来上がったロイヤル力ティーを半纏とコタツで日本前全開な風見に差し出せば「これが……」という声が漏れた。
匂いを嗅いで、一口ミルクティーを飲むと、風見の顔は驚いたようにパッと明るくなった。
「紅茶にきな粉って合うんですね!」
そう、紅茶ときな粉は意外と相性がいい。甘くて濃厚なロイヤルミルクティーに、きな粉の香ばしさとコクが足されるんだ。
きな粉で"和"が足されたことによって、餅が入っていてもおかしな味にはならない。
「あ、お餅も合う。美味しいです!」
小腹が空いていたので助かりました! なんて音符を浮かべそうなルンルンした声で言う風見に満足しながら、僕は隣できな粉入りのロイヤルミルクティーを飲む。僕は小腹は空いてないから餅は浮かべていない。
ロイヤルミルクティーにきな粉。この二つは本当に相性が良く、一度試すとしばらく普通のロイヤルミルクティーでは満足できなくなってしまうのだ。
「はー、美味しかったー」
ニコニコの風見に気を良くしながら、僕はスーツに半纏の風見をじっと見つめる。
「な、なんですか?」
なんというか、有り。キリッとしたスーツ姿の風見を覆い隠すような厚手の半纏が、そのモコっとさでキチッとした風見を柔らかく無防備に見せる。まあ、表情はいつも柔らかいけど。
「なんかいいなぁと思って」
「?」
「似合ってるよ」
「あ、半纏ですか? スーツに半纏っておかしくないですか?」
「そんな事ないさ」
「そうですか?」
降谷さんの好み、ちょっとよく分からないな、と言いたそうな風見をそのままに、僕は心ゆくまで半纏とコタツでぬくぬくする風見を堪能した。