文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day08 鼻先を擽る汐見の頭髪から、ふわりとシャンプーの香りが立ち上る。結局ベッドが広くなってもこうやって汐見を抱きすくめて寝ようとする空閑に、汐見は諦めたように――しかし、一応は言っておきたいとでもいうような様子で「暑苦しい」と零す。同じ日本に育ったとはいえ、湿度も気温も高い空閑の生まれ育った地域より湿度も気温も低いこの土地で生まれ育った汐見からしてみれば夏の暑さの盛りなのだろう。
そういえば、気候区分も違うんだったもんな。空閑はそんな事を思い出しながら、触れ合う肌がじっとりと汗ばみ始めている事を感じていた。
「ヒロミ、夏くらいはちょっと離れても良いと思うぞ俺は……」
「嫌だって言ったら?」
「……好きにしろ」
呆れ気味で溢された汐見の言葉に駄々をこねる様な言葉を返せば、諦念に染まった言葉と共に汐見は空閑から離れようと試みる事を放棄する。汐見が本気で嫌がれば、きっと空閑はベッドの外まで放り出されるだろう。しかし、彼は結局空閑のしたいようにさせてくれるのだ。
触れ合った肌の熱が心地良い。空閑が戯れに彼の肌を指先でなぞれば、彼の身体はぴくりと震える。
「……やるつもりかよ」
「んー」
互いに肌に纏うのは下履きだけで。溜息混じりに零された汐見の言葉に明確な言葉を返さずに、空閑は汐見の肌を撫でていく。綺麗に割れた腹筋を、すらりと引き締まった太ももを。柔らかな脂肪が極端に少ない汐見の薄い身体はしかし、見せる為ではない実用的な筋肉を纏っている。線の細い顔立ちと着痩せする細身の身体からは想像できない程筋肉質な汐見の肉体は、どんなに肉感的で蠱惑的な女のそれよりも空閑を興奮させるのだ。
「……っん。ヒロミ、当たってるぞ」
「当ててるってわかってるくせに」
伸縮性に富んだ布地を伸ばし始めた兆しを汐見に押しつけながら彼の胸を撫で上げた空閑に、汐見は甘い吐息を漏らし――それでも口からは抗議するような言葉を溢す。
そんな汐見の言葉にくすくすと笑いながら兆しを押し付け、首筋へと吸い付いてやれば彼は焦れたように口を開くのだ。
「良いから早くよこせ」
腹立たしげに零された空閑を強請る言葉に、空閑は口元に弧を描きながら汐見の艶やかな黒髪を撫でる。空閑の指を通る彼の髪は、さらりと指先から零れていった。