文披31題・夏の空閑汐♂祭:Day23「お、来た!」
「圧巻だな、三時間半かけた甲斐がある」
定刻通りに離陸する旅客機のランディングが迫る。三脚で固定したカメラのシャッターを幾度も切り続ける空閑を見ながら、汐見もコンパクトカメラでパシャリと一度シャッターを切った。頭上をボーイングが飛び去っていく。
ひまわり畑の向こうに離着陸するボーイングという、他ではあまり見られない光景を見に行こうと空閑に誘われるまま朝早くからバイクを走らせて三時間半。飛行機は勿論好きだが、汐見が暮らす場所では早い時間で朝六時から――夜だって十二時近くまでジェット機だけと言わずに訓練用のレシプロ機だって、何ならスペースプレーンまで飛び交っている。
その環境で飛行機を見に行こうと誘われればすぐそこにある宇宙港に行くと誰だって思うだろう、空閑の口から出てきたのは女満別空港という言葉であった。
一時間に数本程度の離着陸があるこの地方空港に隣接するのは、観光地として用意されたものではないらしいがこの場所の名物となっているひまわり畑で。燦々と降り注ぐ陽光に向けて大輪の花を自慢げに広げていた。
「しかし、ひまわりも広く植わってると迫力あるな。昔北竜のは行った事あったけど、ここも広いな」
「ほくりゅう?」
写真を取り終え、その出来を確かめていた空閑は汐見の言葉に首を傾げる。
「ん、北竜町のひまわり畑は割と有名だぞ。確か日本最大級だとかで」
この場所とは異なり完全に観光用として作られたひまわり畑は迷路になっているのだったか。そんな事を思い出しながら空閑へとひまわり畑の話をしてやれば、空閑は楽しそうに瞳を輝かせていた。
「ねぇ! 今度はその北竜に」
「却下。道央だから泊まりがけになるし渡航も迫ってるだろうが」
汐見が予感した言葉を違わず口にした空閑に、汐見は呆れたように首を横に振る。そんな汐見の反応を不貞腐れたようにしながらも頷いた空閑は、それでも未来の約束を口にするのだ。
「じゃぁさ、またどっかの夏に今度は北竜に遊びに行こうよ」
「それなら良いか」
特にひまわりに対して思い入れもない汐見は、空閑がそう言うのならと肩を竦めながらも頷いて。この場所に来る道すがらに買った、中途半端に飲みかけのペットボトル飲料を空閑へと放る。水分取っとけという言葉と共に。放り出した事で圧が掛かった炭酸飲料が小さく噴き出すのに面食らう空閑をひとしきり笑い飛ばした汐見は、空閑へと言葉を重ねていった。
「飛行機も見れたし、美味いもん食って帰ろうぜ」