空閑汐♂デイリー【Memories】06「そういえば、お前らっていつから付き合ってんだ?」
「今更それ聞くのか」
すっかり常連になってしまった敷地内で営業をしているダイニングバーで、そう口火を切ったのはフォスターであった。生真面目な性質がどこか高師を思わせる――しかし意外とウィットに富んだところもあるフォスターの言葉に、汐見は呆れたような声色で首を傾げていた。
そんな汐見の隣でジンジャーエールを喉に流していた――同期達からビールを奪われ禁酒を発令されてしまった空閑は「高校の頃からだよ、二年の時だっけ?」と口にする。
「じゃぁ、もう五年の付き合いになるのか」
指折り数えて頷くフォスターに「そもそもヒロミとは一年の時から寮も同室だし、ここ入学するまで半年インターバルあったからな。実質七年くらい一緒にいるぞ」と汐見は注釈のように言葉を紡いだ。
「高校二年って言うけど、一年の時から同じベッドで寝てたしな」
何でもない事のように重ねられた言葉に、カウンターに並んで汐見を挟む空閑とフォスターは噴き出して。ステレオでユニゾンを見せた二人の反応に眉を寄せ「フォスターは兎も角ヒロミは張本人だろ」と呆れきった声を上げる。
「アマネ、それ言う?」
「事実だろ」
「つまり、シオとクガは高校一年からこんな感じだったと」
「それは事実に反するな」
空閑とフォスターの言葉にロックグラスに満たされた琥珀色のアルコールを舐めながら、アルコールの気配が一切見えない淡々とした口調で汐見は言葉を紡いでいく。
高校一年の頃から同じベッドで寝ていた事もセックスをしていた事も事実だが、高校一年の頃からこうして人前でも気にする事なく空閑のスキンシップを受け入れていたという訳ではなかった筈だ。
「……いつからだ?」
思わず口から溢れていたらしい。思ったよりも汐見が溢した言葉は一瞬だけ店内に響き、すぐに店内の喧騒に消えていった。しかし、両隣の男から注がれる視線はその解を求めていた。
「アマネ?」
続きを促すように掛けられた空閑の声に汐見は眉を寄せる。その音は少しだけ不安の色が混じっていた。
「……ヒロミお前、この後に及んで俺がお前の事そんな好きじゃないんじゃ、とか思ってるんじゃないだろうな?」
「そんなことは……あるような、ないような!」
「無いって言い切れ!」
流石に明け渡せるもの全てを明け渡してる相手に、そんな事を思われるなんて心外だ。と言うよりも、正直腹が立つ。思わず怒鳴ってしまってから、手元のロックグラスを呷り――口の中に貯めたアルコールを隣に座る空閑の胸倉を引き寄せてそのまま口の中へと流し込んでやる。
「っ、は……キッ……ツ……」
喉が動くのを確認して唇を離した汐見の隣で、空閑はカウンターテーブルへと沈む。
「シオ、普段は冷静な癖に、たまにぶっ飛んだ手段に走るよな」
「流石に今日のは腹が立ったんでな」
呆れたようなフォスターの声に、今度は自身の喉へとアルコールを流した汐見は一気に酔いが回ったらしい空閑を横目に肩を竦める。
「シオが飛行機とクガにしか興味がないのは周知の事実だろうに、なんでクガがこうなるのかも解らん」
「それは俺も知りたい……が、多分負い目があるんじゃないか? なし崩しにセックスした関係だったし」
「想定以上に爛れてるんだが」
「男子高校生の性欲なんて推して知るべしだな」
フォスターのため息に、汐見は苦笑で返して。なし崩しの関係から始まったとは言え、それを良しとして関係を継続させたのは汐見だ。多分空閑はそれを今でも分かっていない。
「高校二年の冬に、帰省した時に空閑が居なくて寝れなかった事があるんだ。それが決定打だったな」
きっとフォスターとの会話は、カウンターに潰れている空閑には聞こえていない。汐見の答えにフォスターは成程と頷き、彼らの関係をそれ以上深堀しようとはしなかった。