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    sangatu_tt5

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    探占/雀春
    主従足…キになる予定の話

    #探占
    divination

     雀舌、十四歳の春。
     勤める遊郭の庭先、桜の花が咲き乱れるそこで、彼はひとりの子どもの世話を命じられた。
     面倒だという思いが強く、嫌だと言ってしまいたいのを雀舌は必死に我慢した。遊郭の中庭の中央とそびえる大きな桜の木の影に隠れる子どもに近づけば、彼女はふくふくとした丸い頬を大きなぬいぐるみに押し付け、不安そうに立っていた。
     薄桃色に染まった血色のよい頬、ぷるりと潤いに満ちたさくらんぼのような唇。飢えを知らない子どもの様子に雀舌の胸がぎしりと軋む。これは雀舌の生まれからくる醜い嫉妬であったのだが、彼女の被ったフードから覗く亜麻色の髪がまたたおやかで、コシがある様に内心舌打ちをする。
     目元を布で隠した彼女は雀舌の足音に驚き、肩をびくりと揺らして、両の手を伸ばし空をさ迷わせながら、たどたどしい歩みを見せた。
     その様から盲人であることを悟った雀舌はこの子どもに対して少しの情が湧く。これは哀憫の情に近いのだが、彼女がこの美しい春空の大木を染める薄桃色の花弁たちを瞳に写すことができない事実に雀舌は喜んだ。
     桜の花をざわりと横に靡かせる強い風によって、簡単に攫われて飛んでいってしまいそうなこの子どもは誰かの庇護下でしか生きていけない。その事実が雀舌の自尊心を満たしてゆく。
    「あ、あぅ……っあ!」
     子どもは見えない視界の中で自分の前になにか遮蔽物がないか手を伸ばして確認していたが、地面から顔を出していた木の根に彼女は足を引っ掛けてしまった。ぐらりと前に倒れていく小さな身体。雀舌が駆け寄り、自分が尻もちをつく形で彼女を受け止めた。どさりと胸に乗った彼女は随分と軽く、腕は折れてしまいそうなほど細い。
    「あ、ごめんなさい……」
    「いえ、大丈夫ですか?」
     目隠し布の下。見えもしないのに彼女は自分の首を動かして、雀舌の顔を探す。
    「だいじょうぶ、です。ありがとうございます」
     彼女の足らない舌が一生懸命動く。
    「新春お嬢さま、この子が今度からあなたのお世話をします雀舌になります」
     雀舌が隠しもせずに顔を歪めるが、彼女はそんなことに気がつくはずもなく、ふんにゃりと能天気に笑った。

    「よろしくおねがいします、新春です」

     この子どもとの出会いがどれほど雀舌の人生を歪めるかをこの頃の彼は全く知らなかった。



    *****
     


     ノートン・キャンベルが得た一番の幸福は十三娘に拾われたことである。

     元々彼は娼婦が客との間に産んだ子どもだった。母であった女は元高級娼婦であり、色恋に狂って足元を掬われた馬鹿な女である。おつむの弱かった女は情念など抱くべきでないと知っていたのに、馴染みの客に惚れ、避妊を怠り、ノートンを産んだ。客である男も軽率なほど簡単に「お前が子を成したら、嫁と別れよう」などというのだから、馬鹿な女は間に受けてしまったのだ。
    「ほら、あなたの子を孕んだのだから、結婚してちょうだい!」と美しい金色の髪を振り回して、男にすがりついた女はいとも容易く捨てられた。
     堕ろせないところまで、腹にいるノートンが育ってしまったのだから、女は発狂の様。捨てられた恨みとともに、華々しい愛される女から転落し、日毎に安値で身体を売ることになってしまったのだから哀れなことである。

     自分を捨てた男そっくりな黒髪の子どもに女が愛など芽生えることもなく、ノートンは死なない程度に育てられ、恨みを晴らすかのごとく殴られた。
     腕を捕まれ、頭を叩かれ、煙草を押し付けられる。客がくれば邪魔だと言われて、寒空の下に放り出される日々。
     痩せこけ、歯のかけた女はもう絶世の美人とは言えず、子どもを殴る姿は幽鬼そのものであった。女の癇癪はノートンが成長するごとに酷くなり、最後の最後には茹だったお湯の入った薬缶を投げつける始末。
     お湯を被った皮膚は赤くなり、爛れ、皮が剥ける。痛い、痛いと地面を転がりながら、泣きわめく子どもを女は容赦なく蹴り飛ばした。
    「うるさいねぇ! お前のせいで私はこんなに落ちぶれたんだ。死んじまえ! 死んじまえ!」
     骨と皮だけの手足を振り回して、女は殴る蹴る。隣の部屋から「うるせぇぞ!」と苦情の叫びが入るが、助けになどきてくれるはずもなく、ノートンは咽び泣いて、死を覚悟した。

     そんな時に助けてくれたのが十三娘であった。
     女は客入りの悪さゆえに、路上で客引きをするまでに落ちぶれていた。それ故に彼女は侵してはいけない領域まで足を踏み入れてしまった。
     ノートンの暮らすこの裏路地はロンドンの郊外にあり、少し足を伸ばすとチャイナタウンと呼ばれる中国移民が多く住まう街があった。客引きにもテリトリーが当然あり、チャイナタウンは特にそれが厳しく、少しでも超えてしまえば処罰の対象になる。
     つまりはそういうこと。背の高い男ふたりを連れた十三娘は地面を転げまわる子どもと女を見比べて、はぁと大きくため息をついたあと、ノートンを抱きかかえた。

    「あぁ、可愛そうな子。あなたはそこの女と一緒にいたい? それとも、女を捨てて私の子になるかしら?」

     ノートンは目の前で美しい笑みを浮かべる女と恐ろしい眼光で喚き散らす母を見比べ、女の手を取った。十三娘の手は手入れがされているのかしっとりと温かく、きゅうと縋りつくように握って、ノートンは泣いた。
     この日からこの子どもは『雀舌』と呼ばれるようになり、ロンドンからは一人の娼婦が消えた。
     これが雀舌、八歳の頃の話。



    *****



     十二歳ほどになった雀舌は、元気に店中を走り回っていた。朝起きて、血滴子の二人に体術の稽古を受け、十三娘の元で仕事を習う。血滴子の仕事について行くこともあったが、それはその日の仕事の内容によって決まるため、朝餉の時に十三娘から「今日は私についてきなさい」「今日は血滴子についていきなさい」と指示があった。
     路地の片隅で男を誘うだけの母の元にいた時では靴磨き程度の仕事しか貰えなかった子どもが今では算術に、文字まで習えるようになったのだから喜ばしいことこの上ない。

     十三娘の仕事は何かといえば香車である。遣手婆という言い方のほうが一般的であるが、彼女が美しいかんばせをついぞ歪めるのだからこの呼び方をするものは少ない。
     妓楼にて遊女、新造、禿を監督するのが仕事であり、同時に遊客を品定めして遊興の程度をはかるなど、遊女屋の最前線を統轄する役目でもあった。
     行儀のしつけや、相談相手として遊女の世話をすることもあり、遊郭関係者や遊女上がりでしかなれないのだから、彼女がどれほどの才覚の持ち主か伺える。
     雀舌も火傷による顔から身体にかけてのおびただしい包帯がとれた直後に、彼女からの厳しいしつけを受けた。元があのような母親の元にいたのだから、雀舌の行儀などたかが知れており、何度彼女の扇子が子どもの手の甲を叩いたかは分からない。
     痛みにくうっと喉を鳴らし、鼻をすするが雀舌がそれを嫌うことはなく、粛々と受け入れる姿に、遊女の姉様方は涙をぐんだ。

     この頃には雀舌を覆っていた包帯の数々はとれ、布団の中で痛みに喘ぐ子どもはいなくなったのだが、代わりに彼の顔や身体には大きな火傷痕が残った。父親似の端正な顔は火傷風情では醜いと評されないが、痛々しいその傷跡は哀れみを誘うには十分であった。元々が整っている分、あぁ、この傷がなければもっと良かっただろうにという考えが湧きやすいのだ。
     傷が残った本人自体は自分と母を捨てた父とそっくりという顔になど興味もなく、ただこの見目の良さがものをいう世界において、この哀れみがどれほどのアドバンテージになるかを知っているため、彼はしおらしく悲しいですという体で哀れみの情を誘い、姉様方に甘えるのだった。

     この遊郭における雀舌の立場といえば若い衆の見習いに近い。接客から逃げた遊女の回収、取り立てまで、彼らの仕事は多岐に渡り、それらの統括をするのは血滴子のふたりであった。
     つまりいえば、彼らからの教育を一身に受けている雀舌は将来的にそこに近い立場につくと予測され、それに見合うだけの期待がされていた。幼い身ながら、酸いも甘いも味わいきった雀舌は自分が置かれている立場も求められていることも、成すべきことも理解し、それによく倣った。当然、求められることよりも少し上の成果を持ってくるのだから、母親がわりである十三娘も鼻が高い。
     賢さと同時に姑息さを持ち合わせた雀舌は自分を甘やかしてくれないとわかっている血滴子の前では悪ガキの素振りをみせ、彼らを困らせるのだが、それはそれである種の良い息抜きであった。

     今日の雀舌の師範は血滴子のふたりであり、彼らが向かうのは遊女の買い付けの場に当たる。本当であれば十三娘も同伴するようなものだが、今日は良客が早い時間からくるとせっせと店の中を早足で駆けていたのだから仕方がない。
     雀舌としては正直な話、十三娘の師事を得たいのだが多忙な彼女に常々ついて回るわけにもいかず彼らのあとを渋々追いかけた。血滴子は用心棒としての役回りも多くこなし、ふたりとも体術に優れているのだから雀舌としては内心舌を出す。煙を巻くように彼らから逃げようとしても、巧みな連携で挟み撃ちにされつれて帰られるのだからたまったものではない。
     彼らからすれば雀舌の行動など子どもの駄々に過ぎず、度が過ぎない限りはしょうがないなと済ませるのだが、雀舌からすればその余裕が随分と腹立たしかった。しかし、しつこく反抗すれば、かわいがってくれる姉様方からも疑われる。挙句の果てには、彼らは毎朝の体術の師範なのだから、機嫌を損ねれば翌日、どれほど厳しく躾けられることになるかわからず静かに彼らの後をついていくのであった。

     売られる女たちの大抵は親に売り飛ばされたものたちで、皆自分の未来に不安を抱き、かたかたと身体を震わせているのだから、見ていて悲しくなる。謝必安と范無咎はふたりで別々に女ひとりひとりの顎をくいっと持ちあげ、顔を確認していく。
     年はいくつだ? 文字は書けるか? 算術は? 矢継ぎ早に紡がれる言葉に女たちは首を傾げながら、「できます」「できません」と簡素に答えていくのだった。
    「雀舌、お前はどう思う?」
     どうと言われてもというのが本音で、雀舌は母の一件が故か女が別に好きではない。遊女になる女などもってのほかで、どうせこいつらも嫉妬に狂って、醜く人生を終えるのだと冷めた目線で見下ろした。
    「この人と、この人は? 見目だけで言うならそこの人だけど、少しおつむが足りなさそうだからあまり使えないでしょ」
     特技はなんだという范無咎の質問に対して、素早く答えれたのはこの二人だけだった。店にくる者の大抵は女を抱きにくるが、それを抜きにすると女との会話を楽しみにくるのだから、口が上手い女は指名を貰いやすい。この口が上手いは喋りが達者であるではなく、質問者が望んだ回答を正しく答えられるになるのだが、質問の意図を汲み取れるほど頭の回転が早い女は大抵男を喜ばせるのが上手いのだ。
    「ふぅーん、なるほど……。そうですね、概ね同意見です。では、この女とこの女をください」
     謝必安は女衒を呼びつければ、男は情けなく大きな腹を揺すり、両の手を擦りながら駆け寄ってきた。はへはへと大粒の汗をかく男は口元を歪に歪めながら、媚びを売る。
    「こっちの女もいいですが、いかがですか?」
    「不要です」
    「あっ、そう……ですかぁ……はは、女は送り届けるでよろしいですかねぇ?」
    「えぇ、お願いします」
     過剰と思えるほど平伏する女衒の男に謝必安は何かの小包を渡す。男は目を輝かせてそれを受け取っては、再び深く頭を下げるのであった。
     その小包の中身を雀舌は直接聞いたことはなかったがなんとなく予測はついていた。麻薬、これは阿片と呼ばれるもので、イギリスでは反阿片運動が行われるほど嫌われているが、危険視されるほどに蔓延しているのも事実で、雀舌も幼少期に娼婦に阿片を渡し、廃人にする客たちを何人か見ている。
     仮にも中国政府から承認を得て経営している妓楼の従業員が手に持っていていいものではないが、彼らがそれを渡していることは当然十三娘も知っていた。その上で、彼らはお咎めなくそれらのやりとりをしているのだ。もちろん当然の事ながら、それを自分の店の遊女や従業員に与えている様子はない。

     よくもまぁ、あのお優しい旦那さまがこんなものの取り扱いをゆるしたなぁと雀舌は感心してしまった。
     今現在、妓楼の実質的トップは十三娘である。しかし、彼女は所詮遊女上がりの一介の女であり、彼女を雇う人物は別にいた。
     この旦那さまという人物は身体が弱く、雀舌が引き取られた頃には床につき、けほけほと苦しそうに胸を押えている姿がほとんどであった。やせ細った皮と骨だけの枝木のような腕に、鎖骨や肋骨が浮いた身体。眉だけは凛々しく、太い眉を情けなく八の字にして、「すまない、すまないねぇ」とよく謝っている人。
     雀舌が彼の姿を拝むことができたのは数度しかなく、そのうちの一回、一番最初の邂逅は雀舌の包帯がとれ、十三娘に付き添われ挨拶に行った時のことだった。
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    しかし、それは血族の気まぐれによってあっさりと瓦解した。
    血族の要求は簡単だった。村の中から誰でもいい。男でも女でも構わない。ただ、若者の方が良いが、生贄を出せ。
    身体を作り替えて、餌として飼う。
    もし出さないようであれば、ここに住まうものを皆殺す。
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    血族の餌になる恐怖と見捨てられた悲しみ。🔮は震える手を祈るように握りしめて、古く草臥れた館の中に入る。
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