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    kemuri

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    哀しみで目が眩みそう/フロリド

    初めて昼間に海から顔を出した時、あまりにも世界が眩しかったことをよく覚えている。
    深い北の海の底では明るいことなんてなくて、ほんの僅かな上からの光と、発光しているオレ達のような生き物が全てだった。
    深い海には届かない赤色が陸の世界では特に眩しいくらい目に刺さって、このトゲは一生抜けないんだと思ったし、抜けるなんてもったいないと感じた。
    「きーんぎょちゃん」
    「……なんだい、フロイド」
    振り返る顔には『いつになったら飽きるのだろう』という表情がそのまんま張り付いている。こんな眩しい金魚ちゃんのこと飽きるなんてことあるんだろうか。いや、オレのことだから絶対無いとは言い切れないけれど……それでも手の届くこの距離にある内は絶対離したくないし、オレのせいで輝きが落ちるなんてことなんか合ってほしくなかった。
    それでも、人生は一瞬とよく言う。
    順調に成績を収めて卒業をして、それぞれの道を行って、ちょっとしたお隣さんのように住み着いて、何だかんだお互い未婚のままそこそこの歳になって、今は忙しいけれどおじいちゃんになったらゆっくり遊べるかもねぇと雑談をしていた頃、そんなタイミングで金魚ちゃんはスッと人生のステージから下りた。
    元々体は丈夫な質ではなかったのは知っている。あとから聞けば長生きは出来ないだろうから伴侶を求めなかったし断っていた、と言っていたという。そんなことは知らなかった。
    それだったらオレが奪い取ってどんなときでも大事にして輝いている様子を目に焼き付けておけばよかった。それをしてこなかったのは、金魚ちゃんはオレがいようがいまいが、眩しいことに何にも変わりがなかったからだった。
    ああ、これを後悔というのか。オレなんてまだまだ寿命が残っている人魚だっていうのに。人間のまま暮らしてれば少しは縮まるっていうからそうやって暮らしていたのに。それよりもっと早く、金魚ちゃんを失うなんて考えてなかった。
    海から出なければよかった。そうすればこんな陸の眩しさを知ることなんてなかったのに。自分から手放すことしかしてこなかったオレだったのだから、こうして失う哀しさなんて陸に立たなければ知ることなんかなかった。
    失っても眩しさのトゲが抜けることはない。ずっとこれを抱えてこれからは生きるのだと思うと、それすら愛おしく感じて自らを嘲るような声が思わず出てしまったのだった。
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