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    イロドリ

    今のところは「楽しい(苦しい)サモシ」の三次創作を載せる予定。
    プロフ画は(相互さんが描いてくれたイラストの)マイイカ君。

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    イロドリ

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    モブエナになる予定の小説。あまりに足りなかったので追記して再投稿。

    #苦しいサモシ

    ①オリーブの木に蔓は巻くか「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! また!! またカンストできなかった……!!」
    「ふみい……」
    「……」
    「ま、いつものことだろ。いちいち気にしてんじゃねえよクソイカ」
    「うるっせえクソタコ! 俺なんも悪いことしてないです〜みたいなツラしやがって! ラクト持っておきながらダイバー二匹のエリア無視すんじゃねえよ、あれさえなけりゃテメェが欲張ったイクラの何倍も納品できただろうが!!」
    「はァ〜!? 目の前でビチクソタマヒロイ野郎に金イクラ持っていかれかけてる俺の気持ちがわかるってのか!? このアホイカ!!」
    「ンなもんわかるか!持ったブキでやるべきことやれっつってんだよ!!」
    「いい加減にしないか君たち。そんな様子じゃ、処理も納品も碌にできないでまた失敗するだけだろう。それで困るのはどっちも同じじゃないのか」
    「……」
    「……」
    「……」

     数秒の沈黙。後、イカの小さな舌打ちとタコの無言の白旗でいつもの口論は終幕した。狭苦しく息苦しいヘリの中に鳴り響く騒音が一つ減る。

    「……はあ」
    「今回は特にご機嫌が悪かったですね……」
    「まあ、レートが大台の900に乗ったからね。編成も狩場も悪くない、絶好のカンストチャンスだ」
    「そ、そうですよね。LACT-450にジムワイパー、ノーチラス47とスプラマニューバー、ですもんね」
    「……彼のエリア無視も終盤の戦犯行為だけど。君、スタンさせたテッパン三体をずっとメインで止めてたよね。もちろん僕や他がカバーに行けなかったのも悪いけれど、それはそれとして」
    「みっ」
    「あのときの君のスペシャルは……確か、サメライ」
    「みぃぃ……! す、すみませんっ、前も先輩に言われたのに……!」

     三杯ものデス状態により納品不足で失敗した最終WAVE。全て別方向に出現したタワー三兄弟によって盤面が厳しくなってきた中盤あたりにスペシャルパウチが一つ残っていたのを見て一抹の不安を抱いていたけれど、本当に抱え落ちしていたとは。

    「…………次は、ちゃんと、スペシャル使い切れよ」
    「はいぃぃぃっ」
    「……チッ」

     苦々しげに、それでもなんとか激情を抑えて注意を終えた彼は、愛飲しているエナドリ本日三本目の缶を開けた。
     本日三本目と言っても「彼が出勤してから」数えて三本目、の意だ。ここに来るまでにどれほど飲んでいたとしても僕が知る由はない。

    「つーかエナカスさんよお、またエナドリ摂取量増えてんじゃねえか?」
    「誰がエナカスだ誰が。甘くて美味いし体にいいからいいんだよ」
    「そう思ってんのはお前だけだっつーの、甘いもんならチョコか飴でも舐めとけよ」
    「あ゙あ゙?」
    「はいはい止めなさい止めなさい」
    「実際、エナジードリンクって美味しいんですかね? スペシャルウェポンのドリンクならちょっと飲んだことありますけど……」
    「君も飲むのは止しなさい」

     エナドリ一つで性懲りもなくケンカしようとする二杯を窘め、全く必要ないものを摂取しようとする一杯を引き止める。そんな他愛のない……全く、本当に他愛のないことをしている間に、ヘリはクマサン商会へと戻ってきていた。ヘリポートには何機か他のヘリも停まっている。他の便のバイターたちも続々と昼休憩のために戻ってきているようだった。

    「んじゃ昼メシ食うまで解散な。次は同じことすんじゃねえぞお前ら」
    「へえへえ」
    「それじゃあお昼食べてきますね!」

     そう言って彼らは社食が振る舞われる部屋へと向かっていった。……うち二つは、エナドリ味と唐辛子味になるサーモン丼を食べに。

    「……」

     本当ならば僕もそこへ向かうはずだったのだけれど、今日は出勤したときからの先約があったので見送った。というのも。

    『やあやあ、キミのことを待っていたよ。午前の勤務、お疲れ様』
    「いえ、大したことじゃないですから。要件は何でしょうか。……クマサン」

     ガガッ……というノイズ混じりに話しかけてくるのはこの商会の取締役。僕からすれば、六年来の付き合いにもなる食えない上司、だ。チームの四杯全員ではなく僕だけを呼んだ……ということは、僕だけに関係がある話だろうか。それともチームメイトの誰かに関わる何かか。

    『ではさっそく本題に入ろうか。今日はキミに頼みたいことがあってキミを呼んだんだよ』
    「頼み事、ですか」
    『キミが今組んでいるチーム……そのリーダー格である彼のことでね』

     やっぱりそう来たか。依頼の内容次第では断らせてもらおう。

    『ワタシはね、ここで熱心に働いてイクラを集めてくれるキミたちにとても感謝しているんだ。だからこそ、ワタシの力が及ぶうちはキミたちの心身の健康に気を遣いたいと思っている』
    「…………そう、ですか」
    『とはいえ、バイトとは直接関係のない私生活部分にまで口を出すつもりはない。
     そう、例えば……食生活、みたいにね』

     なるほど。大方予想がついた。つまりクマサンは僕に、

    『簡潔に言わせてもらうと、彼のカフェイン中毒を多少なりともどうにかしてもらいたい』
    「……」
    『彼が何を飲んで何を食べても、ワタシは一向に構わない。だからエナジードリンクを飲ませるなとは言わないよ。けれどワタシの気のせいでなければ、彼が商会で捨てていく缶の数がまた増えているんだ』

    イカであってもカフェインは適量でなければ毒のはずだからね、とクマサンは言った。

    『そういうわけだから、「働くのに支障を来さない限り」私生活には口を出さない。優秀なアルバイターが多いに越したことはないからね。彼もまた、商会にとって必要な存在のうちだ』
    「……」
    『手段は問わない、キミに任せるよ。エナジードリンクの摂取量を減らすのに協力してあげてくれないか』

     体を壊しかねないというクマサンの危惧もわからないではない。僕だって思うところは同じだ。ハイカラスクエアにいた頃にも、寄宿舎のとあるタコがコーヒーの飲みすぎで殉職したというような噂を聞いたことがあるし、エナドリともなると余計に。

    「どうして僕なんでしょうか、別に商会づてで病院に頼んだっていいのでは」
    『彼を取り巻く現状を何も知らない……彼からしても知らないイカタコからの忠告を、彼が素直に聞くと思うかい?』
    「……それは」
    『彼にとってキミは身近な存在で、さらに他二杯に比べれば強く出づらいようだ。キミが真面目で勤勉なタコだからかな』
    「いや、しかし僕は」

     クマサンが初めに言っていたように、僕とて他イカの私生活に過干渉するつもりは毛頭ない。むしろ忌避している。エナドリの飲みすぎで彼がどうなろうと知ったことではない……とまでは言わないにしても、カフェイン中毒のリスクも栄養失調の危険性も無視して飲み続ける彼が悪いんじゃないか。
     ……そうだ、結局のところは自己責任。己の生におけるどんな失敗も、降りかかる損失も、貧乏くじを擦り付けられるのも全て自分のせい。不運が集る隙を見せた自分が悪いのだと、そう思わなければ、僕は。

    『おや、あまり気が進まないようだね』
    「……」
    『キミの身に起こったことは、事後ではあるけれど知っているよ。……真面目に努力した者が損をするというのは、今も昔も実に不条理なことだ』
    「…………」
    『キミの目から見て、彼はどういうイカなのかな。あのときのタコのように、今のキミが持つ何かを奪おうとしているように見えるかい』

     カンストという目標だけをその目に映す彼。そのために血眼で数多のシャケたちを葬り、イクラをカゴに納める彼。……そのために、初めて会った頃に比べてさらに多くのものを失っている彼。
     僕のようなモブには目もくれず、執念にも等しい気迫でひた走る。極限状態にあって良くも悪くも自分のことだけを見ている彼が「そういうやつ」なのかと言われると。

    「……わかりません」
    『……』

     わからないのだ。あのクソタオルタコが表向きには普通の好青年を演じていたように、彼もまたストレスで歪んだ性格を巧妙に被っている凶悪な詐欺師かもしれない。だからと言って、あのときと違って、今の僕から搾取できる何かがあるとは思えないけれど。

    『ふむ。……ではこうしよう。今回の件、引き受けてくれたらキミの給料を少し増やす、というのは』
    「! まさか、給料を……!?」
    『おや、そこまで驚くことでもないだろう。正当な働きには正当な報酬を用意する、というのは至極当然のことだ。それにワタシとしても、仕事熱心な彼にできる限り長くここで働いてほしいからね。
     それにそうすれば……キミも、この依頼を引き受けやすくなるんじゃないかな』

     本当にまさか、あれほど渋り続けてきた報酬額を引き上げてまで頼んでくるとは。そこまでクマサンが彼に固執する理由があると? いや、しかし。
     引き受け「やすく」なる……か。

    「はあ……わかりました。本当に手段は問わないんですね? 多少の実力行使があっても構わないと?」
    『構わない。ただし、』
    「『働くのに支障を来さない限り』」
    『────いい子だ』

    キミの働きに期待しているよ。



    「……しかしどうする」

     依頼を受けて彼のエナドリ中毒を改善する役目を仰せつかったものの、いざどうしようかと考えると目処が立たない。手っ取り早いのは彼がエナドリを飲もうとするたびに奪い取ること。少なくともバイト先では二本以上消費させないようにしたい。そもそも一日に複数本飲んでいるだけでもよろしくないのだ、三本四本と飲まれてはたまらない。
     ただ僕がエナドリをぶんどれば怒りを買うのは確実。そりゃあ彼じゃなくてもいきなり自分のものを没収されたら怒るに決まっている。口外無用と言われたわけではないからと言って、クマサンの依頼だと開けっぴろげにするのもいかがなものか。

    「ん、遅かったじゃん」
    「今日のお昼ご飯もおいしいですよ!一緒に食べませんか?」
    「いつも同じメニューだけどな」
    「……ああ、お待たせ」

     クマサン伝に従業員が渡してくれた丼を手にそんなことを悶々と考えていたら食堂に着いて、先に昼休憩を取っていた三杯が出迎えてくれた。
     テーブルの上には二つのどんぶり。うち一つは案の定、中に真っ赤な粉末の山が。問題の彼の前には器がないようだけど、これから取りに行くのだろうか。

    「聞きにくいんだけど……君はその、エナドリ味の食べ物を美味しく食べられているのかい」
    「急になんだよ?」
    「いや、君の前に賄いがないなと思ったついでに思い出しただけだよ」
    「ふーん。まず大前提としてエナドリは美味い。エナドリ以外のものと味が混じると何とも言えなくなるけど……まあ、何度も食べて慣れると普通にイケるぞ。オレの食べるもんが大抵決まってるから慣れるってのもあるか。この賄いサーモンイクラ丼とか、インスタント麺とかな」
    「そ、そうか」

     要はエナドリのせいでバカ舌になってしまったということだろう。彼も中々、タコのことは言えないほどの。素材の味がどうのこうのとは言わないが、それはそもそも言うほど「イケる」ものなのか?

    「……ちょっとそれ、食べてみても?」
    「は?」

     呆気に取られた顔の彼。僕が突拍子のないことを言ってしまったせいで思考が止まっている。

    「いや、その。もし君がよければなんだけど……そのエナドリ、少し僕にくれないか。試してみたいんだ、丼と一緒に」
    「マジ? やめとけよ、頭ぶっ壊れるぞ」
    「おいそれオレの頭イカれてるって言いたいのか」
    「いや、僕が食べてみたいと思ったんだ。一度食べさせてくれ」
    「お、おう……別にいいけどさ」
    「ったく、俺は止めたからな」

     ほら、と手渡されたエナドリ。ストローが差されていたので抜き取って、一口。

    「ん……」
    「すんげえ顔してんのな」
    「まあ味の好みはイカタコそれぞれだろうし」

     この甘味料然とした味わいはまさにエナドリ。何とも体に悪そうな風味がする。そして、サーモン丼を口に入れるわけだが。……いかんせん勇気が出ない。そりゃそうだ、本当ならエナドリ味の丼なんて一生に一度も食べるはずがないんだから。

    「スプーンで掬ったまま固まってるよ」
    「早くしないと舌からエナドリが遠のくぞ」

     ええいままよ。断腸の思いで、温くなったサーモン丼を一口頬張った。

    「どうだ、お味は」
    「…………筆舌に尽くし難い」
    「わざわざオレの前で食べた感想がそれかよ……まあ初めて食べたんだし、わからなくもないけどな」

     味の酷さが食感にまで伝わって、口の中で感じるもの全てが不快になる感覚というのがあると思う。まさにそれだ。エナドリの造られた甘さと醤油のしょっぱさ、サーモンの油、全てがめちゃくちゃに混ざったこの丼は、さしずめ味の闇鍋だ。

    「うっ……君は、こんなものを毎食口にしているのか」
    「いやさすがにいつもじゃない……はず」

     僕がいない間に後輩ちゃんが持ってきてくれていたグラスの水で、口の中のものを流し込む。いやはや、咀嚼するのも躊躇われる代物だった。

    「毎回じゃないにせよ……こういうものを食べていて、食事は楽しめているのかい」
    「……さあな。死なないように胃に入れてるだけみたいなところも半分くらいあるし」
    「だとしたら、君はどうしてエナドリを────」
    「は? そんなのお前が気にするようなことじゃねえよ」

     そう言うと、彼は最後の一口を飲み込んで立ち上がった。

    「んじゃオレは試し撃ち場に行ってるからな」
    「え? 休憩入りしてからまだ十分くらいしか経ってないだろう。僕が来た頃にはもう昼を食べ終わってたみたいだし、行動が早すぎるんじゃ」
    「だってメシ食ってないからな。今日は食欲なかったんだ。だからってずっと待合室にいるのも嫌だっただけだし」
    「……」
    「休憩終わったら呼べよ、気が済んだらすぐにでも出発すんぞ」
    「……ああ、わかった」

     少しふらつきながら歩き去る背中を見送る。あれだけの激務をこなして昼を抜いたらそうなるのは明々白々だろうに。

    「アンタにしては珍しいことしたな」
    「そうだろうか」
    「どういうつもりかは知らねえけど……まあ、思うようにやりゃいいんじゃねーの」
    「……」

     んじゃ俺もヤニ吸ってくるわ、とまた一杯が席を離れ、食堂に残っているメンバーは僕と後輩ちゃんだけとなった。

    「エナドリサーモン丼、美味しかったですか?」
    「あの表情と表現でそう思ったならきっとそうなんだろうね」
    「?」

     ダシのきいた醤油味のサーモン丼にまた、スプーンを差し込んだ。
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    イロドリ

    PROGRESSモブエナ(付き合ってない)になる予定の小説、の続き。少しだけエナ君の気持ちがわかるようになるモブと今回もカンストできなくなるエナカス。
    ②オリーブの木に蔓は巻くかヒュウウウウウウッ────カンッ、カンッッッ……
    ティーッティティッティッティティッティッティッティッティーッティティッティッティーッ……
    ピピピピピピピ……ザバアッ!
    ミィィィィッ!!
    ずき。
    ブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンパーヒーパラヒーパーヒーパラヒー……
    ガコン……ゴトン……ゴトゴトゴトゴトゴトンゴトンガランゴロンゴトンガラン……
    ギャアアアアア!!
    ずきずき。
    じわ、じわ。じゅく。
    ビュイィィィィィィィィィィィィィ……
    ギュルルルッ────ドドドドドドドドッ……
    ポタッ、ポタポタッ……ザアァァァァァ……
    ずき、ずき、ずき。
    ぐるぐる、ぐるぐる、ぐる、ぐる、ぐら、り。

     ────。

    ブォンブォンブォンブォンティーッティティッティッビュイィィィィィィティティッティッティッティッパーヒーパラヒーパーヒーヒュウウウウウウッティーッティティッティッティーッドドドドッティーッティティッギュイイイイィィティッティッピピピピピピティッティッゴトゴトゴトゴトバシャンッティティッティッゴトンゴトンガランゴロンゴトンティッティッッティーッドドドドッティーッティティッギュイイパラヒーパーヒーヒュウウウウウウッティーッティティイイィィティッティッピピピピピピティッザアァァァァァカカンッ、カカンッッッビシャッティーッティティッティッティーッ────────
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