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    イロドリ

    今のところは「楽しい(苦しい)サモシ」の三次創作を載せる予定。
    プロフ画は(相互さんが描いてくれたイラストの)マイイカ君。

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    イロドリ

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    モブエナ(付き合ってない)になる予定の小説、の続き。少しだけエナ君の気持ちがわかるようになるモブと今回もカンストできなくなるエナカス。

    #苦しいサモシ

    ②オリーブの木に蔓は巻くかヒュウウウウウウッ────カンッ、カンッッッ……
    ティーッティティッティッティティッティッティッティッティーッティティッティッティーッ……
    ピピピピピピピ……ザバアッ!
    ミィィィィッ!!
    ずき。
    ブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンパーヒーパラヒーパーヒーパラヒー……
    ガコン……ゴトン……ゴトゴトゴトゴトゴトンゴトンガランゴロンゴトンガラン……
    ギャアアアアア!!
    ずきずき。
    じわ、じわ。じゅく。
    ビュイィィィィィィィィィィィィィ……
    ギュルルルッ────ドドドドドドドドッ……
    ポタッ、ポタポタッ……ザアァァァァァ……
    ずき、ずき、ずき。
    ぐるぐる、ぐるぐる、ぐる、ぐる、ぐら、り。

     ────。

    ブォンブォンブォンブォンティーッティティッティッビュイィィィィィィティティッティッティッティッパーヒーパラヒーパーヒーヒュウウウウウウッティーッティティッティッティーッドドドドッティーッティティッギュイイイイィィティッティッピピピピピピティッティッゴトゴトゴトゴトバシャンッティティッティッゴトンゴトンガランゴロンゴトンティッティッッティーッドドドドッティーッティティッギュイイパラヒーパーヒーヒュウウウウウウッティーッティティイイィィティッティッピピピピピピティッザアァァァァァカカンッ、カカンッッッビシャッティーッティティッティッティーッ────────

    「…………、」

     シャケたちの喧騒が木霊する。場がカオスになればシャケたちの声に溢れるのも当然だが、今日のこれは話が違う。ここは、レート950で失敗したヘリの中。ただでさえうるさいヘリの中。ここにシャケはいない。いるわけがない。なのに揺れる、揺れる、脳ごと世界を揺るがす音。チームメイトの断末魔と、シャケが奏でる愉快で不快な音。
     シャケたちの喧騒が、僕の中で木霊する。

    「…………参ったな」
    「大丈夫ですか? なんだか顔色が悪いような……」
    「いや、気にするほどのことじゃないよ」

     そう、別に僕は体調が悪いわけじゃない。自分の体のことは自分が一番よくわかる、とはよく言ったものだ。だからといってこんなに、それこそ寝るときでさえ悩まされる彼レベルの幻聴がするのもおかしいわけで。さっき彼からエナドリをもらったから、彼の魂の一部でもついてきたのだろうか……などと、戯言を言いつつ。

    「…………」
    「うう……先輩、すごく怒ってますね…………」

     喧嘩っ早い二杯を遠ざけるように、そして後輩ちゃんと「先輩」を遠ざけるように僕が座るのが慣例となっているヘリの座席。チラ、と横を見ると確かに、両腕脚を組んで窓ガラスの外を睨みつける彼はかなり不機嫌な様子。心做しか呼吸も荒い。
     今回は全員、特にミスがなかった。強いて言うなら、全体的に雑魚処理があと一歩足りなかった気がする程度。彼の機嫌が急降下するのは決まって、誰かが戦犯をしたときか、今回のように目立った失敗はないのにクリアできなかったときか、あるいは……自分が戦犯したことに気づかないまま棚に上げているとき。
     午前中の僕の灸がそれなりに効果を発揮しているのか、それとも怒りの正当なやり場がないことを理解しているのか。バクダンよろしく大爆発していないのが奇跡なくらいだ。

    「次こそはちゃんとクリアしなきゃですね……!」
    「……今のシフトはあと数十分しかないから、カンストするならラスト数回ノーミスクリアするしかないけどな」
    「そ、そうでした……」

     おそらくセンパイを鼓舞しようとした矢先、水を差すような彼の言葉に、んみ、と涙目になる後輩ちゃん。けれど肝心のセンパイは無言のままだ。一言二言、いや五言くらい返ってきてもおかしくないと思ったんだが。

    「ま、全員がさっきみたいに立ち回れるならカンストできるかもなあ」

     白々しい。
     させるつもりなど、毛頭ないくせに。

    「……」
    「あ、商会に着きましたよ! 降りる準備しましょ!」
    「……そうだね」

     がったん、がたがた……と大きく揺れてヘリの動きが止まる。あーあだりー、次も頑張りましょ、とボヤけるヤニ好きのタコ───仮名をヤニ君───と、彼を追う後輩ちゃんが、先にヘリの外へ降りていった。

    「ふう……うん?」

     そしてエナドリ好きのイカこと仮名エナ君。彼は未だ座席の上で前屈みになったまま微動だにしないでいた。

    「エナ君。もうクマサン商会に着いた、ヘリから降りないと次の便のバイターに迷惑がかかるよ」
    「……」

     とんとん、と肩を叩くも反応がない。だらりと垂れた前ゲソ、その影に沈む彼の目は見開かれていながらどこか焦点が定まっていなかった。まだ機嫌が収まらないのだろうか。

    「エナく、」

    ぐらり。

     エナ君がぽす、と僕の肩口に寄りかかってきた。予想外のことに一瞬思考が固まる。まさか、寝ているのか? いや目が開いていたんだから寝ているわけがない、だったらどうして。それにしても彼、やけに体温が高いな……
     体温が、高い?

    「!」

     思い当たる一つの可能性。取り急ぎエナ君の額に手を当てた。

    「ぅ、あ……あ゙…………」
    「やはり熱か……!」

     触れた額は、焼け石のように熱くなっていた。間違いない、発熱による体調不良だ。

    「ヤニ君、聞こえているかい!」
    『…………はいよ。こちらエレベーターの中ー』
    「……そうか」
    『バイト中でもないのに無線使うなんて珍しいな。どうしたんだよ』
    「実は、エナ君が熱を出していてね。まだ屋上にいれば手伝ってほしかったんだが、もう降りているなら仕方ない。一階に降りたら他のアルバイターかスタッフを呼んでくれないか」
    『マジで体調崩してやがったよアイツ……これだからエナドリ馬鹿は』

     顔をしかめていたのは、機嫌が悪いように見えていたのは、不調に耐えていたから。その表情が普段の不機嫌な彼とほとんど……あまりにも変わらなくて、異変に気づけなかった。ぎゅう、と目をつぶって震えているエナ君の顔は、見紛うことなく苦痛に満ちていた。

    『わかったよ、連れてきてやる。二杯いれば十分か?』
    「そうだね……ああでも、彼の自宅の住所を聞きたいから、君が戻ってきてくれると嬉しい」

     確か、たまに宅飲みをするのだと言っていた。ただ、この状態では助けを呼んでも連れていけない。患者はなるべく安静に、というのがセオリーだが今はしかたないだろう。
     とりあえず、エナ君を支えて僕の体から離し、ゆっくりとヘリの壁に凭れさせる。

    「スタッフは一匹だけ呼んでくれ。荷物を運んでもらって、僕と君でエナ君を連れていこう。伝言は後輩ちゃんに任せてくれないか」
    『……おう』

     無線を切った。彼が装備しているインクタンクと安全ベルトを素早く外してツナギを緩め、少しでも呼吸しやすいように。…………よし、ほんの少しだけだが表情が楽になった気がする。
     ヤニ君を待つ間、ヘリの座席を簡易なベッドにして寝かせたエナ君を観察する。朦朧としている彼は、自分が今どうなっているのか気づいていないらしい。紅潮した頬、苦しそうに寄せられた眉。悪寒に体を震わせてゼヒ、ゼヒュ、と掠れた息を吐く様は本当に辛そうだ。僕は子どもの頃に引いて以来ずっと風邪とはご無沙汰になっているので、その感覚は遠い過去のものでしかなくなっているけれど。それでも本調子じゃなくなること、自分ではどうしようもない不快さが体の中に蔓延る感覚というのは嫌なものだとわかる。

    「戻ったぞ」
    「いつもお疲れ様です。インクリングのガールさんが仰っていた患者は……そちらの、インクリングのボーイさんですか?」
    「ありがとう。そう、彼です」

     謎のフェイスメットを被っているクマサン商会のスタッフ────ちなみに、クマサン含めすべてのスタッフは誰も顔を明かしていない────が、エナ君の額や手首に軽く触れる。

    「ああ、これは完全に風邪ですね。対応についてクマサンに伺いましょうか」
    「お願いします」

     頷いたスタッフは、社員専用の無線を入れた。細々とした声だが、エナ君の扱いに関する話を進めているらしい。
     その間に、寝かせていたエナ君を抱き起こす。僕の背中に触れた気怠い熱を孕む彼の体は、僕が想像していたよりもずいぶんと軽かった。

    「いやまあ……さすがに意識保てねえやつをこき使うことにはならないだろ」
    「それはそうだろうね。そんなイカを現地に送ったところでどうせ失敗するし、コストを考えるとなおさらだ。一介の事務スタッフでは独断できない、上司に確認を取る……ただそれだけのことだろう」

     僕が元いたタコゾネス軍では、報連相を徹底するようにとのお触れもあったほど。組織や集団では重要なことだ、と言うと、お前ここに来る前どこかで働いてたのか? とヤニを一服し始めたヤニ君に聞かれる。ここで長く働いているから知っているだけだよ、と適当にはぐらかした。

    「……はい、はい。かしこまりました。それでは無線、繋ぎます」
    『────ガガッ……、やあ、お疲れ様。聞こえているかな』
    「! クマサンじゃないすか」
    『事情は聞いたよ。体調不良者が一名出たそうだね』
    「はい。重めの風邪を引いているようなので、自宅に帰らせて療養させるのがいいと僕は思うのですが」
    『ふむ』

     沈黙したクマサン。一瞬エレベーター内が無音になって、またノイズ混じりの音が聞こえてくる。

    『無理をして、二度と働けなくなる……なんてことになってはいけないね。キミの言う通り、彼には早退して家で療養してもらおう。誰か、彼の自宅を知っている者はいるかな』
    「ヤニ君が彼の家に行ったことがあるそうなので、彼に聞きます。背負って家に連れていくのは僕が適任かと」
    『なるほど。……おや、キミたちはもう上がりに近いようだね。ならば……一時間ほど早いけれど、今回はキミたちも上がっていいことにしよう。もちろん、望むのであれば定刻通りに働いていくのは止めないが』
    「オレ以外は上がりでいいっすよ。オレはあのエナカスイカ野郎と違って、このチームじゃなきゃいけない理由はないし。働いて、稼いで……借金返さないと、ですし」
    『やはり勤勉さはオクトリングの美徳だ。そういうことであれば、キミ以外の三杯のタイムカードはこちらで切っておこう。
     では、後はよろしく頼むよ』

    ブツッ。

    「……いいのかい? クマサンが直々にああ言っているんだから、休んだってバチは当たらないだろうに」
    「いいんだよ。その方が時間の有効活用になるだろ」
    「……」

     まあ、本タコがいいと言うならいいんだろう。それ以上言うことはない。後輩ちゃんによろしく、と彼に伝えて今日のバイトは解散となった。

    「……よし」
    「……」

     未だ口を開かない、じわじわとカナアミで焼くような熱を背負って、彼の住処へと歩き出した。
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    ずき。
    ブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンブォンパーヒーパラヒーパーヒーパラヒー……
    ガコン……ゴトン……ゴトゴトゴトゴトゴトンゴトンガランゴロンゴトンガラン……
    ギャアアアアア!!
    ずきずき。
    じわ、じわ。じゅく。
    ビュイィィィィィィィィィィィィィ……
    ギュルルルッ────ドドドドドドドドッ……
    ポタッ、ポタポタッ……ザアァァァァァ……
    ずき、ずき、ずき。
    ぐるぐる、ぐるぐる、ぐる、ぐる、ぐら、り。

     ────。

    ブォンブォンブォンブォンティーッティティッティッビュイィィィィィィティティッティッティッティッパーヒーパラヒーパーヒーヒュウウウウウウッティーッティティッティッティーッドドドドッティーッティティッギュイイイイィィティッティッピピピピピピティッティッゴトゴトゴトゴトバシャンッティティッティッゴトンゴトンガランゴロンゴトンティッティッッティーッドドドドッティーッティティッギュイイパラヒーパーヒーヒュウウウウウウッティーッティティイイィィティッティッピピピピピピティッザアァァァァァカカンッ、カカンッッッビシャッティーッティティッティッティーッ────────
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    maru464936

    PASTTwitterの過去つぶやきまとめ。リーゼお婆ちゃんが亡くなった時のちょっとした騒動。語り手はフィーネ似の孫だと思う
    無題孫たちの述懐で、「母方の祖父は、物静かで穏やかなひとだった。」みたいに言われてたらいいよね。

    「だから私たちは、祖父にまつわるさまざまな不吉な話を、半ば作り話だろうと思っていた。祖母が亡くなった日、どこぞの研究所とやらが検体提供のご協力の「お願い」で、武装した兵士を連れてくるまでは。
    結論から言うと、死者は出なかった。数名、顎を砕かれたり内臓をやられたりで後遺症の残る人もいたみたいだけど、問題になることもなかった。70を超えた老人の家に銃を持って押しかけてきたのだから、正当防衛。それはそうだろう。
    それから、悲しむ間も無く、祖父と私たちは火葬施設を探した。
    私たちの住んでいる国では、土葬が一般的だけど、東の方からやってきた人たち向けの火葬施設がある。リストから、一番近いところを調べて、連絡を入れて、みんなでお婆ちゃんを連れて行って、見送った。腹立たしいことだったけど、祖母の側に座り込んだまま立てそうになかった祖父が背筋を伸ばして歩けるようになったので、そこは良かったのかもしれない。怒りというものも、時としては走り出すための原動力になるのだ。
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