知人の恋 ――初めてその人に、名前を呼ばれた日のことを覚えている。
「■■■、だね。任務お疲れ様。どうだった?」
オペレーターのコードネームは本名とは別につける人間と、本名をそのまま用いる人間がいる。俺は後者だった。だけどその時、ドクターに名前を呼ばれた時は、本当に、何を言われたのかわからなかった。
呆然としている俺を見て、その人は首を傾げた。
「……あれ、名前を間違えてしまったかな」
「あ、いえ、いいえ。合ってます。俺のコードネームです」
良かった、と目の前で安心したように笑うその人が、俺の知っているドクターのイメージと合致しない。まるで戦場を空から俯瞰しているような戦術を立て、敵を蹂躙する指揮官。誰よりも何よりも凄絶に、敵を殲滅する指揮官。それが俺のイメージするドクターだった。俺のことも、替えの聞く駒としか見ていないんだろう、と。
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