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    はるち

    好きなものを好きなように

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    はるち

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    until you have the courage to kiss.
    酔って帰る二人のお話。
    リー先生の三周年記念ボイスに脳を焼かれました。

    #鯉博
    leiBo

    You can never cross the night, ドクタァ、と彼が自分を呼ぶ声には、酒に漬け込んだ果実の甘さがあった。これは不味いと身を引こうとしたところで、その足を尾鰭が掬い取る。バランスを崩した身体は重力に従うまま、彼に押し倒されるままだ。事務所のソファは想像よりも柔らかく、折り重なって倒れる二人を受け止め、彼は夜のように自分の上へと覆い被さる。照明もついていない事務所の中で、彼の瞳が双月めいて夜闇の中に灯っていた。それが何を燃やした光であるのか、瞳の裡にあるものに気づいてしまわぬように、と。目を逸らしたドクターは、しかし晒した喉元を長い舌で舐められて声を上げた。
    「リー、やめてくれ」
     はて、と言わんばかりに首を傾げて見せる男の、取り繕った無邪気さに腹が立つ。酔い醒ましに頬でも叩いてやろうかと思ったけれど、両手首はもうとっくに彼に絡め取られていた。喉笛に寄せられた唇の、微かな隙間から漏れ出す酒気に目眩がする。
    彼は酒に弱い。それは知っていた。けれど羽目を外しすぎることも、派手な失敗をすることもなかった。吐きそうになれば席を外すし会計も自分で出来る。タクシーに乗るのは、時と場合に寄ったけれど。
     だからお茶でも酒でも、なんでも付き合ってあげますよと言われた時に。自分は酒を選んだのだ。仕事では飲みたくない、と言っていた彼が、自分を酒に誘ってくれることが嬉しかったから。けれどこのザマはなんだ。飲んだ帰りに彼を事務所まで送り届けて、どうして自分は押し倒されているのか。
    「どうしてです」
     どうしても何も。夜が明ければ、傷つくのは彼の方だ。彼は、優しい人だから。けれども、肌に寄せられた歯の、その鋭さに背筋が震える。
    「おれが後悔するとでも?」
     くつりと彼の喉が鳴る。ドクター、と自分を呼ぶ声は先程よりも優しく、けれども底を流れるのは冴え冴えと輝く月光の冷たさだ。見るものを酔わせて、惹きつけて、狂わせる、曠然と空を揺蕩う支配者の。
    「しませんよ、おれは」
     あなたはどうなんです、と彼は問う。沈黙ではなく、受動ではなく。確かに、言葉と行為で伝えてくれ、と彼は囁く。
    「――私は、」
     答えを紡ぐ唇に、彼のそれが重なる。答えを飲み込んで、言葉を呑み込んで。うっそりと笑う龍は、きっとこの夜が明けても、傷を負うことはないのだろう。交わす情の嫋やかさが肌を舐め、一夜の過ちを千夜に変える。
     嗚呼、こちらを睨め付ける鬱金の鮮やかさよ。夜闇でも覆い隠せない、煌々と光る情欲の熱さよ!
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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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