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    はるち

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    はるち

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    リー先生とクォーツと夜食を食べるお話

    #鯉博
    leiBo

    「祝うべき勝利だ……ロドスへ帰還したら、皆ももう私の料理など食べずに済むしな」

    新鮮な空気が吸いたくてテントの外へと出た。昼間の歩く度に土煙の上がる埃っぽさは鳴りを潜め、代わりに月と星の光が冷ややかに大気を照らしていた。ドクター、と私を呼んだのは耳に馴染んだ深みのあるテノールの声で、おい、と慌てたアルトがそれに追従する。声のする方を振り向くと、ぱちぱちと爆ぜる焚き火が二人分の横顔を温かな陰影で彩っていた。今日の寝ずの番はクォーツのはずだったが。面倒見の良い彼のことだ。ロドスに来てまだ日の浅い彼女に付き合って、話し相手にでもなっていたのだろう。
    「腹でも空きましたか?夜食でもどうです」
    焚き火の上には鍋がかかっていた。遠目では中身の判別はできない。誘われるままに足を向けると、リーは傍らに置いてあった器に中身をよそった。くつくつと煮えているのはスープのようだった。実のところそこまで腹が減っているわけではなかったのだが、立ち上る匂いが食欲を呼び起こす。
    「クォーツさんが狩った羽獣です。後は豆が少々」
    「へえ、調理は君が?」
    リーは答えずに、ただ器をこちらへと差し出しただけだった。ただ、隣に座っているクォーツの耳は所在なさげに揺れており、彼がこちらへと目配せするのを見る限り、食材の調達も調理も彼女の仕事のようだった。開拓隊にいた頃は、炊事を担当していた、とも言っていたか。
    ありがとう、と私はリーの隣に腰を下ろして、受け取った器に口をつける。この料理の名前は、とクォーツに尋ねたが、彼女は困ったように眉を下げるだけだった。
    「そんな大層なものではないよ」
    名前の付かない素朴な料理は、簡単な塩と胡椒で味付けされたスープはとろとろと食道を下り落ちて、枝葉のように暖かさを身体に巡らせていく。
    「クォーツさんは筋が良いですからね。料理もすぐに上達しますよ」
    「買いかぶり過ぎだ」
    「いやいや。料理ってのはまず手順通りにやることが大切なんですよ。中火で五分と言われたら五分。大匙三杯と言われたら三杯。クォーツさんはそのあたりがしっかりしていますから」
    なるほど、今日の料理は彼の指南があってのものらしい。私はちびちびとスープを飲みながら、恐縮しているような、照れているようなクォーツと、彼女を言葉巧みに厨房へと勧誘しているリーを眺めていた。
    「ドクターもそう思うでしょう」
    急に水を向けられ、鬱金と琥珀の瞳が揃ってこちらへと向けられた私は、危うく豆を喉に詰まらせるところだった。むせていると彼に背中を擦られる。クォーツは慌てたように、横においてあった水筒を私に手渡した。
    「ありがとう」
    「大丈夫ですか、ドクター。腹一杯になって眠くでもなりましたか?」
    「いや、ぼうっとしていたよ。贅沢だと思ってね」
    怪訝そうな顔をしたのはクォーツだった。
    「こうやって時間を過ごせることが」
    クルビア人を時間に縛られている、と表現したのは誰だったか。彼女は手にしている懐中時計、その秒針に追われるままに、急き立てられて生きている。
    けれど、今は。この焚き火の回りには、日が落ちて昇る以上の時間は存在せず。ただぼんやりと、瞬く星と、ぱちぱちと踊る焚き火を眺めて過ごしている。
    それは、同じ時間の労働で得られ得る対価よりも、余程贅沢なものだった。
    「クォーツ。料理を学ぶかどうかは、君の好きにするといいよ。リーのことは気にしなくていいから」
    「ちょっと」
    「君の時間だ、好きなことに使うといい」
    「……そうか」
    膝を立てて座っていたクォーツが、膝を抱え直す。さらりと流れた銀髪は炎の色を写し取って、暖かく燃えていた。
    「ロドスへ帰還したら……、また、私の手料理を食べてくれるか?」

    それから。
    カッターと一緒に、リーから料理の手ほどきを受けた彼女から夕食に誘われたのは、帰還してから
    数週間後のこと。
    味については言うまでもない。
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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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