ふたり……?
誰かに呼ばれたような気がして、マンサクは顔を上げた。
せっかくハイラル平原まで足を伸ばしたというのに、今日は思ったようにバッタが捕まらない。よっこらしょと立ち上がり痛む腰をさすると、マンサクはツキミさんのためもう一度草むらをかき分け始めた。
カラコロカラと音がしたような気がした。
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ハテノ村に柔らかい朝の日差しが降り注ぐ。
リンクは隣でぐっすり眠る愛する人の顔を見つめながら、昨日の出来事のことを考えていた。
「俺の心はこの人だけのもの」その言葉に偽りはない。でもラッセに言った「将来を共にと誓い合った」というのはあの場の勢いだった。
将来を共に……それが何を意味するのか、それくらいわかる。ただのお付きの騎士に過ぎなかった自分が、仮にも一国の姫だった彼女と家族になるなんて許されるのだろうか。でももう既に一線を超えてしまってこんなこと考えるのは今更なのだろうか。
それでもやっぱり……とリンクが思考の沼にはまり始めたときだった。
「……ん」
長いまつ毛がふるりと震え、ゼルダが目を覚ました。
「……おはようございます、リンク」
朝の光の中でゼルダは、微笑むと幸せそうにリンクの胸に顔を埋めた。リンクの胸が暖かいものでいっぱいになる。
ああ、もう!やっぱりこの人を手放すなんて絶対にできない。たとえ、彼女がハイラル王室の姫だったとしても、いつか再び厄災を封印するという女神の役目を担う血筋を残す者だったとして、今この瞬間は彼女の全ては自分だけのものだった。
うん、とだけ答えて何も言わず強く抱きしめてきたリンクに何かを感じたゼルダは言った。
「何を考えていたのですか?」
「……将来を」
ゼルダは埋めていた胸から顔を上げると、そのエメラルド色の瞳でまっすぐにリンクの目を見つめた。
「貴方が描いた将来に、私はいますか?」
リンクはどんなに悩んでも必ずまっすぐ先を見つめて諦めない彼女のこの瞳が好きだった。もうずっと100年と少し前くらいから愛してやまなかったのだ。そして、その彼女が昨日ラッセとリィレの前ではっきりと言ってくれた自分を「愛している」という言葉。
「俺は……ずっと少し離れたところから貴女を見守れたらそれでいいと自分に言い聞かせていました。なのに、気づいたら一緒にこの家で暮らしているのが当たり前になっていて……
戦う事しか知らない俺じゃゼルダをうまく幸せにしてあげられないかもしれない。それでも、こんな俺でもいいって思ってくれるなら……ゼルダ、俺と一緒になってほしい」
少しだけ頬を赤くしながら、でも真剣に伝えてくれたリンクの言葉の意味をゆっくり飲み込んだゼルダの目から、一筋の涙が溢れた。
「嬉しい……!!」
2人の顔と顔が重なる。柔らかく触れた唇が優しく啄み合い、もう一度2人だけの時間が始まった。
******
それから数日後
お祝いムードに湧くハテノ村には、純白色のふんわりとしたドレスに身を包み花冠を頭に乗せたゼルダと、パリッとした綿のシャツとベストを着たリンクの姿があった。
どう見てもお似合いの2人なのに、"友達以上恋人未満の同居人"と村人の間で呼ばれた彼らがやっと結ばれたのだ。ハテノ村の人々もこれにはずっと長い間ヤキモキしていた。
「おめでとう!」
「どうか幸せに!!」
花びらが舞い散り、村の皆が見守る中、リンクとゼルダがお互い照れくさそうに、おずおずと手を絡める。鼻と鼻が擦れ合い、口付けをするとワッと歓声が上がった。