神は細部に宿る「…視線が煩えンだけど」
「あ、気づいてた?」
指先をひらひら動かして見せると釣られて移る目の動きに思わず吹き出す。
むっとした上条の目の前に爪の先をそっと差し出す。
「珍しいな、鈴科でもネイルとかするんだ?」
「似合わねエってか?」
クククッと笑うと、目の前に差し出した手を急に握られる。
「鈴科は似合わないようなネイルをわざわざ塗ってくるのか?」
「い…や、」
「珍しいからってのもあるけど、俺は普通にかわいいと思ったよ」
「ッ…!」
少しカサついて爪の根元がささくれだった、しかしじんわりと温かい上条の手が
俺の手を包み、指一本一本を付け根から指先までツツ…となぞり上げる。
背筋がゾクゾクと慄え、甘やかな痛みが胸の中でジュクジュク広がっていく。
「肌がパウダースノーみたいに綺麗な白だから、薄い色がよく引き立ってる」
「…褒め慣れてンな、ジゴロ野郎」
緊張を誤魔化すように茶化した声の震えが伝わってしまってないだろうか、
発言してから後悔する。
しかし、恐る恐る視線を上げると、彼の目線はまっすぐ自分を捉えていた。
「普段から気になってる子が、普段と違うことをしてるから気になった。それがいいと思ったから褒めた…俺がしたことはそんなにおかしいか?」
「そォじゃない……けど、俺に向ける意思表示としては、相応しくないだろ…」
言いながら声のボリュームがどんどん窄まっていく。
上条の表情を見るのが怖くて、また視線を手元に落とした。
「相応しいとか相応しくないとか、俺の気持ちを勝手に決めるなよ」
「そォ、だよな…俺なンかが勝手に決めつけて「鈴科はどう思ってるんだ?」
「…エ、」
「褒められて嫌だった?なら今度から褒めないようにする。」
「でも、俺は鈴科がどう思ってるのかを一番知りたい。」
自分の手に重ねられた上条の手を伝って、視線をゆっくり上げていく。
上条の瞳に怒りの色は映らず、ただ俺の答えだけを待っていた。
「……イ」
「…え?」
「嬉しい…お前から褒められて…」
「嫌じゃない?」
「…全然、嫌なンかじゃねェ…」
はあああ〜、と上条が深く嘆息するので不快にさせたかと慌てれば「違う違う」と否定される。
本当に嫌がられてたら結構辛かったから…などと言われ、思わず目が点になった。
「俺がどうしてお前から褒められて不快になるンだ?」
「…えええ??…ちょっと誤解しそうなんだけど…」
「誤解?オマエが俺について何か思い違いでもしてンの?」
「…鈍感な子には教えません」
今日の上条はなんかヘンだ。曖昧な物言いでやたらはぐらかしてくるし、絶対何か隠してる。
夕食が外食の予約でなければ補習が終わるまで待てたのに、と後ろ髪を引かれる心地で仕方なく帰路につく。
校門を出て暫く歩き、辺りを見まわして周囲に誰もいないことを確認すると、まだ熱が籠る自分の指先に唇を寄せた。
「打ち止めに、何か買って帰るか…」