憧れの人大好きで、憧れの人がいた。
オレが10歳のころあの人は二十代だったから、少し年の離れた兄貴のような存在だった。何をするにもかっこよくて、子供のオレにも優しくて、男気があって豪快で……。オレがガキの頃に若頭だった人だ。
小さい頃はよく飴をくれたし、高校生になってからはエロ本や小遣いをくれた。兄弟の中でも一番オレを可愛がってくれていたと思う。
あのときのオレは単純だったから彼のやることなすことすべてが輝いて見えた。
ひとりで敵対組織に乗り込んで組を半壊させた話とか、月曜は愛子、火曜は奈々子といったように曜日によって抱く愛人を変えている話とか。いま思えば誇張した武勇伝なのだろうが、あのときの自分にとっては何もかもが新鮮だった。彼のようになりたくて、オレは継ぐ気もなかったこの家に入った。
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