現パロ
ふと、目が覚める。
もぞもぞと左右に寝返りを打ち、枕元のスマホをタップすると痛いくらいに眩しい液晶に01:12の表示。
つけっぱなしのテレビではやたらオーバーリアクションな男女がキッチンナイフがどうのこうのと叫んでいて、楽しみにしていた筈のバラエティはとっくに終わっていた。
「ノートンは……まだだな」
夜間バイトに忙しい同居人は未だ帰らず、0時にあがる予定と聞いていたがまた残業をしているんだろう。
奨学金を取っているのだから稼ぐのは生活費だけでいいんじゃないかと問いかけた事もあったが、返ってきたのは金はいくらあっても困らない、という言葉だった。
ーーポンッ♪
軽快な音と共に、磁石を模した謎の不細工なキャラアイコンが通知される。
『起こしたらごめん、今終わった。20分位で帰れると思う』
『起きてたよ、おつかれ。メシどうする、なんか食ったか』
『まだ。家にあるもので適当に食べるから寝てて』
適当に食べるという事は、それなりに腹が減っている時だ。疲れ過ぎて食べたくない時は、もう食べたと嘘をつく。
ここで何か食べたいものあるか?なんて聞けば、遠慮してどこかで済ませるからいいよと返ってくるだろう。俺とノートンの間にいつまでも居座り続ける遠慮に苛立っても仕方ないので、ここは夕飯には触れずに返信を済ませるが吉だ。
『風呂溜めとくわ。気をつけて帰れよ』
『うん。ありがとう』
さて、これで大人しく帰ってくるだろう。
ベッドから起き上がり、伸びをするとぱきぱきと音が鳴った。
まずは風呂、次に飯を作る準備に取り掛かろう。
また申し訳なさそうな顔をするんだろうけど、疲れて帰ってくる恋人を労りたい気持ちはどうにも引けないのでそこは我慢してもらうしかないのだ。
ーーーーーーーーーー
「ただいま」
「お、おかえり!風呂溜まってるぞ!」
「ありがとう、助かるよ」
玄関を開けるとすぐにリビングからウィルが顔を出した。
僕はそのまま彼の優しさに甘えてバスルームへ足を向ける。きっとウィルの事だから、次はあの言葉が聞こえるはずだ。
「風呂出たらすぐ飯でいいか?」
「作ってくれたの?……ありがとう」
「おう!ナワーブ直伝の肉野菜炒めだから不味くは無いはずだ」
「君が作ってくれるもので不味かったものなんてないよ。じゃあ風呂入ってくる」
ほらね。
優しい彼は自分だって練習で疲れてるのに、僕をこうやって甘やかしてくれる。
本当はもう済ませたと返せば彼が引き下がる事はわかっている。
きっとウィルは僕がいつまでも遠慮していると考えているんだろうけど、本当は違うんだ。
僕はずるくて臆病な男だから、君の愛が変わらずにあるかとこんな子供みたいな方法で試している。
君が僕の為に準備してくれた湯に浸かり、君が僕の事を思って作ってくれた食事を食べて、君の好きという感情のこもった瞳で見つめられて、それからもうひとつ。
それを受け取ってやっと僕は君に愛されてると実感できる。
僕は最後のひとつを受け取りたくて、食後に食器を洗う彼の側に立った。
「ウィル、明日……もう今日か。休みだろ?」
「ノートンもだよな。どうする?起きたら何処か出掛けるか?」
「出掛けるのもいいね。……それもいいんだけどさ」
最後の一枚を食洗機に立てかけた彼の背中に後ろから抱きつき、わずかに硬くなった下半身を押し付ける。
燻った熱を移したくて、同じ温度になって欲しくて回した腕により力を込めた。
「誘ってんの?」
「ウィルが疲れてるなら、このまま自分の部屋で寝る」
「お前は?ノートン仕事終わったばっかじゃん」
「疲れはあるけど、でも今はウィルと繋がりたい」
これはあともう一押し。
そう思って、彼の耳元で実はもう準備もしてあると伝えると目の前にあった背中は厚い胸板に早変わりして気づけばしっかりした腕の中に閉じ込められた。
「いつ準備なんてしたんだよ。風呂入ってる時?」
「そうだよ。バイト終わって、ウィルからの返信見たらなんかその、シたくなっちゃったから」
「めちゃくちゃ嬉しい。今日こそゆっくりスるからな」
「はは、君が我慢出来なくなるように頑張るね」
「負けねぇ!気持ちいいしかわかんなくなるようにしてやるよ」
「楽しみ」
「愛してるぜ、俺の小鳥ちゃん」
「うぐっ!こ、ことりちゃんって、なにそれ、あは、あはははは」
「笑うなよぉ、カヴィンにロマンチックな言葉だって教えてもらったんだからさぁ」
「だって、僕みたいなの捕まえて小鳥ちゃんて…ふはっ、お腹痛いよ!」
「笑いすぎだろ!」
笑ってられるのも今のうちだからな!とウィルの声を合図に、どちらともなく噛み付き合うようにしたキスは醤油とニンニクの味がした。