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    ori1106bmb

    @ori1106bmb
    バディミ/モクチェズ

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    ワンライ(靴下)「いよっ、と」
     危なげない足取りで、モクマはチェズレイの長い体をベッドに横たわらせた。
     ベッドに下ろした弾みでも、チェズレイが目を覚ます気配はない。それもそのはずで、ふたりはリビングルームで、つい先程まで晩酌を楽しんでいた。今宵の晩酌は、作戦成功の祝い酒でもあった。弾む心が、普段よりも酒を飲むペースを早めた。お前さんちょっと飲み過ぎじゃないの、と注意しなければと思った矢先、アルコールの限界摂取量を越えてしまったチェズレイは、すやすやと寝息を立ててソファーで眠ってしまったのだった。
     こうしてチェズレイがモクマの前で潰れてしまうのは、一度や二度のことではない。
     つい先日チェズレイが潰れてしまった時にも、こうしてベッドまで運んで寝かせてやった。そのこと自体には感謝されたが、翌朝目を覚ましたチェズレイは、皺だらけになってしまったスーツを不満げかつ複雑そうに見つめていた。そうならないために部屋着で晩酌してはどうか、と提案してみたが、それは彼の美学が許さないらしい。
    「……おじさんが脱がしてやるのとどっちがマシなんかねえ」
     いつぞやの山小屋では、勝手に衣服を脱がせて傷を確かめたことを「下衆だ」と罵られた。まああれは大傷を見られてしまったことを恥じたための軽口とも取れるが。
     明日の朝、またあの不満げな表情を拝まないようにするためには、今ここで自分が脱がせてやるしかないのだろう。相棒だからといってそこまで面倒を見る義理はないが、そもそも彼を晩酌に付き合わせているのは自分だ。
     ぼやきながら、モクマは相棒の衣服に手をかけた。
     まずは、つやつやに磨き抜かれた靴を脱がせて床へ揃える。
     次に腕を持ち上げて、いつも就寝時には外している手袋を脱がせた。ピアノを弾く時などに見せてもらえる繊細な指先が露わになる。
     手袋を揃えてサイドボードに置き、仕立ての良い上着と、その下のベストを脱がせにかかる。
    「チェズレイ、ちっと体起こすよ」
     一応小声で断りを入れてはみたが、やはり反応はなかった。無抵抗な人間というものは重さを感じるものだが、身長の割にウエイトの軽いチェズレイを抱えることに、幸いそれほど苦労は感じなかった。寝かせた拍子に肩から落ちてしまっていたストールも拾って、スーツと一緒に壁のハンガーにかけておく。
     お次はシャツだ。きっちりと留められた首元のボタンを外す。シャツの裾に手をかけ、万歳の形を取らせて脱がせようとする。ここまで体勢を変えればさすがに起きてしまうかと思ったが、この酔っ払いは本気で寝入っているようだった。
     黒いシャツの下から、白磁の肌が露わになる。傷ひとつない、と言いたいところだが、体の所々に大小様々な傷跡が残っていた。
     ヴィンウェイで再会した日、衣服を剥いで確認した時には、この体はボロボロに傷ついていた。モクマの相棒は、己の体が傷つくことを厭わない。それしきで自分の価値が下がるとは考えないし、ついた傷ならば美しく咲かせてしまえという苛烈で潔い性質だ。危なっかしくて放っておけやしない。こうしてチェズレイの肌が故郷で負った傷を忘れようとしていても、モクマはあの時の悔恨と決意を二度と忘れはしないだろう。
     さて、こうして相棒の肢体を眺めてばかりはいられない。ベルトを外し、足先からスラックスを抜き取る。これも壁のハンガーに吊しておいた。
     横たわるチェズレイの体に残るは下着と、靴下のみだった。とはいえ、下着まで着替えさせる必要はないはずだ。要するに、あとは靴下を脱がせるだけだ。
     ソックスガーターというものの存在を、モクマはチェズレイと過ごすようになって初めて知った。
     そもそも草履に素足の自分には無用の長物なわけだが、部屋の中で見つけたその謎の物体を「靴下がずり落ちないようにするためのものです」と聞いた時には目を丸くした。
     実際に着用しているところをまじまじと見る機会はめったになかったが、今日はその機会が訪れている。実用的なアイテムのはずだが、チェズレイがそれをつけている様は、靴下の黒と相俟ってずいぶんとストイックさを際立たせて見せていた。
     これって普通に脱がせればいいんだろうか?と首を傾げながら、ソックスガーターごと靴下を足先から引き抜く。白い足先を彩る桜色の小さな爪が露わになった。
     ミカグラの温泉で、足湯すらも拒否された思い出が蘇る。手を含めてほとんど素肌を見せてくれない彼の体のうち、最もガードが堅いと言えるのは、実はこの足なのかもしれない。
     美しく磨かれたものを愛する彼は、誰にも見せることのない足の爪先までつやつやに磨き抜かれている。まるでお城の宝物庫の奥、ひっそりと隠された宝石箱の中に眠っている宝石のようだった。
     胸元がゆるく上下していなければ、チェズレイ自身も博物館に飾られた彫刻のようだった。
     流れる金髪に、伏せたまぶたを縁取る長い睫毛、繊細な眉を除いては、無駄な毛のひとつもない。さほど芸術を理解しないモクマでさえ、いつまでも眺めていたくなるような美しさだ。
     きっと唯一布に覆われている場所も、彫刻のように美しいのだろう。じっと眺めているうち、そんな不埒な妄想が脳裏を過った。
     同性の性器の形など、今まで想像したこともなかった。同性の体を眺め回し、美しいと感嘆することも。彫刻のようだ、と評しはしたが、酒に溺れて薄い桃色に色づいた白磁は、艶めかしさも漂わせていた。
     ……ああ、濁っているな。体の奥で渦巻く欲が、どろどろに濁って重みを増していく。
    「……はっ。いかんいかん」
     いくら酒で体が温まっているとはいえ、裸のままで寝かせては風邪を引かせてしまう。最も自分の健康を案じてくれている相棒の健康を、自分が害してどうするのだ。
     モクマは正気に立ち返ると、チェズレイが愛用している寝間着を、脱がせる時からは考えられないほどの手早さで着せ付けた。
     全身をふかふかの掛け布団で覆い、仕事は完了だ。
    「おやすみ、チェズレイ」
     自分は晩酌の片付けをして来なければ。寝室を後にするため、ルームランプを消した。
    「ん?」
     何か聞こえた気がして振り返るが、ベッドでは変わらずチェズレイが寝息を立てていた。気のせいだったようだ。呼吸に合わせてゆっくりと上下する布団を確認し、モクマは寝室のドアを閉めた。

     暗闇の中、掛け布団に埋もれるように、ひそかに詐欺師はため息をついた。
    「……次はもっとあからさまな勝負下着で攻めてみますかねェ……」
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    ぱんつ二次元

    DONEED後時空で海と雪原のモクチェズのはなし。雪原はでてこないけど例の雪原のはなし。なんでもゆるせるひとむけ。降り積もる雪の白が苦手だった。
     一歩踏み出せば汚れてしまう、柔らかな白。季節が廻れば溶け崩れて、汚らしく濁るのがとうに決まっているひとときの純白。足跡ひとつつかないうつくしさを保つことができないのなら、いっそ最初から濁っていればいいのにと、たしかにそう思っていた。
     ほの青い暗闇にちらつきはじめた白を見上げながら、チェズレイはそっと息をつく。白く濁った吐息は、けれどすぐにつめたい海風に散らされる。見上げた空は分厚い雲に覆われていた。この季節、このあたりの海域はずっとそうなのだと乗船前のアナウンスで説明されたのを思い出す。暗くつめたく寒いばかりで、星のひとつも見つけられない。
    「――だから、夜はお部屋で暖かくお過ごしください、と、釘を刺されたはずですが?」
    「ありゃ、そうだっけ?」
     揺れる足場にふらつくこともなく、モクマはくるりと振り返る。
    「絶対に外に出ちゃ駄目、とまでは言われてないと思うけど」
    「ご遠慮ください、とは言われましたねェ――まぁ、出航早々酔いつぶれていたあなたに聞こえていたかは分かりませんが。いずれ、ばれたら注意ぐらい受けるのでは?血気盛んな船長なら海に放り出すかもし 6235