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    バディミ/モクチェズ

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    #モクチェズ
    moctez
    #モクチェズ版ワンドロワンライ

    ワンライ(ゴール/駄菓子) 病院の中庭から個室病棟へと、叱られない程度の急ぎ足で歩く。
     昼過ぎに行く、と予め告げていた時間はとうに過ぎている。今頃、相棒は舌を……いや、首を長くして待っているはずだった。
     昨日は、誕生日の祝いという名目で退行催眠ごっこに付き合わされた。今日はまだ、タブレットにメールは届いていない。眠ってゆっくりと休息してくれていると良いのだが。
     主の命を奪った時に、一度は終わったと思った人生。終わりの見えない泥沼から救ってくれた、無二の相手。
     その男は先日、危うく故郷で命を落としかけた。ギリギリのところで救出に成功し、今は第三国の病院で大怪我を治療している最中だ。
     世界征服という夢に向かって邁進している男がひととき余所見した理由は、抑えきれなかった衝動により反故にしてしまった自分との約束をもう一度結ぶため。
     そんな律儀で愚かな相棒の元に、モクマは毎日見舞いに訪れていた。
     ゴールである病室のドアをノックする。返事の後に入室すると、一人きりの部屋で、チェズレイはテレビを眺めていた。番組はお昼のワイドショーだ。地元のグルメ特集につい視線を取られそうになったが、病室の主から「お早いお着きで」とチクリと嫌味が飛んでくる。
    「はは、すまんすまん。子どもたちと遊んでたらすっかり時間が経っちまってて」
    「手加減してばかりの遊びがそれほど楽しいのですかねェ?」
     先程まで病院に入院中の子どもたちとサッカーをしていた。
     幼い子どもたちとのサッカーは、ゴールを譲ってばかりだった。なにせこちらにはゴールキーパーもいない。モクマ一名対子どもたち多数の試合は、子どもたちの大勝に終わった。
    「子どもたちが楽しそうにしててくれりゃ、俺は楽しいよ。……はい、これ。おみやげ」
     差し出した品物を見て、チェズレイは鼻で笑う。
    「他人からもらったものを寄越すなどマナー違反では?」
    「ありゃ。こいつの出所、何で知っとるの?」
    「さてねェ」
     懐から取り出したるは、一本の麩菓子。遊んでくれた礼に(本当はボロ負けでかわいそうだからというお情けだが)と、優しい子どもからもらったものだ。
     あいつは食べるだろうか、などと想像しながら歩いて来たが、案の定つれない態度だ。というより、いつまで経っても訪れない相棒暇つぶしに機嫌を損ねているようにも見える。
     そんな時には、甘いものだ。
    「でも、全部あげるとは言っとらんよ。はんぶんこしよう」
    「あァ、モクマさん。私に着色料だらけの甘ったるい菓子を食べさせようと?」
    「まあまあ。ちょっとだけだよ」
     麩菓子を真ん中あたりで半分に折り、入っていた袋を持ち手代わりにして差し出す。自分は素手で半分を持った
    「知ってる? 麩菓子。俺にとっちゃガキの頃に食ってた懐かしい駄菓子なんだが」
    「いいえ、初めて触れましたよ」
     ふいにチェズレイの視線がテレビへと移る。ワイドショーは来年ミカグラ島で開催される世界サッカーカップの話題から、芸能の話題へと変わっていた。話題はこの国の大御所俳優と美人女優が年の差婚したというニュースだった。
    『……初めて二人の交際が報じられたのは今から十年前。長年の交際を経て、誕生日である昨日、ついにゴールイン! 番組では二人への突撃取材を行いました……』
    「昨日が誕生日っちゅうことは、この女優さん、お前と同じ日生まれってことだ」
    「そのようですねェ」
     当然、それが理由でこのニュースに興味があるなどとは思っていなかったが、あまりにも興味なさげにつぶやくのでつい聞いてしまった。
    「お前さん、こういう番組も興味あるんだね」
    「俗な話題は好みではありませんが、日常会話に有用ではありますので」
     美しい唇が、手持ち無沙汰そうに菓子をひとくち囓る。柳眉が甘ったるさに歪んだ。
    「……先程、キャスターはゴールを入籍という意味で使ったのですよね?」
    「ああ、うん」
     マイカを飛び出してから耳にするようになった言葉だが、自分より年上の口から聞くことが多い言葉のように思う。ド平日の真っ昼間という番組の視聴者層を考えれば、適した言葉なのだろうが。
    「果たして、結婚はゴールなのでしょうか?」
     意外な問いに、つい目を丸くする。
    「うーん。王子様とお姫様は結婚して幸せに暮らしました……っちゅうのは、おとぎ話の決まり文句ではあるけども」
     生きている限り有効だという途方もない約束を、左手の小指に誓った。
     生涯の約束……あたかも結婚のような誓いは、果たして『ゴール』と呼べるのか。
     その答えは否だ。ふたりにとっての『ゴール』は、その先にある。
    「今んとこ、俺たちにとっての『ゴール』は世界征服だと思うんだけど、そういやその先については具体的に聞いたことなかったな」
    「おや、聞きたいですか?」
     ゴールを決めるための戦略は大将が全て決めればいい。自分はただ従うだけだと思っていた。同道を始めたばかりの頃は。
     けれど駒が戦略を承知していればこそ、成り立つ戦略もある。それに、大将の本意を知っていればこそ、無謀を止めることもできる。
     道半ばでゲームオーバーにするわけにはいかないのだ。いつか来るべき別れの日を、少しでも遠ざけるために。
    「話しても構いませんがねェ……あなたがこんな甘ったるい菓子を食べさせるから、喉が渇いてしまいました」
    「確かに茶が欲しくなる甘さだ。あったかいの淹れてこよっか」
     モクマは立ち上がり、勝手知ったる調子で部屋の急須で茶を淹れる。
     麩菓子を食べながら、ゆっくりと聞かせてもらおう。ふたりの道行き《将来》の話を。
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    tobari_2p

    DONEモクチェズ版ワンライお題「怪談」
    もはやワンライじゃねえんですけど…っていう恒例の遅刻魔ぶり…。
    ゲストにリモートなアとル。諸君はミカグラ後も定期的にオンライン会合してるとよいなっていう願望を詰めました。チェが名前しか出てこないけどモチェです、と言い張る。
    それにしてもお題怪談なのにぜんぜん怖くないな!
    憑いているのは……?里を出て二十数年になるが、外界の技術の進歩は目覚ましいものがある。
    出奔した先で便利な道具に触れるたび、モクマは目を瞠ったものだ。
    そして今もその便利な道具に助けられ、大切な仲間と定期的に連絡を取り合えている。
    『……で、ですね、署内の人間の間で噂になっているんですけど、遅くまで残業していると必ずどこかから呻き声が聞こえてくるんです……僕もこないだ残業してたときに聞いてしまって……』
    分割されたPC画面の向こう側でルーク・ウィリアムズが落とし気味の声で囁く。
    モクマは神妙な面持ちのルークにどう返したものか、といつものへらりとした笑みを崩さぬまま考える。
    『……なんだそれ。寝ぼけてんのか』
    と、モクマが返答する前に、分割されたもう一方の画面に表示されたアーロンが呆れた様子を隠しもせず言い放つ。
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